ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!!~世界が滅びる未来を知った五人の少年少女はヒーローになる約束をした~
第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」 12 ―トウレルカメレオン現る!!―
第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」 12 ―トウレルカメレオン現る!!―
12
『俺か……』と呟いた正義は右手で頬を強く叩いた。
そして、更に呟く。
「気合い入れんぞ……」
昨日からの正義の頭の中には常に"疑問"が浮かんでいた。作戦を開始してからは『"疑問"は一旦捨てて、とにかく今は柏木を倒す事に全力になろう』……と、『スケスケ男撃退作戦』に気合いを入れて臨んでいたのだが、柏木が現れるまではあくまでも準備段階だった。柏木が現れたのなら、ここからが本当の本番だ。気合いに更に気合いを入れても余りはしない。
「ボッズー、アイツは今何処にいるんだ?俺から何m離れてる?」
「15mくらいかなボズ……ビルとビルの隙間から半身を出してお前の方を見ているだボズよ」
「分かった……変態野郎め、男だったら堂々とナンパしろっての」
そう言って正義は辺りを見回した。
これまで正義は24時間営業のスーパーの周辺をうろちょろと動き回っていたのだが、現在は出発から三十分が経って、スーパーの裏手の方に来ていた。その裏手には大きな駐輪場がある。正義はその駐輪場に目を付けた。
「ボッズー、とりあえず俺は右斜め向こうに見えるデッカイ駐輪場に行くよ。アソコなら俺が歩くのを止めてもおかしくないだろうし、屋根も無いからアイツも狙い通りに動いてくれんだろ。ボッズーはアイツの動きを実況しといてくれ……」
「了解ボズ……」
「頼むぜ……んで、この通信は勇気達にも聞こえてんだよな?」
そう問い掛けると、ボッズーの代わりに勇気の声が正義の耳に届いた。
「あぁ、聞こえてるよ……しくじるなよ、正義」
それから、愛。
「うん、聞こえてるよ。せっちゃん、気を付けてね……」
次に夢の声も届く。
「ギッチョン、頼んだよ!」
「へへっ……」
三人の声を聞くと正義は笑った。
「……聞こえてるなら全然OKだ。それに夢、愛、勇気、俺はこれよりも危険な場面に何度も遭遇してんだ、任せてくれよ。それよりも、みんなも作戦通り頼むぜ……」
ここまで話すと正義は黙った。笑顔も仕舞い、歩調を緩める。向かうは巨大な駐輪場。
「柏木も動き始めたぞボズ……やっぱり、お前を狙ってるみたいだボズ。お前を見ながら、そっちに向かって歩いているだボッズー……」
「………」
ボッズーの実況に正義は答えない。無視ではない。しっかりと聞いている。しかし、つけられている事に気付いている素振りは見せられない。黙っている事こそが返答だ。
それから、正義は夜間は押しボタン式になる短い横断歩道を渡り、横断歩道からすぐ近くの駐輪場へと足を踏み入れた。
「………」
ガランとした駐輪場の中を正義は奥へ奥へと進む。
一番奥に着いた時、背後から『キィ……』とフェンスが開く音がした。
「正義……柏木が入ってきただボズよ」
「………」
正義は生唾を飲み込んだ。
『スケスケ男に目を付けられた人は、とりあえずギリギリまで男を惹き付けてほしい! ギリギリまで来たら、私に合図して! そしたら、私は能力を解除するから!』
『いや、夢への合図は俺が送るボズ! 俯瞰で見てる俺の方が合図を出しやすいからなボッズー! 任せろボッズー!』
……と、昨日の打ち合わせ中に夢とボッズーが言っていた。
英雄達に厳しいボッズーは昨日も夢に厳しい意見を言っていたが、夢が発案した『スケスケ男撃退作戦』には前向きだ。だから今も、約束通り夢に合図を送る為に、正義に柏木との距離を伝える為に、事細かく実況を続けていた。
「柏木はゆっくり歩いてきているだボズよ……抜き足差し足……あっ、フードに手を掛けただボズ……そろそろ襲い掛かるつもりかも」
「………」
誰の物かも知らない自転車に手を添えて「鍵が無い……あれ? どこ行った?」とコートのポケットをまさぐる演技をしていた正義は『そろそろ……』というボッズーの言葉を聞いて、コートのポケットから鍵ではない別の物を取り出した。
「あと十歩くらいかな……九、八……七………」
正義がコートから取り出した物を握り締めた時、ボッズーのカウントダウンが始まった。
「五……四……そろそろボズ……二……一………ゼロッ!! 今だボズ!! 夢やれ!! 正義振り向け!!」
ボッズーの合図が叫ばれた。
その瞬間、正義は自転車からパッと手を離し、勢い良く振り向いた――と同時にその体は目映い黄色い光に包まれる。
―――――
「えッ! 何ぃ?! え、英雄!!!」
正義が振り向いた瞬間、柏木が叫んだ。柏木はすぐに気が付いた様子だ。『目の前に居た女は英雄が化けていたのか!』……と。
それは何故なのだろうか。夢の能力が解除されたとはいえ、正義は"柏木に狙われそうな外見の女性"の姿から、赤井正義自身の姿に変わるだけだから、赤井正義=ガキセイギと知らぬ柏木には英雄だと分からない筈なのに……
……その理由は単純だ。黄色い光が消えた後に、柏木の目の前に立っていたのは人間の姿の正義ではなかったからだ。《正義の英雄》ガキセイギの姿に変わった正義だったからだ。
「そうだぜ! 英雄だぜ!! 正義の心で
ガキセイギは啖呵を切る様に叫んだ。
……では、正義は一体いつ変身したのだろうか。後ろを振り向いた瞬間か?それとも黄色い光に包まれている間か?
……いや、そのどちらでもない。正義が変身したのは、"柏木に狙われそうな外見の女性"に変わるその前だ。
そうだ、正義達英雄は人間の姿から"柏木に狙われそうな外見の女性"に変わったのではなかったのだ、ガキセイギやガキユウシャの姿に変身してから変わっていたのだ。
その理由は、作戦を迅速に第二段階に移す為。
昨晩、夢は言った。
『作戦を第二段階に移す為に、スケスケ男に狙われた人はアイツを透明にしてもらいたいんだ!』と。
その言葉を受けて勇気が言った。
『ならば、俺達は変身してから黄島の能力を受けるというのはどうだ? 柏木は敵が現れればすぐに逃げ出す逃げ足の速い奴だからな、ヤツが接近してきた時に黄島が能力を解除し、俺達が英雄の姿を見せれば、柏木は秒で透明になろうとする筈だ……』と。
この提案を夢は『いいね!』と受けた。
だから、夢はボッズーから合図をもらって《ドリッチフォーゼ》の能力を解除したのだ。
……では、何故夢は柏木に透明になってもらいたいのか? それは、『敵の得手を奪う為』――これだ。
得手とは何か?それは、柏木でいえば『透明』――これだ。これを奪いたいのだ。
……では、『奪う』とは何をするのか。それは、とても単純だ。
―――――
「性懲りもなくまた現れたんですか! うぅ……こうなったら透明になってやる!」
柏木はセイギを睨み、その姿をカメレオンのバケモノの姿に
「あなた達英雄が何度現れても私を捕まえる事なんて出来ませんよ!!」
電灯の上に逃げようと電灯の天辺にくくりつけた舌を柏木が縮めた瞬間、その体は半透明になった。これもまた昨日と同様。ならば、柏木はここから一気に透明になってしまうだろう――しかし、その前にセイギが動いた。
「どうだろうな! 俺と同じで真っ赤になれば、そうじゃないんじゃないか!!」
セイギは宙に足を浮かせたばかりの柏木に向かってボール型の何かを投げた。それは、"柏木に狙われそうな外見の女性"の時のセイギが、ポケットから取り出した物だ。
「うわっ!! 何ぃ!! 何だこれ!!」
そのボール型の何かは柏木の体にぶつかると大きく弾け、中からは真っ赤な液体が飛び出した。
「へへっ! カラーボールってヤツだよ! 知らねぇか? 悪い奴に向かって投げるヤツだ!!」
「何ぃ! 何て事をぉ!!」
柏木は電灯の上には飛び乗れた。しかし、その体にはカラーボールから飛び出した真っ赤な塗料が塗られてしまって、真っ白な体をしていたカメレオンのバケモノも、今では真っ赤な体のバケモノだ。
「しかし!! こんな事をしても私には無駄ですよ!! 再び透明になれば良いのです!!」
そう言って柏木は両拳を握って全身に力を込める仕草を見せる。だが、
「ん? ア……アレ?」
その体が再び透明になる事はなかった。
「へへっ! 夢の予想した通りだな!! お前はもう透明にはなれないぜ! だって、お前の体に俺が色を塗っちまったんだからな!!」
「何ぃ!! しかし、昨日はピンク色の光を透明に出来ましたよ!! ちょっと時間は掛かりましたが……きっと二度目に透明になるには少し時間が掛かるだけ、遅効性の透明なんですよぉ!!」
柏木は持論を叫ぶが、それをセイギが否定する。
「ピンク色の光? あぁ、それってキュアリバだろ? アレはなぁ、お前が透明にしたんじゃねぇ、アレは時間が経つと勝手に消えんだ!!」
「えぇ……」
「へへっ! やっぱ夢の予想は当たったな!!」
夢は昨日こう言っていた。
『スケスケ男がスケスケになったら、私が用意したこのカラーボールをぶつけて! 多分だけど、スケスケ男は一回スケスケになった体の上に色を塗られちゃうと、またスケスケにはなれない筈なんだ! だって、スケスケ男はあいちんのキュアリバに体を包まれた後、全然スケスケになろうとしてなかったじゃん! あいちんのキュアリバは遠くから見てた私でもすぐに見付けられる位にキラキラ眩しかったんだから、きっとスケスケ男だって自分の体がキラキラ光ってるのに気付いてた筈だよ、それなのにならなかったのはそういう事だよ!』
……と、夢は自信満々に言っていた。だが、それでも確証が無い事だから少し不安があったのだろう。最後にこうも付け加えていた。
『もしこの推理が間違ってたら、その時はあいちん、キュアリバを急いで持ってって!』……と。
しかし、夢の推理に間違いはなかった様子だ。
「キィィィ……!! トウメルカメレオンの能力をもってしても透明になれない事があるのか!!」
柏木は歯軋りをしながらそう言った。
「トウメルカメレオン? それってお前のバケモノとしての名前か?」
「煩い!!」
セイギの質問を怒鳴りつけた柏木は……いや、《トウメルカメレオン》は、背後に見えるスーパーの屋上のフェンスに向かって舌を伸ばした。
「へへっ!」
トウメルカメレオンは逃げ出してしまった。しかし、セイギは余裕綽々な雰囲気。
何故なら、これもまた予定通りだからだ。
「みんな、柏木が逃げ出したぞ、予定通りだ。俺は追い掛けるから、みんなも作戦通り頼むぜ!」
「おう……」
「了解!!」
「OK!!」
「へへっ!」
仲間の声を聞いて、セイギはスーパーに向かってジャンプ。トウメルカメレオンの追跡を開始した。
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