第2話 メディウス爆誕


 僕の名前は田中勝利、じゃ無くて、だ。今は志望校を目指して受験勉強の真っ最中。今週末には模擬試験もあり、志望校のA判定を目指し、今日も塾に通っていた。


 そんないつもの帰りにそれは起きた。

今日塾でやった数学の問題で、どうしても解けない問題が有ったのだ。


 歩きながら考えていたのが行けなかった。


僕は鞄から赤本を取り出して、無我夢中で問題の復習をしていた。昔から納得するまで、そらでも言えるくらいまで、覚えれないと満足できない性格だった。


周りの音よりも自分の声が耳に入るだけの音量で、ブツクサブツクサ問題の解きかたを呟いていた。それが、良くなかった。



「危ない!?」





キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?






最期に僕が聴いたのは、見ず知らずの女性の声だった。




 気付いた時には遅かった。


 赤本を夢中で読んでたため、信号無視をした僕はそのままバイクと激突、その勢いで道路のどまん中へ飛ばされた。バイクだけで済んだなら、入院程度で済んで居たかもしれない。


 青信号の車は急には止まれない。大量の砂を背負ったダンプカーは、急に飛び出した肉の塊を、轢き殺すには十分な勢いと重さを備えていた。


 音は多分、グシャとか、グチャだとか、ブギャっといったところだろう。僕は親孝行もせぬまま、最期に醜い音を立て死んだ。








 ゴギャッ!? (どうやら、どの音とも違った)





 そうやって僕は死んだと言うことらしい。


 何で知ったかって?


 それは僕が転生する前に神様に説明されたからだ。本当に良く有るパターンなんだけど、真っ白な世界に玉座が有って、白髪の老人が座って居た。


 高一の時まで、週刊少年ランプとかメガジン等の雑誌をよく読んでいたのだが、その中で特に冒険ものとかヒーローものにあこがれていた元中二病の自分としては、女神様じゃ無かったのが少し残念では有った。


 少し違ったのが、どうやら僕は死んでから数年経過していたらしい。てっきり、死んでからスグにこの場所に連れて来られたと思っていた。


 冷凍保存ですか? と問いかけたが、『そんな訳あるか』と苦笑いされた。


 どうして数年の記憶が無いのかについては、結局有耶無耶にされた。

今回呼び出されたのは、僕に順番が回って来たのだとか。


 転生先が決まった。そう彼は言った。

場所は、新たに創った世界で、まだ数千年の規模しか経って無いまだ産声を上げたばかりの世界。


 しかし、そんな世界でも問題は発生する。それを修正するため、神の遣いを派遣したのだが、その問題なるものに消されてしまったらしい。



「ちょっと、待ってください」


「何だね?」


「転生先は平和な世界じゃないのですか?」


「至って平和では有る。じゃが………」


「あのぉ~~なんで、そこで言葉が止まるんですか?」


「何処の世界にも悪は存在する」


「はあ………じゃあ、神様が直接行けば済む話じゃないですか?」


「それが出来れば、儂も困っておらぬ。じゃが、無理なのじゃ」



 神は自ら創造した世界には直接干渉しては行けないらしい。理由は同じ様にはぐらかされて、教えて貰えなかった。しかし、そういうものなのだそうだ。『そういうものなのだよ、分かるかね、キミ』と強引に眼で訴えられたので、僕は彼の迫力にたじろぐしか無かった。


 因みに世界を創造する時にバランス良くする為に、火、水、風、土、光、闇の要素を均等に配置し、世界を形成するらしいのだが、今回何らかの要因が働き、光の力が弱まったのだとか、そのバランスが崩れたため、異空間から魔の者の干渉が発生し、世界の秩序が乱れ始めたらしい。


 この由々しき事態に、神は転生予定者をこの新世界へ飛ばし、この混沌を正そうとしたのだが、今回その選定された神の遣いは敗れてしまったのだとか。



「あのぉ~~質問してもよろしいでしょうか?」


「何なりと申してみよ」


「その神様の使者って言うのは?」


「勇者じゃ」


(ちょっと待った。勇者って言えば最強じゃ無いの? そんな彼か彼女かしらないけどさ、そんな凄い人が殺されたって事でしょう?)

(そんな世界に僕をどうしようと?)


「勇者が倒された世界に何で僕を?」


「安心せい、お前さんにも我等の加護を授ける」


「加護?」


「そう、いろんなスキルに加え、普通の人間には授かる事の出来ない大いなる力じゃ」


「いや、だからと言って、僕なんかが、何で勇者を選ばないんです?」


「ん? 何を言うておる。次の勇者はお前じゃ」


 

 次の勇者はお前じゃ

  次の勇者はお前じゃ

   次の勇者はお前じゃ

    次の勇者はお前じゃ

     次の勇者はお前じゃ

      次の勇者はお前じゃ




「ちょっと、待ってください。僕はさっきまで、じゃなく数年前まではただの受験を控えた高校三年生の男子ですよ!?」


「じゃな」


「それに闘いの経験はおろか、喧嘩なんかしたことがない」


「そう、じゃろうな」


「そんな人間が剣を握って戦えって、おかしいと思いませんか?」


「まあ、そうじゃな」


「じゃあ」


「じゃが、前の勇者が死んだとはいえ、適当な者を選んでいるわけじゃないのじゃ」


「え!?」


「其方には、その素質がある」


「僕に素質が………」

(何か言いように言いくるまれてる気がするが)


「頼む、この新世界は救ってはくれまいか、いまも苦しんでいる罪の無い人々がアソコにはおるんじゃ」



そう言うと、信じられなことに僕の前で力の無い感じで床に膝をつくと、首を下げて懇願する神の姿が有った。



「儂は、儂は情けない神じゃ」


(なっ、泣いてるのか?)



「まっ、待ってください。神様、頭を上げてください」


「いや、其方が承諾してくれるまで、私は頭を上げん」


「いや、あんた神様でしょ? 人に頭を下げて恥ずかしく無いんですか?」


「恥ずかしく等無い、世界が救われるのなら、これくらい………なんてことない」



 この目の前で起こっている光景を両親が見たら、どう思うだろう?クラスの皆が見たら、どう思うのだろう? 神様が土下座をしている。


 あの神様が………此処まで必死に頼まれたら、

 僕は覚悟を決めた。



「分かりました」


「それでは!?」


「でも、勇者はやりません」


「何ですと?」



 神様から素っ頓狂な声が飛び出した。僕は誤解の無いようにスグに僕の真意を伝えるため、たどたどしくは有るが、続きを話し始める事にした。



「でも………」


「でも?………」


「この新世界を救って見せます」


「勇者じゃ無いのに、どのように?」


「勇者を今回葬ったのは誰ですか?」


「魔王ギルモア・ダークじゃ」


「魔王ですか、なら一番強い相手と勇者は戦ったんですね」


「いや、正確に言うと、魔王の配下の六魔将の一人にやられた」


「魔王の部下にやられたんですか?」


「そうじゃ」


「それなら、なおのこと、僕は勇者はやれません。いや、やりたく有りません」


「なら、どうするつもりじゃ?」


「相手が魔なら、僕も魔で向かいます」


「魔で向かうとは?」


「向こうが魔王なら、僕は魔法王になります!?」


「魔法王? そんなの初耳じゃ」


「はい、僕が考えましたから」


「よし、分かった、では其方にはありったけの魔法の加護を与えよう」


「ありがとう御座います。それと………」


「それと、なんじゃ?」


「僕は元来気の弱い性格なんです。転生したら、是非堂々としたな性格にしてください」


「オラオラ?」


「何に対しても物怖じしない、強い心の豪気な男になれるよう転生して貰えませんか?」


「それと……」


「まだ有るのか?」



 僕はこれから死闘を繰り広げる世界に飛び込む前に、ありったけの厨二病知識から色んな願い事をした。



「うむ、承知した。そう言えば記憶なんじゃが、転生し、成長する過程で忘れる場合が有る。こればかりは儂ではどうする事も出来ん。約束は守るが 、ソナタが忘れたら終わりじゃ」


「分かりました。でも、本当にお願いしますね」


「分かっておる。善処する。では行くぞ………」


 こうして、僕こと勝利は、魔法王メディウスと言う名の、俺様キャラとなって転生する事となった。



 そんな物語である。


 


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