第4話 気になる彼女

 大学に入学してから1週間、九郎の食事は改善される。玉枝が料理をしているのだ。

 朝は、ごはん食になり、昼の分も弁当を作ってくれる。買い物は、コンビニからスーパーに変わる。

 九郎は、玉枝に指示されて食材を買うため、行先はスーパーになる。

 驚いたことに玉枝は食費を安く抑えることを知っている。そういうことは、前に一緒にいた女友達から学んだそうだ。

 しかし、あいかわらず添い寝と混浴には、九郎は困っている。相手は美人だが怨霊なのだ。

 彼は毎日、忍耐力を試されている。

 昼、食堂に行くと九郎にとって大学で話をする数少ない知り合いの同じ学部の木村きむらつよしが話しかけてくる。

 九郎は、まだつよしのことを友達とは思っていない。つよしは九郎の前に座る。

 九郎が弁当を広げると

 「今日も弁当か。彼女の手作りか。」

 「違うよ。」

 「彼女のようなものでしょ。」

玉枝が抗議する。

 「翼は料理できるのか。」

 「出来ないよ。」

 「なら、この弁当はなんだよ。」

 「ひみつ。」

 「女の匂いがするな。」

九郎は黙秘する。玉枝のことは口が裂けても言うわけにはいかない。それに、怨霊が弁当を作っていると言っても信じないだろう。

 ちなみにつよしは学食のAランチを食べている。

 午後の講義になる。九郎は、まじめに講義を受けているわけでなく、斜め前に視線が行っている。

 そこには同じ学部の社本しゃもとあやめが座っている。肩まで伸ばした黒髪がきれいな色白の女性である。

 玉枝が九郎に言う

 「あの子のこと好きでしょ。」

九郎は黙っているが顔が赤くなる。

 「私がきっかけ作ってあげる。」

玉枝はそういうとあやめの席に近づき机の上の消しゴムを転がす。

 消しゴムは九郎の席まで転がってくる。九郎は消しゴムを拾うとあやめに渡す。

 あやめは九郎に礼を言う

 「ありがとう。」

 「うん。」

九郎は返事をすると席に戻る。玉枝が抗議する

 「チャンスなのに、うんて何なの。気の利いたこと言いなさいよ。」

九郎は玉枝を無視する。

 講義が終わるとあやめの所に1人の男子が来る。あやめと男子は話をしてから男子はあやめの所を離れる。

 その間、玉枝はあやめの隣で会話を聞いている。そして、彼女は九郎の所に戻ってくる。

 九郎は、ちらっと玉枝を見てからそっぽを向く。

 玉枝が九郎をからかうように言う

 「気になるでしょ。知りたい?」

 「教えてください。」

九郎は人に聞かれないように小声で言う

 「あの男の子、口説いていたわよ。」

九郎がびくっと反応する。

 「でも振られたわよ。」

九郎はホッとする。

 「九郎ちゃんは見ているだけなの。」

九郎は返事をしない。

 次の講義が始まる。また、玉枝はあやめの消しゴムを転がす。

 消しゴムは九郎の席まで転がってくる。

 九郎は消しゴムを拾うとあやめに渡して言う

 「どんぐりみたいだね。」

 「そうね、ありがとう。」

あやめは礼を言う。

 玉枝はあきれて言う

 「もっと気の利いたことは言えないの。」

九郎は、どんぐりはないよなーと反省している。

 講義が終わり、九郎が帰ろうとするとあやめが話しかけてくる。

 「どんぐり君、ありがとうね。」

 「僕は翼九郎だよ。」

 「翼君、私は社本あやめ。」

 「社本さんは帰るの。」

 「ええ、友達と帰るわ。」

 「残念だな。さようなら。」

 「また、明日。」

あやめは女友達と帰って行く。

 玉枝が言う

 「もっと、押していかないか。チャンスだったのに。」

 「今日は名前聞けたからいいよ。」

九郎は満足したらしい。彼女どころか女の友達もいない九郎にとって気に入った女の子との会話は素晴らしいことなのだ。

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