第3話 オムレツ
翌朝、起きると玉枝は九郎の左腕につかまって寝ている。左腕から柔らかい感触と胸のボリューム感が伝わってくる。
昨日と同じなので赤くはならないが慣れない。だいたい、ネグリジェ姿の玉枝には目のやり場がない。
九郎は、玉枝をそのままにして、朝食の用意をする。とはいっても食パンを焼くだけなのだ。
はっきり言って料理はできない。彼はパンを食べ終わると着替え始める。
玉枝が起きてくる
「九郎ちゃん、どこかへ行くの。」
「今日は大学の入学式です。」
「私もついて行ってあげるわ。」
「行っても面白くありませんよ。」
「つまらなかったら帰るからいいわ。」
玉枝は、ネグリジェ姿からスーツにスカートに変わる。彼女はついて行く気、満々である。
九郎はどうせ人には見えないから構わないと思う。
大学までは歩いて10分である。
九郎の横には玉枝がいる。スーツ姿は大学生には見えない。まるでOLである。さらにお色気が追加されている。
玉枝は九郎に言う
「うれしいでしょ。」
「うれしくありません。」
「かわいい子、いるといいね。」
「女の子を探しに行くのではないです。」
「何が楽しみで行くの。」
「今日は入学式ですから。」
「大学は何のために行くの。」
「勉強とかするためですよ。」
「つまらない目的ね。女の子目当ての方が健全よ。」
「僕のことですから、構わないでください。」
そこで九郎は周囲の視線に気づく。玉枝は周りの人に見えていない。九郎は、独り言を言いながら歩いていたことになる。
玉枝もそれに気づき謝る
「ごめんね、九郎ちゃん変な人になっちゃった。」
九郎は黙り込む。外では、玉枝とうかつに話せないとわかる。
今日は式典とオリエンテーションで終わる。大学初日は、友達も知り合いもできない。九郎は、ちょっと人に接するのが苦手なのである。
帰り道、九郎はコンビニに寄り、弁当をかごに入れる。
玉枝が九郎に言う
「何買っているの。」
「夕食です。」
「作らないの。」
「料理できませんから。」
「そう言えば、朝パンだけだったわね。卵を買っていきなさい。」
「なぜです。」
「朝、オムレツ作ってあげる。砂糖と塩とケチャップあるよね。」
「ケチャップはありません。」
「ケチャップも買いなさい。」
「作れるんですか。」
「明日のお楽しみよ。」
九郎が気づくと店員が九郎の独り言に引いている。彼は恥ずかしくなり、そそくさと卵とケチャップをかごに入れて会計を済ませると足早に立ち去る。
部屋に帰ると九郎は玉枝に聞く
「これまでの住人が出て行ったのは玉枝さんの仕業ですか。」
「驚かすつもりはなかったんだけど怖がらせたみたい。」
「僕と同じことをしたのですか。」
「私が見えるか試したわよ。」
九郎はそれが怪奇現象の正体だと判断する。
「僕が部屋を見に来た時にはいなかったですよね。」
「私、昼間は外出しているから、部屋にいるのは夜よ。」
「外で何していたんですか。」
「私が見える人探していたの。前の人は死んでしまったから。」
「殺したんですか。」
「なんで友達を殺すの。老衰よ。」
「僕には友達以上のことしますよね。」
九郎は玉枝との混浴と添い寝に抗議する。
「前の人は女性よ。今度は男の子だから世話焼きたいのよ。」
九郎は、玉枝の行為は度を越えていると思う。
翌朝の玉枝の作ったオムレツは美味しかった。
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