第8話 彼女の声はいつも心に届いてる
第8話 彼女の声はいつも心に届いてる 1 ―忘れないであげてね―
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アイシンが発動させたキュアリバは一瞬の内に町を元通りの姿に戻した。
ボッズーが言った『時間を巻き戻す』という言葉の通り、建物や車や家や何もかもが事件が起こる前の状態に戻ったのだ。
因みに、キュアリバを発動させようと急いでいたが為に英雄達は誰も気付かなかったが、芸術家が消えた時には輝ヶ丘を覆っていた巨大テハンドも一緒に消えていたらしく、町の閉鎖も無くなった。
………そして、それからの日々はあっという間だった。
それは、事件も無く静かな日々。しかし、愛達の周りでは様々な出来事が起こっていた。
学校が再開されたのも"様々"な内の一つ、そして、また別の内の一つが、輝ヶ丘の住民の誰かが撮った"キュアリバを発動させるアイシンの動画"が大バズりをした事だ。
動画は一つじゃなく色々な人が撮った物なのだが、それは瞬く間に拡散され、輝ヶ丘を一瞬で元の姿に戻したキュアリバの効果と、メタリックピンクのスーツを纏ったガキアイシンの美麗さがどちらも世間の注目を集める事になり、SNSでもTVでも連日アイシンの話題が取り上げられる事態になってしまっていた。
更にこの話題はある噂話を呼んだ。
それは、『ピンクの英雄の正体は消えた女子高生記者か?』という噂だ。
『消えた女子高生記者』とは、勿論真田萌音の事。
彼女が姿を消したという情報も、アイシンの話題と並んでニュースになっていたのだが、いつしか二つが合わさって、世間では『真田萌音=ガキアイシン』という見方がされ始めたのだ。
そして、この噂話を嬉しく感じていた人物がいる。それは、山下のお婆ちゃんだ。
お婆ちゃんは事件の翌日からずっと熱を出して寝込んでしまっていた。これは精神的なダメージのせいだろう。萌音の死を正義達から聞いたお婆ちゃんはショックを受けて夜通し涙を流したのだから。
そして、事件が解決してから次の次の土曜日、お婆ちゃんは久し振りに店を開いた。
そこには、悲しみなど何も無かったかの様な大きな笑顔で店に出るお婆ちゃんの姿があった。
その理由に『真田萌音=ガキアイシン』という噂話があったのだ。
何故なら、お婆ちゃんはこの話を聞いた時、こう思ったから。
『萌音ちゃんは、これからも皆の心の中で生き続けるんだね……』と。
お婆ちゃんはもう高齢だ。そして、お婆ちゃんには歳を重ねて悟った死生観がある。それは『死は命あるものに必ず訪れる現象、ならば誰にでも訪れる死より、一生懸命生きてきた人生が忘れ去られる事の方が怖い』……という内容だった。
だから、お婆ちゃんは『真田萌音=ガキアイシン』という噂話が広まれば、『萌音ちゃんの存在は誰からも忘れ去られる事はない』と思えて、嬉しかったのだ。
「正義ちゃんも勇気ちゃんも萌音ちゃんの事を忘れないでいてあげてね」
店の再開を聞いて訪れた正義と勇気に、お婆ちゃんはそう言った。
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