第3話 裏世界へ 2 ―俺が正義の英雄だ!―
2
あの後……正義と勇気は少年を抱え秘密基地まで戻ると、《願いの木》に願って少年を寝かせる為の布団と《魔法の果物》を出してもらった。
今回の《魔法の果物》は今までの物と少し大きさを変えた。今まで通りのプラムくらいの大きさの物では、気を失っている少年に与えるには大き過ぎたからだ。
今回出してもらった《魔法の果物》は"薬程度の大きさ"。それを正義は、無理矢理少年に飲ませた。
それから少年の顔色はすぐに良くなり、荒れていた呼吸も正常に戻った。
それから少年が目を覚ましたのは、数時間後の事。輝ヶ丘高校の三学期も終わった昼過ぎだった。
―――――
「おっ! 起きたか?」
眠っていた少年が目を覚ましたと最初に気が付いたのは正義だった。
「うぅ……」
「あ……大丈夫? お水飲む?」
次に、愛だ。愛は学校が終わるとすぐに秘密基地へと駆け付けた。
それからずっと彼女は正義と一緒に少年に寄り添い続けていた。
「コッ……コハッ……」
「あ、ゆっくり飲んで。ゆっくりだよ」
少年は愛が差し出した水を勢い良く飲んだ。
少年は目は覚ましたが、まだ瞼をうっすらと開いているだけで瞳はボーッとしている。
水は人を生き返らせる物だ。水を受け取ったのもハッキリとした意識からではなく、本能的にだろう。少年は生きる為に水を欲したのだ。
「こ……ここは?」
水を飲んだら目が冴えたらしい。
少年はうっすらだった瞼を大きく開きパチパチとさせると、自分を挟んで座る正義と愛の顔を、右、左と交互に見た。
でも、この質問に答えたのは正義でも愛でもない。勇気だった。
「ここは、君が求めてきた場所だよ」
勇気は切り株の椅子に足を組んで座りながら、少年に微笑みを向けていた。
勿論、この笑みは天使の微笑みだ。愛と同じだ。勇気もまた、学校が終わるとすぐに秘密基地へと駆け付けていたのだ。
そして、勿論。もう一人の英雄も居る。
「そそ!! ここは英雄たちの秘密基地だよ~~!!」
夢は勇気の隣の椅子に座っていた。彼女は少年に笑い掛けながら『ここが私のアナザース○イ!』という様に手を大きく広げ、それから椅子から立ち上がりクルクルと回った……
「おい、夢! それを言うなボッズー!! 俺達の秘密をバラすなボッズー!!」
それを注意するのがボッズーだ。ボッズーはいつもの特等席、切り株のテーブルの上に座っている。
「えぇ~~ごめんてぇ~~!!」
クルクルを慌てて止めた夢はボッズーに頭を下げた。――が、正義がこれを『不要』と笑った。
「へへっ! 夢、謝る必要はないぜ! だってボッズー、秘密をバラすなって言っても、この中に連れてきた時点で、もう後の祭りなんだ! なぁ、勇気?今回はお前も許してくれたもんな?」
「ん……? あぁ、まぁな……」
問い掛けられた勇気は額をポリポリと掻きながら、ボッズーに申し訳なさそうな目線を向け、小声でこう答えた。
「あの子をあのまま寒空の下に居させる訳にはいかなかったんだ……今回は希望くんの時と同じとして、緊急処置として許してくれ」
「むぅ~~う! 勇気までも秘密を守ってくれなかったら一体誰が守るんだよボズぅ……」
ボッズーは頬を膨らませた。
「へへっ!」
だが、正義は慣れているから気にしない。
「ボッズー、グチグチ言うのはあとだぜ、あとっ! 今はそれよりも、この子に聞きたい事がいっぱいあるんだ!」
慣れているから、正義はすぐに話題を変えた。
「なぁ、少年? 聞きたいんだけどさ、君は俺に会いに輝ヶ丘の大木に来たって事で良いんだよな?」
正義はボッズーに向けていた顔を、自分達の会話を不思議そうな表情で聞いていた少年に再び向けると、こう聞いた。その顔には満面の笑み、ニカッした笑みを浮かべている。
「あなたに……会いにですか?」
少年は正義の質問に首を傾げた。
水を飲んで目が冴えたとしても、少年の頭はまだ冴えていないのだろう。正義の質問の意味を理解出来ていない感じだ。
でも、正義は進める。
「そうそう! だって、寝ながら何度も言ってたぜ! 『早く輝ヶ丘の大木に行かなきゃ』って!」
「うん、『じゃないと優くんがやられちゃう。早く正義の英雄を呼ばなきゃ』っとも言ってたよ! だから、会いに来たって事でしょ? このお兄ちゃんに?」
正義の言葉に付け足しをしたのは愛だ。
「え……あっ、そ……そうなんですか。え? ……それじゃあ、もしかして? あなたが?」
今の愛の発言で少年の頭はやっと冴えた様子。
少年は目の前の男が何者か察した感じで、期待の眼差しを正義に向けた。
「へへっ!」
この期待の眼差しに、正義はまたニカッと笑った。
「そうだぜ! 俺は赤井正義、またの名をガキセイギ! 正義の英雄だ! へへっ! ヨロシクな!!」
正義は少年の手を取り、固い握手を交わした。
―――――
……そして、この少年との出会いによって正義達は向かう事になる。魔女の作ったもう一つの世界。裏世界へと。
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