第4話 セイギ・ドリッチ・カイドウVS黒い騎士と五人の子供 20 ―ガルルベロスッッッ!!!―
20
東京都郊外屈指の繁華街と呼ばれる本郷には、山脈の様にビルが建ち並んでいる。大体のビルが10階建て程度で、20階建て程のビルもあるがそう多くはない。
狼が前足を下ろすと、体はその建物たちに隠れた。10階建てのビルの高さは大体が30mくらい。狼の体長は40m程なのだろう。三つ首だけが未だセイギ達に見えている。
「ケルベロスは地獄の番犬です……」
己を睨む三つ首を見ながらカイドウは呟いた。
「そうそう、それだよ。地獄の番犬だ。漫画やゲームでしか見た事なかったけど、実物は随分デカいんだな」
「いや、実物も何も、アレは……」
カイドウはまたセイギの言葉に首を振ろうとした、しかしその前にセイギが止める。
「分かってるよ……アイツは本物のケルベロスじゃない。《王に選ばれし民》が作ったんだ。バケモノなのかな? それにしても、また悪趣味なものを………兎に角、あの狼がヤバイ奴なのは直感できる。今すぐドアノブを使って表世界に戻ろう!!」
セイギは背中を向けていたカイドウ達に向き直り、裏世界からの脱出を呼び掛けた………が、この言葉を聞いていなかった者が一人いた。
それはドリッチだ。
「だからアタシ『嫌な予感がする』って言ったじゃん! どうするの? 当たっちゃったよ!! どうしよう、どうしよう!!!」
ドリッチはそう言って腕時計を叩き《ドリッチフォーゼ》を発動させると、自分の背中に大きな翼を作り出した。
「あ、待て! ドリッチ、行くな!!」
ドリッチは狼の姿を確認した瞬間に『自分の予感が当たってしまった! どうしたら良いのだろう!』と混乱に近い考えで頭の中がいっぱいになってしまったのだろう。
そんな彼女の耳には制止するセイギの言葉も届かなかった。
ドリッチは狼に向かって飛んで行ってしまった。
「おい! 待てって!! 狼と戦う必要は無い!!」
飛び立った後に彼女はドリッチフォーゼで自分の両腕をマシンガンに変えた。その行動で分かる。ドリッチは狼と戦うつもりなのだ。
―――――
セイギの制止を聞かずに飛び立ったドリッチは、射程圏内に敵を捉えたかも確かめずに両腕のマシンガンを連射した。
「ララララララララ!!!」
叫べばその分弾丸の強さが増すと考えているのか、兎に角怒鳴りながらドリッチは発砲を続けた。
両腕をマシンガンに変えているのだから引鉄は引かない。彼女の意思によって弾丸は放たれる。
撃ちながらドリッチは背中の翼を羽ばたかせて狼に近付いていく。
叫べば弾丸の威力が増すかは分からないが、近付けば近付く程に与えられるダメージが増すのは確かだろう。彼女はソレを狙っていた。
飛ぶスピードはボッズーのビュビューンモードにも引けを取らない速さだ。
対して狼は吠えるのみ。
三つ首をドリッチに向け、大口を開けて吠えていた。大口を開けた際に垂れた涎が物を溶かすなどという事はなかった。ただ大きな雫が地面に落ちただけ。
しかし、吠えるだけでも狼はドリッチにダメージを与えられていた。
それは精神的なダメージ。
現在、彼女の仮面の中の顔は雨晒しに遭ったかの様に濡れていた。濡らすのは勿論、汗だ。尋常ではない汗がドリッチの緊張と恐れを表していた。
汗は引かない。流れ続ける。しかも、引かぬ汗はこの後更に増すことになる。何故ならドリッチは不気味な声を聞くからだ。
それは人語を話す声。人語としても流暢ではなく片言――ドリッチの耳に届いたのは、こんな言葉だった。
「《ガルルベロス》ハ、ソンナ弾丸ジャ傷ツケラレナイヨ」
「え……?!」
声を聞いたドリッチは耳を疑った。
ドリッチは狼が喋ったと思ったのだ。
だが、三つの首は吠え続けているから狼が喋ったのではないとすぐに分かった。
そして、驚いた時にマシンガンを撃つのを止めたから彼女はもう一つ分かった。
「ギッチョン!!」
分かった彼女はすぐに腕時計を叩いた。セイギに連絡をする為だ。
「ドリッチ!!」
腕時計からはすぐにセイギの声が聞こえた。聞こえると同時に腕時計の文字盤が開き、中からは立体映像でセイギの顔が飛び出した。
その顔に向かってドリッチは言う。
「ギッチョン! 騎士がいる!!」
……と。
「真ん中の顔の上!! 騎士が立ってる!!」
……と。
「騎士が……そうか」
興奮しきったドリッチと違い、セイギは静かに答えた。しかし、興奮するドリッチは尚も続ける。
「やっぱりアタシの予感が当たったんだよ! 騎士が消えたのは全然良い事じゃなかった!! 最悪の前触れだったんだよ!!!」
―――――
「そうか」
セイギは腕時計から飛び出る立体映像のドリッチの顔に向かって言った。
その返答は『最悪の前触れだった!!』と話すドリッチとは反対にとても静かな返答だった。
セイギはドリッチと違い一切興奮も混乱もしていなかった。何故なら、セイギは狼の出現によって場が乱されたとは思っていなかったからだ。
だからセイギはドリッチに的確に指示を出す。
「騎士がいるのか。それは分かった。でもな、ドリッチ、俺達は金城くんと藤原さんを救出できたんだ。もう既に裏世界に用は無いんだよ。狼や騎士と戦う必要はないんだ、すぐにこっちに戻ってくるんだ!」
叱責するに近い物言いでセイギは言った。
だが、セイギは怒ってはいない。文字通り巨大な敵が現れたのだ……彼女が慌てる理由は理解出来るし、ドリッチが皆を守ろうと飛び立ったとも理解しているからだ。
しかし、巨大な敵が現れた今、このまま裏世界に残り続ければ、ドリッチが口にした最悪という言葉に相応しい結末に陥ってしまう可能性があった。だから彼は厳しく言った。『戻ってくるんだ!』……と。
だが、それは遅かった。
セイギがドリッチに『戻ってくるんだ!』と呼び掛けた直後、騎士の声が聞こえたのだ。
騎士はドリッチに向かって叫んでいるらしかった。ドリッチに向かって叫ぶ声が、彼女の腕時計を通してセイギの耳に届いた。
「《ガルルベロス》ハ、至上最強ノ《バケモノ》!! 英雄ノ弾丸デハ倒セナイ!!」
騎士の声は感情の見え難いのっそりとした声だ。だが、今の騎士の声からは僅ながらにも興奮を感じた。
「………ッ!!」
騎士の声を聞いた瞬間、セイギの手は汗で濡れた。セイギは焦り覚えたのだ。
「マズイ!! 夢ッ、早く戻ってこい!!!」
焦りを覚えたセイギは叫んだ。セイギは直感したのだ。騎士が攻撃をしてくると。
そして、その直感は当たる。
「ガルルベロス!! 牙ミサイルヲ、黄色イ英雄二向カッテ発射ダァ!!」
「なにッ!!!」
騎士の叫びを聞いたセイギは腕時計に向けていた顔を上げた。
すると、見えた、狼の口内から――セイギから見て左側の顔の口内から――ミサイルが発射される瞬間が……
「夢ッ!!!」
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