第四章 五人の英雄 編

 第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」

第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」 1 ―幽霊を見た―

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「タァッ!!!」


「トウッ!!!」


「ハッ!!!」


 セイギ、ユウシャ、アイシンの三人は各々別々の気合い漲る声を発しながら、夜の闇の中でビルからビルへと跳び移っていた。


 そして、跳び移ったかと思うと、また次のビルへ、そしてまた次のビルへと跳び移る……何かを探す様に辺りをキョロキョロと見回しながら。


 時刻は丑三つ時と呼ばれる頃、英雄たちがビルからビルへ跳び移る謎の行動を取っていても、彼らの姿は夜の闇に紛れてしまって誰も気付きはしない。


 では、彼らはいったい何をしているのか……かくれんぼの鬼役でもやっているのだろうか?


 いや、そんな子供の遊びではない。


 だが、探している事には間違いはない。では、何を探しているのか、それは………




 幽霊だ。




 何故、英雄たちが幽霊を探しているのか、その理由はこの日の朝にまで遡る。


 ―――――



「本郷で幽霊を見た? それは本当かボズ?」


「あぁ、幽霊つーか、幽霊っぽい物をな! なぁ勇気?」



 ホムラギツネ事件が解決し、山下商店が営業を再開した翌日。その午前中、正義と勇気と愛とボッズーの四人は《英雄たちの秘密基地》へと集まっていた。

 集まった理由はダベりにじゃない。英雄としての今後の行動を決める為の"会議"だ。


 この会議で彼らは、SNSやニュースで得た情報を持ち寄って『《王に選ばれし民》が暗躍しているのではないか? 』と考えられる事柄をピックアップしようとしていたのだ。だが、その途中に正義が突然『そういえば勇気、俺達本郷で幽霊みたいの見たよな?』と言ったのだ。



「う~ん、幽霊っぽい物……俺は幽霊自体をあまり良くは知らないが、確かに正義が言う通り、俺達はおかしな物を見たよ。それは……柏木を見張っていた夜の事だ。ボッズーがカラオケの忘れ物BOXに入っていた時だよ。あの日、俺と正義は雑居ビルの上で待機していたのだが、その時正面のビルの上に、ファミレスがあるビルだ、白い靄の様な人型ひとがたの"何か"を見たんだ」


「そうそう! それが何かその時の俺達は分からなかったけど、何か気持ち悪いだろ? だから、『何なのか確かめよう!』って、変身して正面のビルに跳び移ってみたんだよ。でも、跳び移ってみたら、白いモヤモヤはもう無くなってて『あれ?』って思ったら、今度は隣のビルの上に居たんだ」


「そう……そして、俺達はまた隣のビルへと跳び移った。だが、また白い靄は消えていた。『おかしい……』と思い辺りを見回すと、今度は白い靄は道路に居たんだ」


「しかも、立っているんじゃない。何か探し物をしている感じで、キョロキョロ首を動かしている感じだった。それから白いモヤモヤは道路を走り始めたんだけど、通り掛かった車にぶつかる! ……って瞬間に、また姿を消したんだ」


「それから"次"は無かったな。だが、俺達は気になって仕方がなくてな、辺りのビルを跳び移り回って、また白い靄が現れてはいないかと探したんだ……しかし、ビルの上にも道路にもその後白い靄は現れなかった」


「おいおい、何だそれボズ!!」


 この説明にキッ! と勇気と正義を睨み付けたのはボッズーだ。


「そんな話、初めて聞いたぞボズ!! 瞬間移動する白い靄なんて《王に選ばれし民》が関わってる臭いプンプンじゃないかボッズー!」


「うん……バケモノくさ過ぎるよ、ソレ!」


 愛もそうだ。彼女は睨みはしないが抗議の眼差しを勇気と正義の二人に向けた。


「ごめん……ボッズーや愛にはその後話すタイミングが無くて全然話せてなかった」


 申し訳なさそうに正義は言うが、しかし、


「『話せてなかったな』じゃなくて、話せボズ!」


「そうだよ、話しなさいよ」


 二人は頬を膨らませた。


「ご……ごめん」


 正義は髪をポリポリと掻きながら、二人に向かってペコリと頭を下げた。



 ………と、そんな経緯があり、何やかんやと文句を言いながら、何やかんやと文句を言われながら、英雄たちはその日の昼前には本郷へと向かう事にした。


 正義たちが会議に持ち寄ったその他の情報は、中学生の失踪事件や、とある地方の山中で獣に食い殺された様な多数の犬の死体が発見されたというニュース等々で、《王に選ばれし民》が暗躍していると関連付けるには決定的なものが無い事柄ばかりだった。

 しかし、本郷の幽霊らしき存在は実際に英雄二人が目撃した存在であるから、『まずはこれの調査から当たろうボッズー!』とボッズーが決めたのだ。


 そして、そして、本郷へ着くと英雄たちは驚くべき情報を得たのであった。

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