第11話 いつもと違う朝が来た 後編

 ━━憩いの宿レオノール━━



 外出の着替えを済まし、扉を開け外に出ると。

 昨日到着した夕方よりも外観が良く見えた。


 形状は他の建物とあまり変わらないが、全体が濃いめの水色の綺麗な宿だ。濃いなら青じゃ無いかと言われそうだが、ギリギリ青に届かないそんな色をしている。


この宿の名前レオノールの由来は、と言う意味を持っているらしい。天からの光を受け、宿泊客の心身が安らぐことを願う。名前をオーナーが付けたらしい。


「行ってらっしゃいませ」


ご丁寧に外で朝から掃除をしている従業員に声を掛けられた。本当にサービスが行き届いている。何だか本当に偉くなった気分だ。


「では、待ち合わせの噴水前に行くか」


「はい、父上」


僕らは昨日の冒険者の何人かと合流する事になっていた。トロイさんとケイラさんは依頼の仕事らしく、ドワーフのジルスさんとエルフのメルさんが僕の鑑定に付き添ってくれる事になった。



「父上、あれでは無いですか?」


「おお、そうだ。あそこだな」



 思いの外道に迷った。ようやく待ち合わせ場所に僕等は到着した。てっきり父は何度も此処に来ていて詳しいと思っていたので、僕は疑問を投げかけた。



「父上はこの町に来られた事は有るんですよね?」


「有るには有るんだが、昔私は王国に直接、騎士として仕えていてね」


「一級剣士だったんですよね?」


「そうか、もうメルに聞いていたな」


「はい」



 自称三級剣士と聞いて居た時は、父上は弱いのでは? と思っていたが実は全く反対だった。実は父は物凄く優秀な剣士だったのだ。あの時三級剣士と答えたのは、恐らくキマイラとの戦闘で負傷した現在の身体では当時の力が出せないため、ああ答えたのだろう。



「当時私は国を守る為、魔物の討伐をするのが毎日だった。その為、今の様にのんびりと観光するような時間は無かったんだよ。この町はね、私達が住んでいる町、イスカへ行く為の通り道としてしか実はこのオートナーリアには来ていないんだ」


「そうだったんですね。見てください、綺麗な噴水ですね」

(過去の傷に触れるのは止めておこう)


「ああ、そうだな。とても綺麗だ」


「はい。」


「メディウスよ!?」



 父は先程よりも真剣な眼差しで、僕に何かしら言いたげな様子だ。しかし何かを言いかけたその時、噴水の真向かいから聞き慣れた声が入った。そこで、その会話は途切れた。



「お待たせしましたーー」


「待たせてすまんのぉ」


「いや、我々も今仕方着いたところだ。思いの外道に迷ってね」


「そうだったんですか、それなら直接宿で合流すれば良かったですねえ」


「ワシらの宿より、ノラン殿が宿泊している宿からの方がこの場所は近いので、指定したんじゃが………こりゃ失敗じゃのうぉ」


「いや、大丈夫だ。気にしないでくれたまえ。それより今日は息子の為に時間を作ってくれて有難う。感謝する」


「いえいえ全然」


「僕の為にありがとうございます!? メルさんジルスさん。ところで………」


「うん、なんかおかしいかの?」


「どうされました? 何か変でしょうか?」


「あっ、いえ。昨日と全然恰好が違っていたので」


「ああ、その事かい」


「なんだその事ですか。今日はメディウスさんのお誕生日じゃないですか。だから、少しおめかししたんです。やっぱりどこか変でしょうか?」


「いえ、物凄くお綺麗です。何処かのお姫様みたいです」


「わあ、ありがとうございます!?」


「わっ、儂はどっ、どうかのう?」



 そう彼は言うと、鼻を開閉しながら、色々なポーズでアピールした。

まるで求婚をする雄鶏のようだ。



「ジルスさんも戦闘服と異なって、パーティドレスだとダンディでカッコイイです。ただ………」


「? 何処かおかしいかの?」


「あの、大変申し上げにくいのですが、その頭のはなんですか?」


「ん? いや、これはメルが最近の流行りだと。メル!?」


「ンククク、よっ、良くお似合いですよ、その赤いリボン、ンククク」


「ああ、大変………おっ、お似合いだと私も思うぞ、ンオホンッ、オホン、これは失礼」


「可愛いと思います」


「メル!? お前はまた儂を騙したのか? 何回目だ!?」


「えっ? えっと………それより鑑定しに行きましょうか? ノラン様」


「うん……そっそうだな、そっ、それが良さそうだ」


「ノっ、ノラン殿まで!?」


「ジルスさん、カワカッコイイからいいじゃないですか!? 似合っていますよ」


「そっ、そうかの!? そうかそうかカワカッコイイか!? よぉ~~しじゃあ鑑定しに行くかのぉ~~」



 すっかり機嫌がよくなったジルスさんは、腕を大きく交互に振りながら、歌を歌い先頭を歩きはじめた。まるで、リボンも気分が良いのか、左右に大きく揺れていた。その後ろでは、そっと拳を合わせてほくそ笑む父とメルさんの姿が有った。


 鑑定が楽しみでならない。

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