第2話 君は何処へ 9 ―信じるか信じないか―
9
「へぇ~じゃあ、もしかしてボッズーって物知り系なんだ!!」
「へへっ! そうそう! 物知り系だ! 生まれた時からな、誰に教えられた訳でもないのに色んな事を知ってたんだ!」
正義が夢に教えるのは、ボッズーの頭の中に眠っている、英雄や《王に選ばれし民》に関しての知識の事。
この知識は、確かにボッズーの頭の中にはあるが全てが閲覧可能ではない。ややこしくて説明の難しいものだ。
この説明を正義は難しい勉強を子供に教える様な優しい語り口で夢に語っていた。
「でも不思議なのがさ、ボッズーは確かに物知りで色んな知識を持ってるんだけど、その知識の中には、確かに頭の中にはあるんだけど眠っちゃってて思い出せない知識ってのが何個かあるんだ」
「眠ってて思い出せない知識? 何それ?」
「へへっ! 『何それ?』だよな! でも、そうなんだ。ボッズーはガチで物知りなのに、思い出せないから分からないって事がいっぱいあるんだ! なぁ、ボッズー?」
正義はボッズーの頭をポンポンと触りながらボッズーにパスを出した。
「そうだなぁボズ。何でそうなのかは自分自身でも分からなくて謎なんだけど、確かにそうなんだボズ。きっかけさえあれば思い出せて分かるんだけどなボッズー。分かりさえすれば、その事柄に関してだったら何でも答えられるようになるんだボッズーよ」
「へぇ! 何それ、オモロっ! ねぇねぇ、きっかけって何? どんなきっかけ??」
夢は興味津々だ。ボッズーに向かって前のめりになった。
「それは色々だボズよ。眠ってる知識に関する物を見たりとか、聞いたりとかしてボッズー。そしたら、眠ってる知識が目を覚ますんだボッズー」
ボッズーがこう答えると、夢はまた「へぇ~~」と唸ってボッズーを不思議そうな目で見詰めた。
「なにそれ不思議ぃ……目を覚ますって、ガバッて感じ?」
「いや、ガバッて言うか、ゾワゾワって感じだボズね。全身がゾワゾワして思い出すんだボッズー」
「へへっ! そうそう! ゾワゾワだよな! いつも『ゾワゾワするボズ!』って言ってるぜ! あ、そうそう! 例えば、初めてこの基地に来た時もそうだったな! この基地に初めて来た時のボッズーは、この基地の存在と、基地への入り方と、俺達が今居るこの部屋の形……この三つは最初から分かってたんだよ。でも、この部屋の下に何があるか迄は分かってなかったんだ」
「この部屋の下にある物って、昨日ギッチョンが見せてくれた《願いの木》の事?」
「そうそう! それだよ! まず、あの部屋への行き方自体を、ボッズーは最初分かんなかったんだ! でも、とある切っ掛けで《願いの木の門番》の部屋に繋がる階段を見て、ゾワゾワっとしたんだ!」
「そうだったボズね。階段を見た瞬間、ゾワゾワっとして全部が分かっただボズよ」
「へぇ~~! ボッズーすごいじゃん!」
「へへっ! そうだぜ、ボッズーはスゴいんだ! 他にもあるぜ! ジャスティススラッシャーを思い出した時とか、ビュビューンモードを思い出した時とか……」
――と、正義はボッズーが過去にゾワゾワした時の事を夢に語った。
「へぇ! ヤバぁ~~! ボッズー、オモロっ!!」
「へへっ! おもろいだろ? ……まぁ、ここまで話せば伝わったかな? ボッズーの"ゾワゾワの知識"って特殊能力については?」
「うん! おけおけ! 十分、十分! ………それで?このボッズーの"ゾワゾワの知識"がギッチョンが見付けた自分なりの答えってのにどう繋がるの?」
「へへっ! そうそう! それが本題だよな! へへっ! なぁ? 勇気辺りは勘付いてるんじゃないか? ボッズーの"ゾワゾワの知識"の説明が必要な、俺が出した自分なりの答えってのが何なのか!」
夢への説明を終えた正義は、夢の隣に座る勇気に視線を移した。その瞳には期待があった。『答えてくれよ!』と言っている期待があった。
問い掛けられた勇気は、
「まさか……」
一言呟き、顎を叩く仕草を止めた。どうやら正義の期待通り、勇気は正義が何を言おうとしているかに気付いている様子。だが、その顔は険しい。
そして、こう答える。
「もしかしてだが、正義はボッズーが寝ながらにして"ゾワゾワの知識"を発動させた……と言いたいのか?」
「へへっ!」
正義は『ご名答!』と言いたげにニカッと笑った。
「その通り!」
だが、
「う~ん……」
勇気は小さく唸り、不満そうに眉間に皺を寄せた。この表情は、明らかに『正義の意見に賛成出来ない』と言っている。
でも、正義はまだ説明の途中だ。だからこう言う。
「へへっ! 待て待て! 勇気が言いたい事は分かってるぜ! 『ボッズーがゾワゾワしたなら自分がどんな知識を思い出したのか分かってる筈だ』って言いたいんだろ? でもさ、寝ながらゾワゾワしたって事は夢の中でゾワゾワしたって事なんだ。夢の中でゾワゾワしたなら、目を覚ました時に『何にゾワゾワしたのか思い出せない』ってなってもおかしくないだろ? だって、よくあるじゃん? 目が覚めた時、寝てる間にどんな夢を見てたのか思い出せない事ってさ!」
「あぁ~確かにあるね!」
相槌を打ったのは夢だ。
「私もよくあるよ! 楽しい夢を見てた筈なのに、目ぇ覚ましたら『どんな夢見てたんだっけ?』ってなる事! 楽しいって感情は残ってるのに変な感じする!」
「へへっ! な、あるよな!!」
正義は同意者が現れると『ほら、どうだ!』という感じで再び勇気を見た。
「だが……」
「それじゃあ、」
……勇気は小さな声で何か意見を言おうとした。でも、同時に愛が喋った。彼女の声の方が大きい、勇気は黙った。愛に出番を譲ったんだ。
譲られた愛はまだ半信半疑な表情を崩してはいない。
彼女は正義にこう問い掛ける。
「それじゃあ……さっきせっちゃんが言ってた、ボッズーの寝言は『寝言であってただの寝言じゃない』っていうのは、ボッズーは夢を見てたから確かに寝言は言ってたけど、その内容はボッズーの頭の中にあった知識だから"ただの寝言じゃない"って事なんだ?」
「あぁ、そうだぜ!」
正義はニカッと笑って答えた。
対して愛は
「そっか……なるほど」
と呟いて、顎に手を置いた。その目は閉じられる。
それから、次に勇気が喋り出す。彼は半信半疑どころか明らかに納得のいっていない表情になっている。
「俺にはちょっと強引な理屈に聞こえるな……いや、理屈と言うよりも、状況証拠も伴っていない只の理想と聞こえる。出したい答えが先にあっての、理想……そんな感じだ」
勇気は苦言を呈す。だが、正義はそれでも自信満々だ。
「でも、あり得なくはないだろ?」
「どうだか……」
勇気は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
すると、
「う~ん……」
また愛が喋り出す。彼女の瞼はもう開かれている。
「……まぁ、あり得るかあり得ないかで言ったら、せっちゃんの言う通り、あり得なくはないかもね」
おそらく正義に腹が立ってきているだろう勇気とは正反対に、愛は正義に同意した。
彼女は顎に手を置いて少し考えたらしい。そして、彼女なりの答えを出していた。
「確かに信じがたい事だよ。でも、せっちゃんを否定するには早過ぎるかも。だって、勇気くんは『状況証拠が伴ってない』って言うけど、本郷に出てくる白いモヤモヤの数と行方不明になってる中学生の数は一致するし、ボッズーの寝言にあった『白いモヤモヤは丑三つ時に現れる』っていうのも実際そうだったし、状況証拠が伴ってないって事はないんじゃない?」
「おい……桃井まで何を言っている」
勇気は眉を八の字に歪めて困った顔を見せるが、対する愛は眉間に皺を寄せた。
「何を言ってるって言われても、私は私の考えを言ってるだけだよ。それに……私、一つ気になってる事があるんだ。せっちゃんが見た"戦う白いモヤモヤ"に関しての事なんだけど」
「あぁ、アイツか!」
「うん……私は"戦う白いモヤモヤ"を実際に見てないけど、話を聞いてる限りだと明らかに他のモヤモヤとは違う感じだよね? だって、逃げるモヤモヤを助けてたんでしょ? これって……せっちゃんの推理を前提に考えたら納得いくんだよね」
「ギッチョンの推理を? どゆこと?」
夢が首を傾げた。
愛はこう答える。
「だって、行方不明の中学生が白いモヤモヤなんでしょ? じゃあ、その中には優くんがいる……それなら、もしかしたら"戦う白いモヤモヤ"って優くんなんじゃないかな?」
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