第4話 セイギ・ドリッチ・カイドウVS黒い騎士と五人の子供 19 ―地獄の……現る―
19
「んっ?!」
「嘘だろ……」
「え!!」
「マジ?!」
セイギ以外の、カイドウ、金城、藤原、ドリッチは皆、聞こえてきた遠吠えに耳を疑った。
「あっ……やっぱ聞こえた?」
セイギは頭を掻いた。カイドウからの指摘を受けて『確かに、裏世界には自分達以外の生物は居ない筈だよな?』と疑問を持った矢先だったからだ。
「セイギさんの言う通りだ。遠吠えが……なんで?」
「なぁ優、今度は犬が連れ込まれたのかな?」
「そんな訳ないやん……それに、今の遠吠えは犬の声よりも太くて重たい感じやったで? 狼みたいや……」
カイドウと金城と藤原が顔を見合わせて各々の意見を言っていると、
「あっ!!!」
ドリッチが叫んだ。
「ギッチョン見て!!!」
彼女は指を差している。
それは斜め上、空に向かって……だ。
「なんだ? どうした?!」
ドリッチとセイギは向かい合って立っていた。セイギが彼女が指差す先を見るには振り返らなければならない。
本郷には40階建てのマンションがある。高さ150mを超えるマンションだ。このマンション以上に高い建物は本郷には無く、本郷の何処からでもマンションは見える。
勿論、振り返ったセイギの目にもマンションは映った。そして、ドリッチが指差す方向は40階建てのマンションがある方向だった。
「なんだ……マンションが揺れてるぞ」
40階建てのマンションはグラグラと揺れていた。
下から揺さぶられているかの様にグラグラと。
この様子を見た瞬間、セイギの頭には『地震か?』という疑問が浮かんだ。
だが、そうではないとすぐに分かる。他の建物は揺れていないし、公園の木々も揺れてはいない。第一、自分自身が揺れを感じていない。
ならば、何故40階建てのマンションが揺れているのか。セイギの頭の中の疑問が『地震か?』という疑問から『何故、マンションは揺れている?』という疑問へと変わった直後、40階建てのマンションはゲームオーバーのジェンガかの様に、またはダルマ落としかの様に、崩れ去った。
「なにっ?!」
「んっ?!」
「嘘だろ……」
「え!!」
セイギ、カイドウ、金城、藤原は今度は目を疑った。
「皆、驚くのはまだ早いよ!!」
次に、再びドリッチが叫んだ。
彼女は未ださっきと同じ方向を指差したままだ。
指差したまま、彼女はこう言う。
「目の錯覚じゃなければアタシは見たよ!! マンションに突進するデッカデカの狼を!!」
「デッカデカの狼ッ?!」
セイギはドリッチに向き直ろうと首を捻った、が捻り終わる前に再びドリッチが叫ぶ。
「出たぁッ!!!」
「え?!」
セイギは首を元に戻す。
ドリッチが指差す方向を振り返った。
「な……な、何だアレは!!!」
振り返った瞬間、セイギもまた叫んだ。
何故ならば、40階建てのマンションがあった筈の場所には、先程のドリッチが言った『デッカデカの……』という言葉通りの存在が居たからだ。
「な……何だアレ……巨大な狼?!」
それは狼、真っ黒な体の狼、遠くからでもその姿を見付けられる程に巨大な狼だ。
狼はマンションがあった筈のその場所で、筋肉に覆われた前足を持ち上げて吠えている。
「………」
「………」
巨大な狼を見た瞬間、金城と藤原は言葉を失った。
狼の吠え声は野太くて重い。最前に聞いた遠吠えと同じ声だ。
咆哮する顔に生えた毛は逆立っている。一本一本が鋭い。まるで剣山だ。
口の中に見える牙も同様、一本一本が鋭い、鋭くて太い。
狼の体には、顔以外には毛が無かった。毛が無い分、全身が筋肉に覆われている事が遠くからでもよく分かる。盛り上がった肩、そこだけ見れば象かと見紛う程に太過ぎる足……
「何なんだよアレは……怪獣か?」
狼はセイギ達から見て横を向いていた――その顔を見てセイギが呟いた。
「いや、違います!」
カイドウはセイギが口にした疑問を否定した。
横を向いていた狼は、セイギが疑問を口にすると、十分に吠え終えたのか、口を閉じて前足を下ろし、すぐにこちらを向いた―――こちらを向いた顔を見て、カイドウはセイギの疑問に首を振ったのだ。
「アレは……ケルベロスです」
カイドウが呟く。
「ケルベロス……?」
「そうです。あの狼、三つの首が生えてるでしょ?」
そして、こちらを向いた瞬間に判明した事がある。それは狼の更なる特徴だ。
狼は一つの顔ではなかったのだ………巨大な狼は三つの首を持っていたのだ。
「ケルベロスって……確か、昔持ってた妖怪図鑑に載ってたな。三つの首を持ってて、確か地獄の……」
「妖怪じゃないですよ」
カイドウはまたセイギの言葉に首を振る。
「ケルベロスは地獄の番犬です……」
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