第3話 裏世界へ 17 ―バトルスタート!―

 17


《英雄たちの秘密基地》での剛少年の話はまだ続いていた。


 現在、彼が話しをするのは『ドンッ!!!』という異音を聞いた直後から……


「俺は異音を聞くと、すぐに窓に駆け寄り外を見ました。はじめは駅前には何の変化も見られず、何が起こったのかは分かりませんでした。ですが、暫くすると散らばって調査をしていた筈の金城くん達が、バス停の方へ走っていく姿が見えたんです。俺は『何だろう?』と様子を見る事にしました。そのすぐ後です。今度は金城くんや旭川さんや小山くん、それからさっきは居なかった畠山くんが、俺が居るビルの方へ走ってきたんです。『これはジッとしていてはダメだな』……と思って、急いで一階へと戻りました。一階に戻ると、金城くん達も丁度ビルに入ってきたところで………そして、金城くん達と合流した俺は聞きました。『敵が襲ってきた』……と」


「敵が襲ってきた……何が起こったんだ?」


 この質問をしたのは勇気だ。


 勇気は唾を飲み込み、眉間に皺を寄せた緊張の表情で剛少年に聞いた。


 この質問に対して、剛少年も同じ表情で答える。


「畠山くんが言うには……魔女の子供達が、彼が居たビルを倒壊させたらしいんです」


「倒壊させた……だが、彼が教えてくれたという事は、彼は無事だったんだな?」


「はい……」


 剛少年は頷いた。


「優くんが助けてくれたらしいんです」


「優が?」


 次に質問をしたのはボッズーだ。


「優が助けただボズか? ……それって、まさかだけど……」


 ボッズーも緊張した表情で聞いた。しかし、ボッズーが緊張を覚える理由は勇気とは違う。


「まさか……優は、皆の前で、え……えい……えいゆ」


「英雄になったんだな?」


 言い淀むボッズーを遮ったのは正義だ。


「はい……」


 剛少年はこの質問に対して再び頷いた。

 緊張の顔もボッズーから正義に移す。


「まさか優くんが英雄だなんて思わなかったので、めちゃくちゃ驚きましたけど」


「……っな! 驚くのはこっちだボズよ!」


 こう言ったのは『ボズ』だから勿論ボッズーだ。


「はぁ……」


 ボッズーは大きなため息を吐いた。


「自分が英雄だって他人にはバラしちゃいけないと、優にも教えていた筈なのにボッズー」


「へへっ!」


 ボッズーはヘコむ。しかし、正義は笑った。


「まぁまぁ良いじゃねぇか。目の前に敵がいたんだ。緊急事態だし、友達を守る為なんだ。良い決断だって俺は思うぜ! やっぱ、優は英雄の力を使ってたんだな!」


 ボッズーとは違って、正義は優を讃えるかの様なニカッとした笑顔を浮かべた。


「剛くんが俺に助けを求めに来た時点で、『もしかして?』とは思っていたけどさ。……ん? つー事は、俺が見た"戦う白いモヤモヤ"も、やっぱり優で決まりって事か!」


「ぺゅぅ……何が『つー事は』だボズ! 嬉しそうにヘラヘラとしやがって!」


 正義の肩に止まるボッズーは、正義の横顔をチクリと睨んだ。


「何なんだよお前達は、秘密を秘密と思っていないヤカラの集まりか? 優だけじゃない、皆が皆、簡単に秘密をバラし過ぎだボッズー!」


 ボッズーは、正義の次に愛を睨み、それから勇気と続けた。


「あぁ~~もう、そんなカッカしないの!」


 そんなボッズーの頭の天辺を鷲掴みにして、正義の肩から持ち上げたのは夢だ。


「過ぎた事は気にしてもしょうがないでしょう? そんなにカッカばっかりしてたら鶏ガラになっちゃうよ?」


「鶏ガラ?? ぺゅぅ!! 俺は鳥じゃないぞボッズー! ボッズーだボッズー!!」


「ぷはっ! ボッズーって名前じゃなくて種類なの?」


 夢は『鳥じゃない!』と言い返すボッズーをヘラヘラと躱し、それから剛少年に話を振った。


「それより、それより、ツヨポン!まーちゃんはその後どうなったの? 魔女の子供をブッ飛ばせたのかな?」


「ツ……ツヨポンですか……そ、そのあだ名は初めてだな……あっ、"倒せたか"ですよね? あのですね。それはですね……」


 初めて呼ばれたあだ名に戸惑いを見せつつも、剛少年は話を再開させた。


「これは後々になって優くんと合流した時に聞いたのですが」


 ――――――


「おっ! ヤバッ!!」


《魔女の子供》と戦う為に瓦礫の山を跳び越えた瞬間、カイドウの目に飛び込んできたのは、畠山を避難させる前に拳を振り上げる動作を見せていた子供が、遂に地面を殴った姿だった。


「あわわわ、ヤ、ヤバイぞ!!」


 子供が地面を殴ったその時は、カイドウはまだ空中にいた。

 新たに生まれたは、今からカイドウが着地しようとしている場所に向かって走ってきている。


「うわわわっ! こ、このまま地面に降りたら僕は地割れの衝撃をくらって大転倒………だったらまだマシ!! おそらく大ダメージをくらってしまう!! そうなる訳にはいかんのですよ!!」


 カイドウはそう言うと、むんずと下唇を噛んで勢い良くガキハンマーの鉄球を地面に向かって振り下ろした。


 ドカンッ!!! 


 ………大きな音を立てて、鉄球は地面を割った。


「ヨシッ!!」


 それは、だ。

 敵が起こしたを、カイドウは叩いたのだ――そして、衝撃と衝撃がぶつかり合い、稲妻が如き地割れは消えた。


「ふぅ……危なかった。でも、これで地割れは消滅っと!」


 カイドウは「ふふん!」と鼻を鳴らし、地面に着地した。


 しかし、戦いにおいて油断は禁物。敵を前にしての安堵も禁物。その事をカイドウはまだ知らない。


「ん? ……ぅおっ! ヤバッ!!」


 再びのカイドウの『ヤバ!!』


 その理由は何か……カイドウが稲妻が如き地割れを消滅させた時、コンクリートが粉々になってカイドウの周辺に灰色の土埃を発生させていた。

 その土埃の向こうから、


「ホハイッ!!」


「ホホハイッ!!」


「ハイホーッ!!」


 野太い鳴き声を発しながら、拳を振り上げた子供がカイドウに向かって走ってきたのだ。


 それも一体じゃない。三体だ。右、中央、左と横並びで三体同時に現れた。


「新たなピンチ! どうするの、僕? そんなの決まってる! ワァァリャッ!!!」


 カイドウは左手で持ったガキハンマーを前に突き出しながら叫んだ。

 ガキハンマーはけん玉に似た形をしたハンマーだ。その先端にはけん先がある。鋭く尖ったけん先を、カイドウは中央から迫る子供に向かって突き出した。


「バボッ!!」


 中央から迫る子供は叫んだ。

 カイドウが突き出したけん先が、子供の腹に突き刺さったからだ。


「バボバボバボッ!!」


 突き刺さったといっても貫通じゃない。ローブを通して浅くだ。

 だけどもダメージは与えられた。中央から迫ってきていた子供は、カイドウがハンマーを引き抜くと腹を押さえて後退した。


「一体目排除! 後、二体!!」


 カイドウはそう言うと、今度は鎖を持った右手をグイッと引いた。


 さっき地面を割った鉄球は、陥没させたその場所でまだ転がっている。

 カイドウが右手を引くと、鉄球は引き寄せられた。


「ボベイッ!!」


 今度は右側から迫っていた子供が悲鳴をあげた。

 引き寄せられた鉄球が子供の後頭部を叩いたんだ。

 後頭部はヤバイ。それは《魔女の子供》でも同じ。後頭部に攻撃を受けた子供は、くるくると目玉を回してその場に倒れた。


「ヨッシッ!! ラスイチ!!」

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