第4話 セイギ・ドリッチ・カイドウVS黒い騎士と五人の子供 18 ―ドリッチの嫌な予感―
18
「金城くん!! 藤原さん!! 良かった、会えた!!」
カイドウは捕まっていた最後の二人との再会を喜び、目を覚ましたばかりの金城と藤原に抱き付いた。
場所はグラウンドに戻っている。カイドウとセイギは子供を撃破すると、壺とドアノブを持ってグラウンドに戻ってきたのだ。
――因みに、キックボードの子供が持っていた壺から出てきたのが藤原かなえ、大阪府出身の少女だ。そしてセイギが撃破した子供の壺から出てきたのが金城哲司、沖縄県出身の少年だった。
「優……お前が助けてくれたのか?」
金城は瞳を潤ませ、抱き付いてきたカイドウの肩に手を添えた。
「ありがとう……ホンマありがとな」
藤原は抱き付き返す。彼女の瞳からも涙が流れている。
この二人の涙は助かった安堵からか、それとも友達との再会を喜んでいるからか、きっとそのどちら共が正しいのだろう。
「良かった……本当に良かったよ」
二人の涙を見ると、カイドウの声も震え出した。仮面をつけているからその顔は見えないが、カイドウもまた涙を流しているのだろう。
「あ、でも金城くんはあの人にお礼を言って。金城くんを助けてくれたのは、あの人だから……」
両手に抱える形で、左手で金城を、右手で藤原を抱いていたカイドウは、金城を抱く方の手を離し、三人から少し離れた場所にいるガキセイギを指差した。
「あの人? ……あっ! 優、アレって!!」
「赤い英雄や……」
驚きからだろうか、金城と藤原の涙はセイギを見ると止まった。
「あ、そっか、金城くんと藤原さんは、空が割れた日の翌日に裏世界に連れ込まれたから、セイギさんの事知ってるんだったね!」
「あぁ、ニュースで見たぜ。『正義の心で悪を斬る』……そう言ってたよな?」
「うん、ネットでもめっちゃ拡散されてたで」
金城と藤原がそう言うと、
「ふふん! そっか、そっか、でも改めて紹介させて。彼は正義の英雄、ガキセイギさ! そして、僕の友達でもある!!」」
……カイドウは誇らし気に鼻を鳴らした。
―――――
カイドウ、金城、藤原が自分の話をしているなんて露知らず、セイギは腕時計を使ってガキドリッチと連絡を取ろうとしていた。
これは表世界のメンバーへの連絡のお願いではなく、ドリッチをこのグラウンドに呼ぶ為の連絡である。
セイギ達の裏世界での目的は金城と藤原を助けた事で達成された。セイギは助けた二人と共に表世界に戻ろうとしているのだ。
だからドリッチを呼ぼうと連絡をしているのだが、セイギの通信を受けたドリッチの第一声はこんな内容だった。
「ギッチョン、変なんだよ! 騎士が消えちゃったの!!」
「ん?」
セイギは唐突なドリッチの第一声に首を傾げた。すると、腕時計から立体映像で飛び出すドリッチの首も傾いた。
「『ん?』じゃないよ、ギッチョン! だ・か・ら!! 騎士が消えちゃったの!! アタシの目の前でデッカイ鍋に放り込まれて!! デッカイ鍋も一緒! 消えちゃったの!!」
ドリッチは『大変な事が起こった』という雰囲気で喋るが、セイギはドリッチの話を聞いても特に慌てない。逆にセイギの口ではフクロウが鳴く。
「ほぉ~~! それは不思議だなぁ。なぁ、デッカイ鍋って剛くんの話の中にあった《魔法の鍋》かな? 《魔女の子供》を産み出したっていう」
「う~ん……そうカモカモだけど、そんな事より! アタシは嫌な予感がするの!!」
「嫌な予感? それってどんなだ?」
セイギが聞くと、
「そんなのは分かんないよ! 嫌な予感なんだから勘だよ! だからアタシ、昨日からずっと騎士を探し続けてるんだけど、全然見付からないの! 騎士はキエキエ! 裏世界に居ないみたい!!」
ドリッチのこの回答にセイギは、
「へへっ! でもな、それは俺達にとって好都合な事だぜ! 騎士は俺達の邪魔物だ、消えてもらった方が好都合じゃねぇか?」
……と答えるが、ドリッチは「でもでも!」と続けた。
「でもでも! 嫌な予感がするの!」
「へへっ! 嫌な予感か、分かったよ。でもな、俺達の目的は既に達成したんだ。予感がするなら、それが当たる前にサッサと裏世界から出てっちまおうぜ! ドリッチも早くこっちに来い!」
セイギは自分達の居場所を伝えると通信を切った。
―――――
数分後、ドリッチは黄色い小鳥の姿でグラウンドにやってきた。
「こっちが金城くん、こっちが藤原さんです!」
《ドリッチフォーゼ》を解いてガキドリッチ本来の姿に戻った彼女に、カイドウは友達を紹介するが、ドリッチは腕を組んで「ども……」と頭を下げるだけ。時折「フン!」と鼻を鳴らし、その態度は不服そう。
「ドリッチ、その態度は感じが悪いぞぉ」
……と、セイギは言うが、
「フン!」
ドリッチは再び鼻を鳴らした。
「ちぇっ、まぁ良いや。それより、早くココを出ようぜ。グズグズしてたらまた二時半が来る。そしたら出られるのも明日になっちまう」
セイギはドリッチの態度に辟易としながらも、そう言って、両手に一個ずつ持ったドアノブを見下ろした。
「二体を同時に倒したから、ドアノブは二個あるんだよなぁ、一個余っちまうな!」
「壊しちゃったらどうですか? もう裏世界に用は無いんだし、なんなら、僕が叩き割りますけど?」
……と、カイドウはガキハンマーを構えるが、
「う~ん……」
セイギはドアノブを持った手でポリポリと頭を掻いた。
そして、暫く何かを考えると頭から手を離した。
「ヨシッ! カイドウ、一個はお前が持っておけ!」
「え?! 僕が? 何故?」
「腕時計の中にでも保管しておいてほしい」
「保管……ですか?」
「あぁ、いつかまた誰かが裏世界に連れ込まれないとは言えないだろ? その時の為にとっておいてほしいんだ!」
「あぁ~」
カイドウは納得した様子。
「なるほど、そういう事も有り得るかもですね!」
そう言うとカイドウは構えていたハンマーを下ろし、セイギからドアノブを受け取った。
「さて、もう一個はドリッチだ。コレを使って表世界への扉を開いてくれ」
「え……なんでアタシが?」
セイギがドアノブを差し出すと、今まで俯いて地面を蹴っていたドリッチは顔を上げた。でも、すぐにはドアノブを受け取らない。セイギを睨む様に見ているだけ。
「いいから、ほら忘れたのか? 剛くんの本当の笑顔を取り戻すんだろ? 金城くんと藤原さんが戻れば、それが叶うぜ!」
自分を睨むドリッチに、セイギは一歩近付く。
「フン! 別に、忘れてないですけど! ただ、ギッチョンがアタシの話を無視するから!」
ドリッチは『忘れてない』とは言うが、不服そうな態度は崩さない。……が、組んでいた腕は崩してセイギの手のひらに乗るドアノブを受け取った。
「別に俺は無視してないぜ」
「してる……嫌な予感がしてるって言ってるのに! 表世界に戻ったら暫くはアタシもギッチョンの事、無視するから! 無視シシシィ!!」
「へへっ! それは勘弁だなぁ。あっ、それより早く戻ろう。ほら、どっかで犬が鳴いてるぜ! ワオーンって、『お前らはサッサと出ていけぇ~』って言ってるぜ!!」
不機嫌なドリッチを変えようとセイギはおどけてみせる。
「犬……ですか?」
が、この発言にカイドウが首を傾げた。
「あぁ!」
問い掛けられたセイギはコクリと頷く。
「さっき吠えたぜ、ワオーンってな。聞こえなかったか?」
「いえ、全然。空耳じゃないですか?」
「いやぁ~、確かに聞こえたぜ!」
……と、セイギはまたいつもの様に「へへっ!」と笑う。
「それはおかしいですね……」
でも、カイドウは首を傾げるのを止めない。止めないどころか腕も組んだ。
「だって、裏世界には僕達以外には生物は居ない筈ですよ。ましてや犬なんてそんな………んっ?!」
カイドウがセイギの発言を否定したその時…………野太い遠吠えが、そこにいる全ての者の耳に届いた。
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