第4話「見習い騎士の落ちこぼれ 2/2」

「マジですか! よっしゃー初任務! バッチリやり遂げてみせますよ先輩!」


「誰が先輩だ! いいか、貴様はあくまで見習い騎士なのだ。任務と言っても──」


「任務ってことはお仕事ってことで、お仕事をひとりで熟すってことはつまり一人前ってことですよね! 一人前の見習いとかいう半ライス大盛りみたいな矛盾に満ちた存在なんて栄えある法騎士団に存在するわけありませんし!」


「貴様……! ふざけおって……!」


「ハッ! 先輩! ふざけておりません!」


 辞令を言い渡しに来た法騎士に対し、胸に拳を当て直立不動で敬礼をするシィラ。その敬礼の姿勢だけは完璧で、中身を知らなければつい見惚れてしまうほどだ。その姿だけ見れば誰も彼女を見習い騎士だとは思わないだろう。

 それを「外面だけは良い」と感じた法騎士は忌々しげに舌打ちをした。


「チッ! もういい! 貴様とこれ以上話していても時間の無駄だ! さっさと調査に取りかかれ! 場所はインサニアの森の外縁部だぞ! いいか、もう一度言うが、貴様は見習いだ! くれぐれも──」


「ハッ! 了解しました! ところで先輩。調査って具体的に何すればいいんですかね。あたしってほとんど騎士団の敷地から出たことがないんで、どこ行って何すればいいのかよくわかんないんですが」


「そんなもの……! 依頼主に話を聞くとか、現地で聞き込みをするとか、色々あるだろう! そのくらい自分で考えろ! そんなことより、貴様は見習いなのだから──」


「ハッ! 依頼主に話を聞いて現地で聞き込みをしてきます!」


 シィラは再度敬礼をし、騎士団駐屯地を後にした。


「──見習いなのだからくれぐれも無理は……チッ! 人の話も満足に聞けんのか!」


 法騎士の言葉はシィラの耳には届かなかった。

 

 基地を出てからシィラは依頼主が誰だかわからないことに気がついたが、盗賊団討伐となれば目的は治安維持、治安維持は本来為政者の仕事、となると依頼主はきっと領主だろうと、領主の住むアルゲンタリア城に向かうことにした。



 ◇



「たのもー!」


 と、シィラは城の門前でそう声を張り上げた。

 次の瞬間、二人の門兵に槍を突きつけられる。


「な、何だ突然! 誰だ貴様は!」


「あ、お勤めごくろーさまです! 私はミドラーシュ教団法騎士団東方方面軍所属、一人前の見習い騎士のシィラです! 今日は盗賊団討伐の依頼についてお話を伺いたく参上しました!」


 シィラの名乗りに、門兵たちは顔を見合わせた。


 この女の名乗りを信じるならば、どうやら教団の騎士であるらしい。言われてみれば確かに法騎士の鎧を身に着けている。

 しかし盗賊団討伐の依頼というのはよくわからない。このアルゲンタリアの領主たるアルジェント伯爵は、人類領域でも辺境と言われる地域に居を構えているだけあって、法騎士の力に頼る必要がない程度には強力な軍事力を保有している。門兵たち自身もその一員だ。

 他の都市、特に自前で戦力を用意できない領主であれば、ミドラーシュ教団との契約によって法騎士団に治安維持を任せているケースもある。そうではないこのアルゲンタリアでは、法騎士団はインサニアの森の調査を行う教団所属の修道士の護衛が主な任務となっているはずである。アルジェント伯爵より依頼を受けて盗賊団討伐をするなど考えられない。

 伯爵には治安維持をアウトソーシングする理由もメリットもないし、法騎士団にもそんな余計なお世話を焼く理由も余裕もないはずだ。東方方面軍と名前はついているものの、その実態は調査騎士団とでも呼ぶべきで、他の方面軍ほど大規模な戦力は持っていないと聞いている。


「何を言っているんだ、貴様は……。本当に法騎士なのか?」


「失礼な! 本物ですよ! ちゃんとひとりで任務を任されるくらいには一人前です! 先輩が言うにはまだ見習いなんですけど!」


「バカを言うな。一人前の見習いなどという血統書付きの雑種みたいな妙な騎士なんているものか」


 シィラを怪しんだ門兵はぐいっと槍をさらに突き出した。


「──騒がしいな。この城をアルゲンタリア伯の居城と知っての騒ぎか」


 そこへ、門の中からいかにも貴族といった出で立ちの中年男性が現れた。シィラの大声や門兵たちとの問答を聞きつけてきたようだ。

 中年貴族は門兵から経緯を聞くと、何かを察したようにため息をつき、シィラに告げた。


「……なるほど。教団の……。……見習いだと? チッ。厄介者の押し付けはお互い様というわけか。

 いいだろう。そこな女騎士。ついてこい。貴様が会いたがっている依頼主に会わせてやる」


 おっさん貴族はそう言うと、スタスタと門の中へ入っていってしまう。

 本当に門の向こうへ行っていいものかどうか判断がつかなかったシィラは、未だに槍を構えたままの門兵たちにうかがうような視線を向ける。すると彼らは槍を収めて肩をすくめてみせた。面倒だから関わりたくない、と言わんばかりの態度だ。

 仕方なく、シィラはおっさんの後を追った。


 終始不機嫌な彼に案内されてたどり着いたのは、アルゲンタリア城の敷地の端にひっそりと建つ、蔦に覆われたみすぼらしい離れだった。




 ★ ★ ★


お読みいただきありがとうございます。

次回は蔦の館に住む依頼人の話です。

いったい何戻り令嬢なんだ()


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