第3話 裏世界へ 35 ―みんながいるから美味しい―

 35


「剛くん! やったよ!!」


 カイドウは子供を倒しドアノブを手に入れると、剛が隠れているダストボックスがある小路に向かって走った。


「剛くん!!」


 小路の前に来るとカイドウはまた剛を呼んだ。


 カイドウは剛と約束をしていた。

『ドアノブを手に入れたら僕は剛くんの名前を大声で呼ぶよ。その声が聞こえたら剛くんはダストボックスから出てきくれ。逆を言うと、剛くんは僕の呼ぶ声が聞こえるまでは、どんな物騒な物音や声が聴こえてもダストボックスから出てきちゃダメだ』………こんな内容の約束を。


 だからカイドウは剛の名前を大声で呼んだ。


「剛くん!! もう出てきてくれてOKだよ!! ドアノブは手に入れたよ!!!」


 すると、ダストボックスの蓋が開く。


「優くん……」


 中から出てきたのは勿論、剛。

 カイドウとの約束を守り切った剛は、ダストボックスから出てくるとカイドウに駆け寄ってきた。


「優くん……良かった。無事だったんだね……」


 剛はカイドウの両肩を掴んだ。それも強く、かなり強く。その顔は今にも泣き出しそうだ。


「イテテ……剛くん、痛いよ」


「だって、俺……心配で、心配で……」


「あら? 僕、心配させちゃったの??」


 カイドウはあっけらかんな感じ。

 反対に剛は、


「うん……だって、そりゃあ、心配するよ」


『当たり前だろ?』という顔をした。


「ドンとかバンとか凄い音が何度も聞こえたんだよ。その度に俺は、優くんがやられてしまったんじゃないかって思った………でも、無事だった。良かったぁ……」


 そして、剛はその場に溶ける様に座り込んだ。


「ふふん! 心配させちゃったか、それは申し訳ない! でも、この通り僕はピンピンしてるよ!」


 そんな剛に対して、カイドウは腰に手を当て胸を張った。


「うん……そうみたいだ。良かった」


「ふふん!」


「ははっ!」


 カイドウが笑うと、剛も上目遣いで笑顔を見せた。


「ほらほら、ドアノブだよぉ~~!」


 その笑顔に向かって、カイドウはドアノブを見せる。


「めでたく作戦成功だ! ………って、あぁ、そうだった、あっちはダメだったよ。壺の方はダメ。まさかのハズレの方だったよ」


 それから、割れた壺も見せた。


「あぁ……そっちはハズレかぁ」


 壺を見た剛は残念そうに呟く。


 二人が言う『ハズレ』とは何か。

 それは、倒した子供が持っていた壺の中に、捕まった仲間の内の誰かが入っていたかどうかという話だ。入っていればアタリ、いなければハズレ……という意味だ。


 昨日、作戦会議を終わらせた後に二人は気が付いたのだ。『ドアノブを奪った時に、同時に壺も手に入るぞ』……と。

 壺の中に仲間が捕らえられている事は二人は当然に知っている。そして、捕まった後でも壺の中から出す事が出来る事も、昨晩子供がわざわざ金城達を屋上に並べて『見ろ、見ろ、お前らの仲間は捕まえたぞ!』という風にカイドウと剛に見せ付けたのだから、二人は嫌な記憶と共によおく知っている。


 だから二人は、『あわよくばドアノブを奪取すると同時に仲間を一人助けられるのではないか?』と考えていた。

 だが、結果はハズレ。倒した子供が持っていた壺には誰の姿も浮かんでおらず、蓋を開いても、逆さまにしてみても何も出てこず、壊してみてもそれは同じだった……


「アタリだったら、一人は助けられたんだけどなぁ……ごめん」


「いや……そればかりは仕方ないよ」


 剛がまた上目遣いで言った。


 その言葉を受けて、カイドウは切り替える。


「そうだね……前向きにいかないとね! さぁ、剛くん立ち上がって!」


 カイドウの切り替えは人一倍だ。余韻を一切残さずに『残念』はすぐに捨てて、座り込む剛に向かって手を伸ばした。



 …………それから、二人は道路の真ん中辺りへと進む。進みながら、カイドウは剛にこう言う。



「本当は今すぐドアノブを使いたいところだけど、僕らは一旦ここから離れようか。ここに居たら、またブッ飛ばしたヤツが戻ってきちゃうかもだし、気絶したヤツが起きちゃうかもだし!」


「そうだね……」


 剛は地面に倒れている子供にチラリと視線を動かした。


「……確かに、今にも動き出しそうだね」


「うん……それに、他にも逃げたヤツもいるんだ。ソイツも警戒しないと。まぁ、逃げたヤツは逃げたんだから、多分戻ってこないだろうけどさぁ……って無駄話はここまでだ! さぁ、とりあえず遠くに行こう! それから遠くに行ったら一個お願い、変身を解除させてほしい! また、倒したヤツの黒い液体がちょっと手に付いちゃったんだ。これがあったらまた子供が臭いを頼りに来てしまうだろうからさ……」


「うん、勿論OKだよ!」


「ふふん! ありがとう!」


 カイドウのお願いに剛が頷くと、カイドウは剛の腰に腕を回した。

 カイドウはこの場所から離れる為に、再びビルからビルへ跳んでいこうとしているのだ。


「剛くんは表世界に帰ったら何が食べたい? 僕はチャーハンとラーメンを食べるって決めてるんだぁ!」


「えぇ……何だろう? そんなのまだ考えられないけど」


 進行方向は子供が倒壊させたビルとは反対側。カイドウは倒壊したビルに背中を向けた。

 何故、ビルと反対に行こうとしているのかは簡単な理由だ。

 倒壊したビルの先には昨日騎士が破壊したビルがあるからだ。『もしかしたら、騎士はまだ昨日のビルの近くにいるかもしれない……』とカイドウは考えていた。

 だから、反対へと進もうとしているのだ。


「そっかぁ。それじゃあ考えておきなよ。そろそろ剛くんは表世界に帰れるんだからさ!」


「う~ん……それは、みんなが助かったらかな。それまでは食べ物の事は考えられないよ」


「そっかぁ。それじゃあ、僕がみんなを助けて表世界に戻ったら、一緒にチャーハンとラーメンを食べに行こうよ? 僕、オススメのお店があるんだ!」


「ははっ! うん、それは良いね! みんなで一緒に行こうよ!」


「あっ、良いねぇ!! ふふん!! それじゃあ楽しいチャーハンラーメンの為にもサッサと跳ぶぞぉ!!」


「えぇ……何かその言い方だと、ラーメンとチャーハンが主役になってない?」


「そんな事ないよ、チャーハンラーメンはみんなを助けられないと得られないんだから!! 金城くん、旭川さん、畠山くん、藤原さん、小山くん、剛くんが一人でも欠けたら美味しくないよ!!」


「ははっ! そっかぁ!」


「ふふん! そうだよ! それじゃあ……行くよ!!」


 カイドウは高く跳ぶ為に膝を曲げ、足に力を込めた。



 その時だ……



「ミィツケタ……」



「え……?!」


 背後から騎士の声が聞こえたのは。

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