第7話 バイバイね…… 32 ―酷なのは分かっているけど、願わずにはいられない―
32
『タイムリミットが迫っている』とセイギを鼻で笑った芸術家は歌を続けた。
「真田さんを救いたいならぁ♪ たった一つの方法があるぅ♪ 時間を戻して彼女を救え♪ それしか方法ありません♪ しかしのしかし♪ 輝ヶ丘はどうするかぁ♪ 鳥さん? 鳥さん? 再び問います♪ キュアリバ100回使い切ったら♪ その後いつになったら次回使える?」
「………」
質問を投げられたボッズーは答えなかった。ただ、芸術家を睨むだけ。
「ホホゥ♪ そうですか♪ そうですか♪」
しかし、芸術家は無言のボッズーを見て満足気に頷いた。
「鳥さん無言♪ それこそ答え♪ 少しの我慢で次回が来るなら♪ 貴方はきっと笑って言うね♪ 俺達英雄ナメるなよ~~っとぉ♪ だけど言わない♪ ですから断言♪ どちらか救えばどちらか見捨てる♪ 一人を救えば大勢死ぬ♪ 大勢救えば一人が死ぬ♪ そういう事でございましょ~~~~♪♪♪」
―――――
「煩い……煩い……」
「………愛」
『俺達はどうするべきなんだ……』と考えあぐねいていたセイギの耳に、再びアイシンの声が聞こえた。
そして、芸術家の歌はそんなアイシンを挑発する歌へと変わっていく。
「さぁさぁどっち? どっちが正解? 私は英雄♪ そう名乗るなら♪ 正しい答えを出せますかぁ♪ 愛する人を見捨てる答えを♪ アイシンさんは出せますかぁ♪」
「やめろ!!」
アイシンの嘆きの声を聞いたセイギは芸術家に向かって吠えるが、
「煩いッッッッッ!!!!!」
セイギの声をかき消す位の声でアイシンが叫んだ。
「おっとぉ♪ 久し振りに貴女の声が聞けましたねぇ♪ でもでも怒鳴っても何も変わりませんよ♪ 私は知りたい♪ これが私の"新たに湧いた興味"の答え♪ 二つに一つを問われた英雄は♪ 愛する人の命を取るのか♪ それとも命は平等、大勢の人の命を取るのかぁ♪」
「やめて!! 嫌だよ!!」
今まで頭を抱えていたアイシンが、やっと顔を上げた。
「嫌だと言っても仕方がない♪ ほらほら見て見て♪ 真田さんは苦しんでいますよ♪ 体を左右に振って苦しい苦しいと悶えてる♪ でもでもよく考えて♪ 炎が生まれた輝ヶ丘では♪ 同じく悶えて苦しむ人が続出♪ 貴女が英雄名乗るなら♪ どちらを取るべき分かるよね?」
「やめて! やめてよ!!」
アイシンは立ち上がった。
「アンタが先輩をバケモノに変えたんでしょ! だったら先輩を救う方法も持ってるんじゃないの!!」
「あらあら♪ 貴女、英雄のくせに敵に頼るのですかぁ?」
芸術家は口元に手を当ててアイシンをせせら笑った。
それから又、芸術家はパッと消える。
次に現れる場所は芸術家の常套句、アイシンの背後だ。
「でも、残念ながら何もありません♪」
アイシンの背後に現れた芸術家は、アイシンを激昂させる為だろう……アイシンの耳元で囁いた。
「わぁあああ!!」
アイシンは芸術家の掌の上だ……激昂して叫び、背後の芸術家を殴ろうと振り返りながら拳を振り回す。
「愛……」
その姿に、セイギは心が苦しかった。腕を振り回し叫ぶその姿が、アイシンが『苦しい、苦しい……』と訴えている姿に思えたから。
「………」
セイギはホムラギツネを見た。彼女はまだ苦しそうに悶え、動き続けている。
「真田……さん、もう少しだけ、頑張ってくれないか」
セイギはそう呟くと、大剣を腕時計の中に仕舞った。そして、ホムラギツネに向かって走り出す。
「ギィェ……ギィェ……」
ホムラギツネに近付くと、彼女は泣く様に鳴いていた。
「真田さん!」
セイギはその肩を掴み、無理矢理にホムラギツネの動きを止める。
「真田さん! 苦しむあなたに言うのは酷なのは分かってる、けどもう少し頑張ってくれ! 愛の能力を使えば輝ヶ丘が救えるんだよ! だけど、今アイツは迷ってる、苦しんでるんだ!! このままじゃ愛が壊れちまう!! 真田さんは愛の先輩だろ?無理強いなのは分かってる、でもあともう少しだけ耐えてほしいんだ!! 輝ヶ丘が救われたら、俺達が絶対にあなたを助けるから…………うッ!!」
セイギは厳しいと分かっていても、ホムラギツネに『耐えてくれ』と懇願した。『この方法しか両方を救う方法は無い』と思ったから。
でも、苦しむホムラギツネは自分の動きを止めるセイギの手を振りほどき、再び振り回されたその手がセイギの顔面を殴った………そして、
「え?」
セイギを殴ったかと思うと、ホムラギツネは、
ドサリ………
地面に膝をついて倒れた。
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