第2話 君は何処へ 8 ―正義の推理はまとまった―

 8


「おけおけ!」


 正義の頼みを夢は快く引き受けてくれた。

 でも、正義がお願いした協力の内容は『おけおけ!』と快諾するには軽すぎる内容だった。


 その内容はこうだ。


「今すぐ警視庁のホームページを開いて公開捜査されてる行方不明者のリストを見てほしい。その中に今年の2月15日以降に行方不明になった中学三年生が何人いるか調べてほしい」


 ここまでは簡単……だが、次からが難しい。


「それが分かったら、次は全都道府県の非公開にされている行方不明者の中に、さっきの条件に当て嵌まる子供が何人いるかを調べてもらいたいんだ。取り敢えず近場の警察署に侵入して、全国の行方不明者のリストが見れるか試してほしい。もし、一つの警察署で全国の情報が見られなければ、各都道府県の警察署を回ってでも調べてほしい。多分……全部で七人の筈だから」


 ――こんなブラック企業が如くムチャ振りに、夢は嫌な顔一つせず『おけおけ!』とたったの四文字で返した。


 そして翌日の夜、正義のもとに夢からの通信が届いた。それは結果報告。その内容はこうだった。


「ギッチョンの推理がピンポンだったよ! 2月15日以降に行方不明になってる中学三年生が、北は北海道から南は沖縄まで、全部で七人いた!!」


 この報告が出来るまでに、夢は鳥になって全国を飛び回った。時には男性刑事に、時には女性刑事に変装して、各地の警察署に侵入し情報を集め回った。

『集め回った』としても簡単ではない。警察から情報を盗むなんてバケモノと戦うよりも難しいのだから。それは正にミッションインポッシブル――たとえ映画のヒーローでも、イーサン・ハントか、はたまたジェームズ・ボンドでなければ成し遂げられないだろう難易度だ。


 しかし、こんな夢の大活躍&大冒険は小説であれば一冊の本に、映画であれば三時間あまりの大作に、漫画であれば五十巻近くの長編に、ドラマであれば1クールもの長さを使わなければ語れないのだからここでは語れない――夢が伝えた情報は、行方不明になった優たちとボッズーの寝言との繋がりを更に感じさせるものだったのだから、夢の大活躍&大冒険を語っている間に正義が次へ次へと進んでしまう。


 実際、夢からの報告を待っている間に、正義は本郷に行って『白いモヤモヤが現れる時間は丑三つ時』という説を確定させていた。


 それでは、正義は次に何を行ったのか。

 それは勇気と愛と夢を呼んでの会議だ。


 ―――――


 夢からの報告を受けた翌日、正義は皆を集めての会議を開いた。

 その冒頭で正義は自分自身の考えを語った。それは『本郷に現れる白い靄の正体は、魔女によって裏世界に連れ込まれた中学生たちではないか?』……という推理だ。


 この推理の根拠は、やはりボッズーが寝惚けて言った《表世界》と《裏世界》の話だった。



『………二つの世界は一日に一度……とても近しい存在となる………表世界では裏世界にいる生命を感じ取れ………裏世界では表世界から連れ込まれた者が石の呪縛から解き放たれ、再び動き出せる……』


『表世界と裏世界が近くなる時間は午前二時から午前二時半までの間だ………』


『裏世界は魔女の支配下にある………バケモノを生み出す為に、闇を抱えた人間を作り出す為の場所……魔女はバケモノの養殖を、表世界から連れ込まれた人間が動き出せる午前二時から行う……』



 この話を根拠に、正義は推理を組み立てた。


 だが、はじめは正義自身も『ボッズーの寝言と優たちが行方不明になった事が繋がるのはおかしい!』と考えた。でも、『どーしても繋がっちまうなら、気になるのが晴れるまで調べてやる!』という考えの下に夢に調査をお願いすると、その調査結果は『2月15日以降に行方不明になった中学三年生の数は、本郷に現れる白い靄の数と一致する』というものだったのだから、正義的には自分の推理の裏付けとなってしまった。


 そして、『白いモヤモヤが現れる時間は丑三つ時』という説も正義自身が調査し立証させていたのだから、『調べても調べても繋がっちまうなら、繋がっちまうのが正解になる!』とボッズーに語っていた通り、正義は自分自身の推理を信じると決めた。


 だから、会議の冒頭に仲間たち皆に自分の推理を披露してみせた。


 ………のだが、


 仲間たちの反応は半信半疑だった。特に眉間に皺を寄せ、『信じ難い……』と言いたげな表情を見せているのは勇気だ。


 ―――――


「寝言が根拠か……流石に反応に困るな」


 切り株の椅子に足を組んで座る勇気は、テーブルに肘をついて右手の人差し指で顎を叩いている。

 叩きながら、勇気は正義に向けていた視線を切り株のテーブルの上に立っているボッズーへと移した。


「ボッズー自身はどう思っている? 自分の寝言が根拠だと言われて……」


「う~ん」


 勇気に問い掛けられたボッズーの表情は"困惑の表情"だ――この表情は勇気に問い掛けられたから出てきた表情ではなく、『ボッズーの寝言が根拠だ』と正義に言われたから出てきた表情だ。


「う~ん……勇気と同じだボズよ。俺も困ってるだボズ。正義の推理は俺が寝言を言ってなければ理解出来る内容だけどボズ。でも、寝言は寝言だからなボッズー」


 ボッズーは自分の困惑を言葉で表した。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ!」


 でも、正義はどんなにボッズーが困惑しようが、勇気が『信じ難い』という表情を見せようが、自分の推理に自信を持っていた。


 だから、こう言う。


「最後まで俺の話を聞いてから判断してくれよ! 二人は寝言だから否定って感じだけど、そうじゃないぜ、あれは寝言であってただの寝言じゃないんだよ!」


「寝言であってただの寝言じゃない? どういう意味だ?」


「いやぁ、だってさ、俺だってさ、はじめは『優が行方不明になった事と、ボッズーの寝言を繋げるのはおかしい』って思ってたよ。でも、そこにはちゃんとを見付けてきたぜ!」


 そう、正義は"ボッズーの寝言が根拠"という否定されるだろう部分にも自分なりに答えを見付け出していたのだ――因みに、切り株のテーブルをぐるりと囲んで座っている仲間達と違って、正義は切り株の椅子に股がってはいるが一人だけ立っている。座るのも忘れるくらい、話したくて仕方がないのだ。


「自分なりの答えだと?」


 自信満々に宣言した正義に対して、勇気は『言ってみろよ……』という感じ。


「それは、どんな答え?」


 これは愛だ。正義の隣に座る愛も正義の推理に半信半疑な顔をしている。だが、『信じたい』という気持ちはあるのだろう。正義に向かって前のめりになったその仕草からは、彼女の想いが感じられる。


「うん、分かってる。今から話すよ。でも、ちょっと待って! その前に二人に確認したい事があるんだ」


 疑う勇気と、信じたい愛……真逆な二人に問い掛けられた正義は『自分なりの答え』を話す為にも二人に聞きたい事があった。


「二人にはこの間ボッズーから説明があったよな? ボッズーの頭の中には、俺たち英雄や《王に選ばれし民》の知識がいっぱい眠ってるって話?」


「あぁ、聞いたな」


「うん、覚えてるよ」


 二人はコクリと頷いた。


「んじゃOK。でも夢はどうだ? ボッズー、夢には話してないよな?」


「え? あぁ~確かにしてないかもボズ」


「夢、されてないだろ?」


 正義は自分の正面に座る夢に向かって聞いた。


「うん、聞いてないよ。何それ?」


 夢はキョトンとした顔。


「そうだよな。なぁ、愛、勇気、悪いけど、話を先に進める前に、まずは夢にボッズーの特殊能力の話をさせてくれ。じゃないとここからの話に夢が置いてけぼりになる」


「そうなの? うん、全然いいよ」


 正義のお願いに愛はすぐに頷いた。


「まぁ構わないが。しかし、簡潔に纏めろよ。お前の話はいつも長いからな……」


 勇気は渋い顔。だけど許可はくれた。


「へへっ……分かってるって、すぐに終わらせるよ。んじゃ、夢。あのな、ちょっとビックリな話なんだけど!」


 正義は『では早速!』と話し出した。

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