第4話 セイギ・ドリッチ・カイドウVS黒い騎士と五人の子供 2 ―剛と別れた後―

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『僕……このままではダメかもしれないよ』

 過去を想い出している内に、優は思わず頭の中に弱音を浮かべてしまった。


 ― ダメじゃない……ダメになるものか……


 優は自分の言葉を否定する。頭を振り、現状に歯軋りをしながらも前方を睨んだ。


 ― 絶体絶命のピンチでも、心までも負けちゃダメなんだ……


 そう、現在の優はピンチだった。

 アスファルトの地面に打ち立てられた十字架に両手両足を括られ、身動きが取れない状態だった。


 この状態に陥った理由は一夜前に遡る。


 ―――――


「あっ……嘘。来たのかよ……こっちに。流石、《王に選ばれし民》といったところか。一休みする暇すらくれないとはな……」


 剛を表世界に送り出した後、ビルの屋上に上がった優は、騎士と五人の子供を発見した。

 それは集団、敵は騎士を先頭にして歩いていた。その姿は優の居場所を捜しているというよりも、優が居る場所を知っていて歩いている……と見えた。


 優はこの時、『やっぱ子供は鼻が効く奴等だな……』と思った。

 優は剛と別れたビルまではガキカイドウの状態でやってきたのだが、この時のボディスーツには子供を倒した際に付着したが付いたままだった。―――変身を解けばスーツの汚れは消えるが、騎士の襲撃から間一髪で逃げ出した優には、騎士から遠く離れるまではソレは出来なかった―――子供がその臭いを嗅いで自分の居場所を知ったと優は察したのだ。だから優は、『子供は鼻が効く奴等だ』と思った。


 そして、この時の優自体は変身を解除した状態であったから、液体の臭いからは解放されていた。

 その為、その場からすぐにでも立ち去れば、逃げる切る事も可能だったろう。

 でも、優はその道を選ばなかった。

 優は『騎士たちの前に敢えて姿を見せよう』と決めたのだ。


 その理由は、騎士と子供が集団になっている事が気に食わなかったからだ。

 それは後々を考えて『気に食わない』と思った。優は正義を裏世界に呼び寄せて、捕らわれてしまった友達の救出に協力してもらうつもりでいた。

 それには子供を倒していく必要があった――であるから、敵が集団でいるよりも、これまで通りバラバラで行動してくれている方が望ましかったのだ。


 だから優は『再びガキカイドウに変身し、騎士と子供の前に姿を見せよう』と決めた。

『騎士たちの前に一度姿を見せて、それから逃走をすれば、奴等は臭いが導いた場所に僕は居ないと知るから、またバラバラになって行動をし始める筈だ!』と考えたのだ。

『その際に再び戦闘が起きるかもしれない』とも考えたが、『今回の僕の目的は子供の撃破ではなく、顔見せからの逃走だ。向こうが攻撃をしてきても、"逃げる"に集中すれば疲れている僕でも何とかなる筈……』と答えを出した。



 ……が、現実はそう簡単にはいかなかった。



 優はいつもと同じ通り、ビルを跳んで騎士たちの前に姿を見せ、「僕はここだよぉ!!」とビルの上から尻を叩いて挑発をした。

 すると、騎士も子供も『あっ!』という様な表情や仕草で指を差してきた。

『ヨシッ! アピールは十分だ! あとは逃げるだけ!』この時の優は、いやガキカイドウは心の中でガッツポーズを浮かべた。

 それから素早く体を翻し、騎士たちに背中を向けた………しかし、その直後、


「………ッ!!!」


 カイドウは絶句する事になった。


「フフフ……」


 何故なら、振り返ったカイドウの目の前には真っ黒なローブを着た老婆――《魔女》が居たからだ。


 しくじった…………もう少し時間があればカイドウはそう思っただろう。でも、その時間は与えられなかった。


「フフ……私は自分が作った大鍋や子供の目を介してこの世界を覗けるんだ。わざわざ我が子の前に現れてくれて、坊やを探す手間が省けたわ。フフ……多少は頭が効く子だと思っていたけど、どうやら違ったみたいだねぇ」


 腰の曲がった魔女は、目深に被ったフードの向こうからニヤリと笑うと、をカイドウに向けた。


「坊や、アンタは二人目を殺ったね……もう許さないよ」


 向けた瞬間、杖の先端からは墨で書いたかの様な漆黒の炎が噴出された。


「うわぁぁぁ!!!!」


 漆黒の炎にその身を包まれたカイドウは熱さに悶えてビルから転落してしまった――炎の被害からはボディスーツが守ってくれた、カイドウの体は焼かれる事はなかった、だがその熱さは凄まじいものであった。そして、炎から守られた代償として、ボディスーツはカイドウが地面に叩き付けられると同時に、炎と共に消え去ってしまった。


「う……うぅ………」


 強制的に変身を解除されてしまった優は、意識が朦朧として、自力で立ち上がる事が出来なかった。

 そんな優を立ち上がらせたのは騎士、騎士が気絶寸前の優の首を掴み、無理矢理に立ち上がらせたのだ。


「魔女……ドウスル?」


 騎士はビルを見上げ魔女に問い掛けた。


 魔女の応答は、途切れ途切れになってきた優の意識にも入り込んだ……


「騎士ちゃん、痛め付けるのはやめて良いわよ。今の坊やに貴方が手を上げたら殺してしまうだろうしねぇ」


 魔女はビルの上に居る筈なのに、その声はまるで耳元で囁かれているかの様に聞こえてきた。


「それよりも、その子は《絶望の壺》に堕とし入れて、可愛い可愛いバケモノにするんだよ……」


 魔女は不気味に「フフフ……」と笑った。


「でも、それはまた明日になるねぇ。馬鹿だけど運の良い子だよぉ、もうすぐ二時半になる……時間切れだ」


『時間切れだ』……この言葉を聞きながら、優は意識を失った。

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