第3話 裏世界へ 34 ―ガキハンマー突き―

 34


 以前、畠山を助けた時にカイドウは言った。

『僕がガキカイドウになっている時に、ガキハンマーを持った状態で腕時計を叩くと、ハンマーを簡単に腕時計の中に仕舞えるんだ……』と。


 そしてこの時、カイドウは子供が操るハンマーに捕らわれながらも、しっかりとその手で鎖を掴んでいた。


 掴んでいるのだから、腕時計を叩けばハンマーは腕時計の中に仕舞える。

 鎖を首に巻き付けられた瞬間に、カイドウはハンマーを取り戻すチャンスを掴んでいたのだ。


 だからカイドウは腕時計を叩いた。


 すると、カイドウの首に巻き付いていた鎖は、子供に盗られたハンマーは、光の粒となってカイドウの腕時計の中へと消えていった……


 ―――――


「ふふん!」


 ハンマーが腕時計に戻り、カイドウは笑った。


「ボリィ……」


 反対に、カイドウにタックルをくらわそうと走り来る子供は驚いた。


 だが、驚いてももう遅い。


「ふふん!」


 ハンマーを取り返したカイドウは、走り来る子供の方に振り返りながら、颯爽と腕時計を叩いたのだから。


「僕は負けない!!」


 ガキハンマーは再びカイドウの手の中に出現する。


「フンッ!!」


 ハンマーの柄を両手で持ち、カイドウは子供に向かって振った。


 カイドウはホームランバッターだ。芯で捉えれば打ち損じはしない。


「ボリィィィイイイ!!!」


 ハンマーで叩かれた子供は夜空へと飛んでいく。


「僕は負ける訳にはいかないんだよ………だって、友達を助けたいんだから!!!」


 この時、カイドウは背後から迫る足音をその耳で捉えていた。

 その足音はさっきまでカイドウの目の前で、おどけか脅しか、シャドーボクシングをしていた子供の足音だろう………が、カイドウはそれを確かめない。


「邪魔するな……」


 確かめる前に素早く振り返る。


「フンッ!!」


 そしてまた、カイドウはハンマーを振るった。


「ボリボリボリーーーッ!!!」


 二打席連続のホームランだ。こちらの子供もさっきと同じく。夜空へと飛んでいった。


「あと二体……僕は絶対にドアノブを手に入れる」


 決意の言葉を口にしながら、カイドウは道路の真ん中で横向きに立った。

 左右の子供を交互に睨む……


「バァェーー!!!」


「バリホーー!!!」


 睨まれた子供は吠える。

 吠えながら、拳を作った腕を振り上げる。


「またソレか………芸がないって」


 子供が見せる動作は、明らかに地面を殴る前動作だ。

 二体共に、地割れを起こそうとしているのだ。


「フンッ!!」


 カイドウはまず『バァェーー!!!』と吠えた子供に向かって鉄球を投げた。

 この子供はさっきまでガキハンマーを持っていたヤツだ。自分の武器を奪われた恨みも込めて、カイドウは鉄球を投げた。


 ドガンッ!!!


「バァバァバァ!!!」


 鉄球の直撃を受けた子供は、毬の様に弾みながら少し遠くに見えるコンビニに向かって飛んでいき、割れたガラスが散乱する店内へと消えていった。


 ― さっきも似た光景を見たな。もしかして、今のヤツってさっきコンビニにブッ飛ばしたヤツかな? ……まぁ、そんなのはどうでも良いや!!


 こんな事を考えながら、カイドウは鎖を引っ張り鉄球を引き寄せた。


「フンッ!!」


 それから続け様に、もう一体の子供の方に向かって投げ付ける。



 ドンッ!!!



「バリッ!!」


 今度、カイドウが投げた鉄球は子供には命中しなかった。

 子供の目の前に落ちて、道路を割っただけだ。

 だが、これはカイドウがしくじったのではない。

 カイドウはこうしたのだ。

 その意味は、地面を殴ろうとする子供の手を止める為だ。実際、目の前に鉄球が落ちた子供は『バリッ!!』と驚いて動きを止めた。


「ヨシッ! 上手くいった!!」


 カイドウはこの子供の攻撃をブッ飛ばさずに止めたかったのだ。

 何故なら、ブッ飛ばしてしまえば子供との間に距離が生まれてしまうから。


「………」


 カイドウは動きを止めた子供を睨みながら、鎖を持つ手を肩の高さに上げてくるくると回し、鉄球を頭の上でグルングルンと回した。


「バリィ……」


 地面に殴り掛かるスレスレで動きを止めていた子供もまた、カイドウを睨みながらゆっくりと体を持ち上げる。


「………」


 カイドウは子供を捕まえたかった。今度こそ倒す為に。その為には距離はいらない。近い方が良い。だから子供をブッ飛ばしたくはなかった。


「フンッ!!」


 カイドウは鎖を持つ右手をスイングをかけて振った。

 振ったら鎖から手を離す。

 鎖と鉄球は弧を描いて子供に向かって飛んでいく。


「バリィ……」


 子供は逃げ出そうとする。体を翻し、走り出そうとする――だが、もう遅い。


 ギュルギュルギュルーーッ!!


「バリィィ!!」


 飛んでいった鎖は、一歩目を踏み出したばかりの子供の胴体に巻き付いた。


「バリィ! ヤバリィ!!」


「はい……お帰りなさい」


 そして、飛んでいった鉄球と鎖はブーメランの様にカイドウの手元に戻ってくる。


「ヤバリィ……ヤバリィ……」


 鎖にぐるぐる巻きにされた子供はもう逃げられない。


「さっきみたいな油断は、もうしないぞ……」


 カイドウはキョロキョロと辺りを見回した。

 ブッ飛ばした子供も戻ってきてはいない。気絶させた子供も眠ったままだ。


「ふぅ。僕とキミだけみたいだね……それじゃあ、行くぞ!!!」


 カイドウはハンマーの柄を両手で持ち、そして走り出した。


「そろそろ、この攻撃にも名前が必要だ!! 名付けて、ガキハンマー突き!!!」


 カイドウは自分の攻撃にシンプル過ぎる程シンプルな名前を付けながら、子供の胴体にハンマーのけん先を突き刺した。


「ヤバァァアアアア!!!!」


 腹部を貫かれた子供は、断末魔の叫びをあげ、そして口から真っ黒な血を吹き出し、徐々に真っ黒な液体となって溶けていった。

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