第7話 バイバイね…… 30 ―今すぐ人間に戻す!―
30
「愛しき人を見捨てる……それはあの人の事か!!」
セイギは芸術家を睨みながら、ホムラギツネを指差した。
「流石、セイギさん♪ 物分かりの良いお方♪ その通りでございますぅ~~♪」
芸術家は再び三角形の帽子に筆を仕舞い、セイギに向かってパチパチと拍手をする。
でも、これを挑発であるとセイギは理解出来る。
「ナメやがって! お前に褒められたって全然嬉しくねぇよ!! 見捨てるって何なんだ!! 全然意味が分かんねぇよ!!」
セイギの《正義の心》は熱く燃え上がり、セイギの叫びは更に音量をあげた。
「ホホゥ♪」
このセイギの叫びにも芸術家は笑みを溢す。
「それはそうでしょう♪ 大事な話をしてる時♪ セイギさんもユウシャさんも眠っておられたのですからぁ♪」
「だったら説明しろ! 見捨てろってどういう意味だよ! この人が愛にとってどんな人なのか、下衆なお前だ! 分かってんだろ!!」
「う~ん♪ 貴方もアイシンさんも英雄と名乗りながら怒鳴ってばかり♪ 嫌ですねぇ♪」
「良いから説明しろ……こっちには時間が無いんだ」
「おっと♪ そうでしたユウシャさん♪ 早くしなければ、いつ輝ヶ丘が燃え出すか分かりませんものねぇ♪ 私とした事が長話が過ぎましたぁねぇ♪ それではご説明をばぁ~~♪」
芸術家は三角形の帽子の中から筆を取り出し、指揮棒の様に振りながら歌い始める。
「真田さんは実験動物♪ ホントは人を殺したくない♪ バケモノにだってなりたくない♪ だけど私が変えました♪ 愛を欲するバケモノにぃ♪ 与えた力は♪ 貰った愛を♪ 力に変えるバケモノだぁ~~♪ それでは誰が♪ 愛を与えた♪ それは彼女だ♪ ガキアイシンだ♪」
芸術家は筆を使ってアイシンを指した。
「彼女の愛は私の想像超えてきた♪ 強力な力をホムラギツネに与えてしまった♪ しかししかし♪ しかしの死近し♪ 人間としての意識すら失くし♪ 真田さんは暴れ回る♪ ギィェ♪ ギィェ♪ ギィェ♪ ギィェ♪ 暴れ回る♪」
芸術家は瓦礫の上に手をついて四足歩行のホムラギツネの真似をして歌い続ける。
「あまりに凄い力だから♪ 彼女は苦しむ♪ 体はボロボロ♪ 尻尾を振って苦しい苦しい♪ だけども誰も気付いてくれない♪ 彼女は限界迎えましたぁ~~♪ 大きく吠えて♪ 尻尾は腐り♪ 落ちてった♪ もうすぐ終わりだ♪ 爆発四散だ♪ 彼女の運命可哀想♪」
「やめて……」
「………」
芸術家の歌を遮ってセイギの耳に聞こえてきたのは、アイシンの声。
「愛……」
セイギが後ろを振り向くと見えたのは、耳に手を当てて『嫌だ、嫌だ……』と言う様に頭を振るアイシンの姿。
そんな彼女が漏らした声は、仮面で顔を隠していても涙を流している事が分かるくらいに震えた声だった。
「………ちきしょう」
この涙を知った時、セイギは拳を握りボッズーに言った。
「ボッズー、今すぐ黄金のタマゴを作れ」
「え?!」
今までアイシンに寄り添う様に飛んで項垂れる彼女の顔を覗き込んでいたボッズーは、セイギの言葉に驚いた表情をして顔を上げた。
「『え?!』じゃない。早くしろ……」
セイギは静かな声でボッズーにそう言うと、次はユウシャに向かって叫ぶ。
「ユウシャ! ジャスティススラッシャーをやるぞ!! 光弾をくれ!!」
「ジャスティススラッシャー……そうか、彼女からバケモノの力を取り除けば」
「そうだ……バケモノの力が強大過ぎるならそれを取り除けば良い。尻尾を失くした今の彼女になら、抵抗されずにそれが出来る筈だ」
……と、セイギは言うが
「無駄ですよぉ♪」
芸術家が笑顔を消す事はなかった。
「今の真田さんをぉ♪ 人間に戻してもぉ♪ 手遅れなのは変わらないぃ~~~♪」
「だったら魔法の果物を食べさせれば良い! ボッズー、彼女を人間に戻したらすぐに取りに行こう!」
「ホォ♪ 魔法の果物? それは何ですか? まぁ何でも良いとして♪ それを取りに行くにしても何分かかるぅ? それまで真田さんは耐えられないでしょう♪ それにぃ♪ 忘れてもらっては困りますよぉ♪ 輝ヶ丘焼け野原のタイムリミットも迫っている事をぉ♪」
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