第13話 心の中のマケルシカ 後編
「せっかくの誕生日だ。少しでも景色が広いほうがよかろう」
「え~~ジルスさん良いですよ、あっ歩けますから」
「そうですよ、ジルス。メディウスさんはアナタの肩の高さじゃ対して変わらないとおっしゃってますわ」
「おいっ、メル!? お前は今日は良く儂に絡むの~~」
「しかしそうじゃの、お主の言う遠りじゃわい、儂の様な背の低いドワーフに担がれても嬉しくないわな」
「そんなことないです。さっきよりも、お陰で僕の視界が広くなりました」
「そうか、そうか!? ガハハハハ」
泣いた後、自分の中で何かが覚醒し、宙に浮いたのかと思い一瞬嬉しくなったが、違った。でも、ジルスさんの優しにまた違う嬉しさを感じたので、別にそこまでガッカリする事は無かった。
「ところで、鑑定所は何処ですか?」
「あれじゃ!?」
「えっ? これって教会じゃ?」
「そうとも言うの」
「教会ならイスカの町にも有るんじゃ?」
「メディウス、確かに教会は私達の町にもある。だが、鑑定士はあそこにはいないのだよ」
「そうなんですね。父上」
眼の前には、太陽か花をモチーフにしたシンボルが飾られていた。そして階段の近くでは幾人かの人が大粒の涙を流し、多くの花束が飾られている前で何かに向けて祈りを捧げていた。
「父上、あれは」
「こらメディウス、人前で指をさすものじゃない」
「ごめんなさい」
「(あれは恐らく、勇者様を弔われているのだと思われます。メディウスさん)」
悲痛な顔を歪めて、祈りを捧げる勇者信仰の人の邪魔をしないように、メルさんは僕の耳元でそっと教えてくれた。
「儂らも、少し祈らせてもらうかの。お会いしたことはないが、いまの世界が有り続けるのは彼が我々のために命を賭して戦ったくれたからじゃ」
そう言うと、ジルスさんは一旦肩から僕を下ろすと、一人花束の前まで歩を進めた後、片膝をついて胸に手を当てると瞳を閉じた。それに習うかのように父様とメルさんも膝をつくと同じ動作をし、黙祷を始めた。一人突っ立ているのは気まずいので、意味も分からずに僕も同じ動作をすることにした。
「力不足で面目ない。申し訳ないが、この世界は君に託しますね」
!?
僕はびっくりして、瞳を開けて周りを振り返った。ジルスさんメルさんそして父様は相変わらず剣を模した石の前で黙祷を捧げていた。他の信者と眼が合ったので、また慌てて瞳を閉じるとまた声が聴こえてきた。さっきよりもハッキリと。
「驚かせて済まない。私は元勇者、ルーザー。まだ君は真の力に目覚めていないようだけど、神様から君はこの世界を救うために召喚された。そう、僕の後継者に当たる。アレ? でも勇者では無いのか? どういうことだ? 少し歴代の勇者とは違うようだけど、君は次の救世主で間違いないようだ」
彼の声は外からではなく、どうやら直接僕の脳内へと伝わっているようだ。彼の語る内容があまりにぶっ飛んでいたので、理解ができなかったが、僕が救世主になるとの事だった。僕も彼のように口から声を出さずに、心に語り掛けるように話し掛けた。
「僕が救世主ですか? そのはずがありません。僕の勇者になる確率は対象外ですよ!? それに加護に一つもこの世界の要素が無いんです」
「そんな筈は!? えっ、マジで? うわっマジじゃん。あれっ? 俺って声を掛ける子間違えた? でも、此処に来るって神様からお知らせメール有ったんだけどな~~君はメディウス君で、今日5歳になる男の子だよね?」
「はい、そうですけど」
(なんか、この人さっきよりどんどん軽い話方になっていってないか?)
「いや、ごめん話方軽くなってた? そういうつもりは無いんんだけど」
どうやら、元々心の中に話し掛けているから、思っている声もそのまま彼に聞こえてしまうらしい。なるべく余計な事を声には出さないように、自分が思っている疑問について質問することにした。
「あの質問があるのですが?」
「何かな?」
「僕に話し掛けられるなら、まだ勇者様はこの世界に存在してますよね?」
「うん、まだ魂わね。でも、もう肉体を失って復活は出来ないんだ」
「魔法でも駄目なんですか?」
「うん、そんな魔法は存在しないね。死んだら基本そこで終わりだよ。首語と飛ばされて、身体は木端微塵にされからね。それにもし僕がこの世に復活したとしても、僕ではとても彼等には叶わない」
「そんな、でもあなたは勇者様で、この世界最強の人でしたよね?」
「そうだね。確かにそうだった。でも、世の中には想像を絶するほど強い奴はいるものだよ。戦う前は僕も余裕だったんだけどね。実際に対戦して分かったんだ、あっ、無理だ。コイツに殺されるの確定だって」
「勇者様は一体誰に殺されたんですか?」
「君には教えるが、此処での話はくれぐれも他言無用で。僕は魔王の六魔将の一人、パーXXゲXズにころさ ズズズズ」
名前を聴こうとしたところで、何かに音を遮断され、そのまま勇者様と交信が途絶えた。
「どうした? メディウス」
「いえ、勇者様の声が……」
勇者と言う言葉を聴いて泣いていた信者達が一斉に僕の方に振り向いた。
━━くれぐれも他言無用で
僕は彼の言った言葉を思い出し、慌てて口を噤んだ。黙ったままではまずいので適当に誤魔化す事にした。
「勇者様のお声を聴いて見たかったなって、そうお会いしたかったなって思ったんです」
そう言うと、女性の信者がぜひと一輪の花を渡して来た。
「これは、なんの花ですか?」
「勇者ルーザー様が生誕された故郷ヨワイノ二ネに咲く花でマニカテンと言います。ところで坊やは今幾つ?」
「僕ですか? 今日で『この子は今年で4つになります』え~~とはい4歳です」
「うちの息子に何か?」
メルさんはまるで本当の母の様に強い視線を彼女に向けるた後、庇う様に僕を抱き締め、彼女の視界から見えなくした。
「いえ、別に。ちっ、ハーフエルフの子か」
危ない所だった。父様が目配せしてくれなかったら、危うく今日誕生日で、しかも5歳と言ってしまう所だった。もしそんな事をこの場でポロっと言ってしまったら、彼等の僕を見る目が一気に変わるに違いない。
何故なら、僕は勇者が亡くなってから生まれ変わる可能性がある日と、そして勇者が亡くなった年に生まれている。そのどちらにも当て嵌る少年が目に前に現れたら、恐らくどの場所で有ろうが、信者にとっては大事件だ。
━━勇者の生まれ変わりが現れたと━━
でも、メルさんの咄嗟の機転のお陰で、視線を向けていた信者達は一気に僕から興味は遠のいた。そうハーフエルフの子どもと言うミスリードだ。勇者は人間と人間の間にしか産まれない。混血児と認識された僕は全くの対象外となった。
「さて、ほんなら鑑定しに行くかの」
「そうですね」
僕も彼等の声へ倣う様に教会の入口へと続く階段を上って行った。心の中で響いたルーザー・マケルシカナイトについては父と彼等にも内緒だ。
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