第7話 バイバイね…… 35 ―せっちゃんだよね?―
35
「だから、君、せっちゃんだよね? 赤井正義のせっちゃんであってるよね?」
「あ……えっ? は、はい……そうですけど。何でそれを……」
セイギは戸惑った。萌音の前に立ったのだからセイギもユウシャと同様に萌音を説得しようとしたのだ。でも、突然の萌音の質問に調子を狂わされてしまい戸惑う姿しか見せられない。
萌音は反対だ。戸惑うセイギとは逆に、
「やっぱりそうか~~! 君に語り掛けられた時、そんな気がしたんだよね! 『この子がもしかしてせっちゃん?』って」
……と、笑った。
「そ……そうなんすか? でも、何で俺の事を?」
この質問に萌音はまた笑う。
「ははっ! だって私、桃ちゃんと仲良しなんだよ。君の話、あんな事やこんな事……色々聞いてるし!」
「あんな事や……こんな事?」
『どんな事?』とセイギは思うが、次の萌音の言葉にセイギはまた戸惑ってしまい、質問をする事が出来なくなってしまう。
その言葉はこんな言葉だった。
「うん、そうだよ! あんな事やこんな事。でも、君が桃ちゃんの話から想像してた通りの子で良かったよ。想像通りの"自分勝手な馬鹿な子"で!!」
「じ……自分勝手な」
「そう! 馬鹿! ははっ! だってさ、かなりヤバイ状況の私に『もう少し耐えろ!』って無理強いにも程がない? 自分勝手だし、馬鹿でしょ!」
「あ……えっと、それは」
確かにセイギも萌音にした要求は無理強いだと理解していた。でも、改めて指摘されるとしどろもどろになってしまう。
だが、萌音の言葉は自分への嫌味や文句ではなかったと、セイギはすぐに理解する。それは次の言葉があったからだ。
「ははっ!」
萌音はセイギのしどろもどろが面白いのか大きく笑った。
「真田さん……」
「あぁごめん、ごめん。勘違いしないでね! 君を馬鹿にする気はないの。無理強いしてでも、私を助けようとしてくれたって事でしょ? だから、あの時君からも感じたよ。桃ちゃんにも負けないくらいの愛を……」
「愛……ですか?」
セイギは咄嗟に動いただけだったから萌音の言い分にピンとは来ない。
ならば、次の言葉もそうだった。
「でもまぁ、それは私に向けられた愛じゃなかったけどね! もっと別の人に向けられたものだった!」
「別の人に向けられたもの?」
セイギは何もピンと来ない。無自覚だからピンとは来ない。
そんなセイギを尻目に、萌音は再び歩き出した。
それは、セイギが『別の人って誰だ?』と思考の視線を空に向けた瞬間で、ピンと来ない言葉を言った事は自分を止めに来たセイギを回避する為だったと思えるくらいの絶妙なタイミングだった……
「あっ……待って下さい! 真田さん! 俺はあなたと話がしたいんです!」
早足で歩き出した萌音は、セイギがハッとした時にはもう既にセイギの背後にいた。
「何、話しって? どうせ青木くんと言いたい事は同じでしょ?」
セイギは呼び止めるが、萌音は止まらない。瓦礫の山になった輝ヶ丘高校の校舎まで萌音はあと数歩の距離。
「止めても無駄だよ。だって私は止まらないから。私に残された時間はもう残り僅かなの……君に分かりやすく伝えるなら、私の中にある爆弾が今すぐにでも爆発しそう……そんな感じかな? 後一分も無いかも! 君なら、こんな状況で私が何を考えるか理解出来るよね? 自分勝手な君だもん! 私と同じ状況なら、多分私と同じ事を考える筈! どうせ死ぬなら、死なばもろとも、憎いコイツと……」
萌音は芸術家の首と右手を強く捻った。
「……一緒に、大爆発してやろう! って、そう思うでしょ?」
萌音は瓦礫の山に足をかけた。
「待ってください! 真田さん!! 俺はあなたに犠牲になってほしくない……」
「だろうね! 分かってるよ! 私が君ならそう考えるから。でも、これは犠牲になるんじゃないの。これは私自身の戦いなんだよ。私と《王に選ばれし民》との戦いなの。だから止めないで。お願い……」
萌音は瓦礫の山を登り始める。
「待って下さい……」
セイギは言うが、この時、セイギは考えてしまった。
セイギは最善の選択を考えて行動する男だ。だから、セイギは考えてしまったのだ。
『今、真田さんを止めても結局は何も出来ない。だったら、真田さんの望み通りの最期を迎えさせてあげる方が、真田さんとっては良いのではないか?』……と。
「………」
考え始めると、セイギは足を止めてしまった。萌音を追い掛ける事を止めてしまった。
まだ自問の答えが出ていないのに……
―――――
足を止めた事が正しかったのか、その後のセイギは何度も何度も考える事になる。けれど、幾ら考えても分からないまま。後悔は重ねても、生涯を終えるまで分からないまま……ずっと、ずっと……ずっと………
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