第3話 裏世界へ 18 ―ガキハンマーは敵を夜空にブッ飛ばす!―

 18


「ヨッシッ!! ラスイチ!!」


 カイドウはメタリックグリーンの仮面の奥でニヤリと笑った。そして、突然歌い出す。


「テンテェケテンテン♪ テーケーテーケー♪ テンテェケテンテン♪ テーケーテケー♪ ねぇ、スマ◯ラってゲーム知ってる? 僕、あのゲームがめっちゃ得意なんだ! 正義さんや勇気さんにも一度も負けた事がないくらい! それからコレも知ってる? ス◯ブラでのハンマーは、敵をブッ飛ばす最強のアイテムなんだよ!!」


 カイドウは鎖から右手を離し、両手で柄を持つと左側から来る子供に向かってフルスイング。


「カキーーーーンッ!!! ホーーームラン!!!」


「バイホーーッ!!!」


 子供の胴体にけん玉でいう"小皿"の部分が当たり、子供は夜空に向かって飛んでいった。


「ふぅ……やっぱりハンマーはブッ飛ばせるね! さてさて……お次はぁ?」


 三体の子供を退けたカイドウの周りに舞っていた土埃は既に無い。裏世界に吹く風が土埃を何処か遠くへと連れていった。だから視界は良好。だから、カイドウは


「カイドーーーキッーーーク!!!」


 たった今、威勢良く左右から飛び掛かってきた二体の子供に、足を広げた両足での飛び蹴りをくらわす事が出来た。


「ふふん! カイドウキックより、ガキなんだからガキックの方が良かったかなぁ? まぁいいや、次ッ!!」


 飛び蹴りから着地した時、またもや飛び掛かってきた奴がいた。

 ソイツを今度は


「ガパーーーーンチ!!!」


 殴られる前に殴ってやった。

 腕の短い子供と比べれば、身長163cmのカイドウの方がリーチが長い。完全なカウンターをくらわせた。


「バリホー……」


 殴られた子供は、夜空を見上げてドサッ……と倒れた。

 それはキックをくらった子供も同じ。夜空を見上げて倒れている。


「さてさて……そろそろ、こっちから仕掛けさせてもらうよ!!」


《魔女の子供》は合計七体、カイドウが攻撃をしたのは六体、何もしていないのが一体。

 その残りの一体は、続々と仲間が攻撃をされたのを見て怖じ気づいたのか、カイドウと距離を取って睨んでいるだけで動かない。


「睨んでいるだけじゃ、僕の餌食だ!!」


 ダッ!! ……と、ソイツに向かってカイドウは走り出した。……と、同時に子供もカイドウに背を向けて走り出す。


「待て待て!!!」


 この時既に、カイドウはハンマーの持ち方を両手持ちから元の持ち方に戻していた。左手に柄を、右手で鎖を………カイドウは鎖を持つ手を肩の高さに上げてくるくると回し、鉄球を頭の上でグルングルンと回した。

 グルングルンと回しながら、逃げる子供を追い掛ける。


「逃げても意味ないぞ! 僕の鉄球をくらえ!!」


 カイドウは右手を振り下ろし、逃げる子供に鉄球をぶつけようとした。


 ドカンッ!!!


「あっ! クソッ!!」


 しかし、鉄球が叩いたのは地面だった。


「ハハイホーー!!」


「くっそぉ~~! 避けやがったな!!」


 そうだ。鉄球が当たる直前に子供は左に側転、鉄球を避けたんだ。


「ハハイホーー!!」


 子供はペンペンと尻を叩いてカイドウを挑発した。そして、また走り出す。


「くっそぉ~~! 待てぇ~~!」


 鉄球を避けられた事に驚いて足を止めていたカイドウも再び走り出す。


「絶対ぶつけてやる!!」


 カイドウは再び鉄球を振り下ろす……が、


「ハハイホーー!!」


 再び子供は避けてしまった。


「くっそぉ! 何で当たらないんだ!!」


 それから、三回、四回、五回……と振るが、全てが当たらず。避けられてしまう。


「何で!! 何でだよ!!」


 カイドウは気付いていない。鉄球を大振りで振り回しているせいで、小ぶりな子供には避けやすい攻撃になってしまっている事に。


「くそぉ!! もう!!」


 六回、七回と続けるが、避けられてしまう理由に気付いていないから改善はない。避けられてしまう。


 八回、九回、十回……


「ハハイホーー!!」


「ケツを叩くな!! ムカつくなぁ!!」


 また、子供はカイドウを挑発した。だが、今度は走ってはいかない。

 尻を叩いたかと思うと、走ってくるカイドウの方を向いた。


「ハハハハハ! ハイホー!!」


 そして、歯を見せて笑う……


「なんだそれは!! 立ち止まったなら今後こそ当てるぞ!!」


 カイドウはグルングルンと鉄球を頭の上で振り回しながら狙いを定めた。


「ん?」


 でも、今度のカイドウは鉄球を振り下ろす事はしなかった。


 何故なら……


「何だよそれ……何してるの?」


 カイドウの方を向いた子供がニヤリと笑いながら、指を差したからだ。

 カイドウを……ではない。カイドウの背後を……だ。


「なに……?」


 カイドウは後ろをチラリと振り向いた。


「あっ!!」


 すると、気付く。


 逃げる子供を追い掛けたが為に遠く離れてしまった瓦礫の山の前に、六体の《魔女の子供》が立っている事に。


 腹を刺された奴も、後頭部に攻撃を受けた奴も、ハンマーの攻撃で夜空に向かって飛んでいった奴も、飛び蹴りをくらった二体も、パンチをくらった一体も……皆立ち上がり、瓦礫の山の前に立っていた。


 しかも、尻を叩いてカイドウを挑発しながら……


「うそ……」


 そして、カイドウは嫌な予感を覚えた……いや、予感とは呼べないのかもしれない。カイドウが『うそ……』と呟いた時には既に、子供たちは予備動作を見せていたのだから。

 その予備動作とは何か……それは、尻を叩いた後、子供たちは瓦礫の山に向かって拳を振り上げたのだ。



 ドカンッ!!!



 六人の子供たちは瓦礫の山を殴った。


「うわぁ……やられた……」


 カイドウはハンマーを地面に落とし、頭を抱えた。

 大通りと駅前を隔てる壁となっていた瓦礫の山が、六人の子供たちによって一瞬にして粉となってしまったから……



「ホハイッ!!」


「ホホハイッ!!」


「ハイホーッ!!」


「ハリハリホーッ!!」


「ホイホイホイーッ!!」


「ハリホリハリッ!!」



 六人の子供たちは、歓喜の雄叫びかの様な鳴き声を口にしながら駅前に向かって走り出した。


「うぅ……くそぉ!! やられた!!」


 カイドウは気付いた。


「お前!! 囮役だったのかよ!! うぅ……騙しやがってぇ!! くそぉお!!!」


 カイドウはニタニタと笑い続けるに向かってそう言うと、ハンマーを拾い直し、駅前に走った。


「ごめん、畠山くん。いや、みんなぁ……『瓦礫の山はいつか壊されるだろう』って言ってはいたけど、僕自身がそうはさせないつもりだった! なのに、やってしまったよぉ!! こんな短い時間じゃ、まだみんなが逃げられてないかも! ごめん、みんな!!!」


 カイドウは焦った。焦って走った。剛や金城たち、仲間たちのピンチを招いてしまったと思ったから。


 しかし、


「えっ……んぅぇ?」


 カイドウが駅前に着くと、六体の子供たちがバラバラと別々の方向に走っていく姿が見えた。


「う~ん……これって……」


 その姿を見たカイドウは思った。


「……アイツ等がバラバラの方向に行ってるって事は、短い時間だったけど、みんなが駅前から逃げる時間を作るくらいは出来たって事か? そういう……事、だよね?」


 カイドウは一瞬安堵した。


「ふぅ……でも、ギリギリセーフなだけかもしれない。早くみんなを見付けないと!」


 それから、また走り出す。仲間たちを守る為に、仲間たちが何処へ逃げたのかを探すために。


 ―――――


「何だ、まーちゃんはすぐには《魔女の子供》を倒せなかったのかぁ」


 剛少年の話を聞いて、夢が『ガックシ……』と肩を落とすと、


「それはそうだろ……俺達は白い靄の形で《魔女の子供》の姿を見た。それに、追われる剛くん達の姿もな……戦いがそんな簡単には終わらなかった事は、既に俺達は知っている筈だ」


 勇気が『やれやれ……』といった感じで言った。


「あっ、そっか! そうだったね! 見た、見た! そうだった!」


 夢の肩はすぐに上がった。それから続けて、剛少年にこう聞く。


「それで? まーちゃんはみんながちゃんと逃げられたか心配だったみたいだけど、それはどうだったの?」


 聞かれた剛少年は軽く頷き、こう答える。


「はい……それなんですが、金城くん達と合流した俺は、畠山くんから『駅前から逃げろ』という優くんの言葉を聞くと、西館の捜索をしていた藤原さんをすぐに呼びに行きました。そして、六人揃った俺達は、優くんの言う事を聞いて駅前から離れる事にしました」


「みんな一緒に?」


 これを聞いたのは愛だ。


 この質問に剛少年は首を振る。


「いいえ、『纏まって逃げると《魔女の子供》に見付かりやすいんじゃないか?』と俺達は考えたので、バラバラに……作戦を話し合っている時間もありませんでしたから、とにかくバラバラに」


「そうか、だから優が駅前に着いた時、《魔女の子供》はバラバラの方向に走っていっていたんだなボッズー!」


「はい、おそらくですが。俺達が何処に行ったのか分からなかったから、アイツ等もバラバラの方向に行ったんだと思います……」


「じゃあ、ちゃんと逃げられたんだ!」


 質問の主だった夢はニッコリと笑った。


「はい……」


 だが、剛少年は違う。


「でも、逃げられたのは逃げられたのですが、バラバラになった俺達のドアノブの捜索はあまり上手くはいきませんでした……」

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