第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」 13 ―逃げる、逃げる、カメレオン男―

 13


「はぁ! ふぅ! ひっ! ひっ! はっ! はっ!」


 トウメルカメレオンは追い掛けてくるセイギから逃げようと、ビルからビルに飛び移り続けていた。

 それは長い舌を使っての移動で、舌を伸ばしてはビルの一部を掴み、今度は舌を縮めて一部を掴んだビルに飛び移る。この動作の繰り返しだった。


 素早いのが特徴のトウメルカメレオンだ。移動するスピードは速い。


「英雄もしつこい男だなぁ! いつまでも追い掛けてきやがって! 私は素早いですよ! どう足掻いても追い付けません!!」


 トウメルカメレオンは舌を伸ばしながら器用に喋る。後ろを振り向いてセイギを挑発する言葉を放った。


「……って言っても、もう30mは離れてる! 私の言葉はあなたには届きませんねぇ!!」


 トウメルカメレオンはまた次のビルに飛び移った。

 本郷は東京郊外屈指の繁華街と言われる街だ。街の中心に行けばビルは多く、トウメルカメレオンが得意とする逃げ方なら逃げ場に困るという事はない。

 しかもトウメルカメレオンは本郷に住んでいる。本郷はトウメルカメレオンの庭みたいな物だから、『中心街に行けば有利』とトウメルカメレオンも分かっている。だから、逃走を開始してからすぐにトウメルカメレオンは中心街を目指した―――そこに英雄達の罠が待っているとも知らずに。


「はぁ! ふぅ! ひっ! ひっ! はっ! はっ! それにしても、いつまでも追い掛けてくるなぁ! 諦めたら良いのに……良し、目の前に少し高いビルがあるな! あのビルに飛び移ったらアイツを撒く行動に出よう!!」


 トウメルカメレオンは長い独り言を言って目の前のビルを見上げた。そこは現在トウメルカメレオンが居るビルよりも10階は高い、20階建てのマンションだ。………トウメルカメレオンは知らない。このマンションまでセイギに誘導されていたなんて。



 昨日、夢は言った。

『本郷の中心街にはビルがいっぱい建ってるじゃん? その中には隣り合ってるビルの高さが、10階以上の結構な差がある場所が何個かあるよね? スケスケ男が逃走を始めたら、まずはその内のどれかの"低い方のビル"にスケスケ男を誘導してほしいんだ!』

 この夢の要求を聞いて、愛が聞いた。

『低い方のビルね、分かった。……で、次は? 次は何をしたら良いの?』

 この質問に夢はこう答えた。

『とりあえず、一人目の活躍はここで終了だよ。で、二人目はこの後すぐ登場するんだけど、まずは今日分かったスケスケ男の行動パターンを説明するね! スケスケ男ってさ、同じ高さのビルが続いてる時だと、前方か、斜め前方にしか進まないけど、背の高いビルに飛び移った後は、右とか、左とか、逃げる方向を変える傾向にあるの! 多分、同じ高さが続いてるとギッチョン達の追い掛けるスピードもピョンピョンって感じで早いけど、背の高いビルに行く時はピョン……ピョンって感じで一拍開く感じになるから、このちょっとのロスタイムを使ってギッチョン達を撒きに掛かってるんだと思う! 低い方のビルまで誘導出来れば、スケスケ男は絶対に隣の背の高いビルに飛び移る筈……そして、ここで活躍するのが二人目! つーか、私!』

『夢ちゃんが?』

『そう! スケスケ男が背の高いビルに飛び移ろうとした瞬間、私が「ズーンッ!」ってやるんだ!!』

『ズ……ズーンッ?』

『そう! ズーンッ!』

 夢は基地の天井に向かって拳を大きく突き上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る