第7話 バイバイね…… 29 ―寝てる場合じゃない―

 29


 アイシンの絶叫は、芸術家の話を真実と受け入れた証しであり、再び彼女が絶望の淵に立ってしまった証しでもあった。


「うッ……な、何だ?」


 そして、アイシンの叫びは気を失っていたセイギを呼び起こす叫びともなった。


「セイギ……」


 ユウシャも同じだ。ユウシャもアイシンの叫びで目を覚ました。


「ユウシャ……大丈夫か?」


「あぁ……セイギこそ」


 ホムラギツネの攻撃を同時に受けて地面に落ちた二人の距離は手を伸ばせば届く距離。二人は相手の身を気遣う言葉を互いにかけ合いながら立ち上がろうとする。


 だが、その前に……


「やっと起きましたかぁ♪」


 彼らの背後に芸術家が立った。


「なッ!!」


「芸術家……!!」


 セイギとユウシャは同時に驚きの声をあげる。何故なら、彼らの背後にはさっきまでは何の気配も無かったからだ。


 でも、その筈だ。芸術家は再び筆で自分の体を撫で、瞬間移動を行ったのだから。


「貴方達だけ蚊帳の外は可哀想だぁ~~~♪ 巻き込みます♪」


 芸術家はそう言うと、セイギとユウシャの首筋を掴んだ。


「うわっ!!」


「う……ッ!!」


 芸術家の力は強い。二人は抵抗する隙さえ与えられずに操り人形の様に無理矢理に立ち上がらせられた。それから、そのまま芸術家は二人をホムラギツネが居る方向に投げた。


「うッ!!」


「うわっ……!!」


 ザザッ……と音を立ててセイギとユウシャは地面に落ちた。

 そんな二人に芸術家は質問をする。


「ホムラギツネは尻尾を失くしましたぁ♪ それでも未だに♪ 貴方達を攻撃した時と同じ様に♪ ギィェギィェと鳴きながら♪ 体を左右に大きく振っているぅ♪ 何故でしょう?」


「お前らのそういうの……良い答えだったためしが無ぇ……」


「お前の質問になど、答えるつもりはない……」


 セイギとユウシャは芸術家の言葉通り左右に体を大きく振るホムラギツネの姿を確認しながら、地面に手をついて立ち上がろうとした。


 そんな二人に芸術家は


「ノンノン♪」


 ……と、首を振る。


「質問には答えを♪ クイズには正解を♪ では♪ 第二問です♪ 貴方達のお仲間のアイシンさんは地面に膝をついて項垂れていますぅ♪ 噓だぁ♪ 嫌だぁ♪ と涙を流してぇ~~♪ 何故でしょう? こちらの答えもさっきのものと同じですぅ♪ さぁ、回答を♪」


「口を閉めろ芸術家……答えるつもりはないと言っているだろ!!」


 膝立ちになったユウシャは芸術家に銃を向けた………しかし、向けた時には既に芸術家の姿は無く、別の所にあった。


「何!! 何処に行った!!」


「ここですよぉ♪」


 それは、ユウシャの背後。


「ユウシャさん♪ 貴方は私が傑作のアレンジを加えたデカギライにトドメを刺しましたぁ♪」


「ドラァッ!!」


 芸術家がユウシャに襲い掛かると感じたセイギは、素早く立ち上がり、芸術家に向かって大剣を振り下ろした………が、大剣はすかる。


「なにッ!!」


 またもや芸術家が姿を消したからだ。


「セイギさん♪ 貴方は我が王を侮辱したぁ~~♪」


 芸術家が瞬間移動で現れた場所は、やはりセイギの背後。


「私は貴方達を許さない♪ 正義や勇気と宣うのなら♪ 正しい選択出来る筈ぅ~~♪」


 芸術家はセイギの背中を蹴飛ばした。


「うわっ!!」

 蹴飛ばされたセイギは腕を振って飛んでいく。

「………ッ!!」

 今度セイギが落ちた場所は、アイシンとボッズーのすぐ近くだ。

「よくもやりやがったな!!」

 セイギは大剣を杖にしてすぐに立ち上がる。だが……


「よくもセイギをッ!!」

 ユウシャはセイギが蹴飛ばされると、素早く振り向いて芸術家に二丁拳銃の銃口を向ける。だが……


「なにッ!!」

 まただ……芸術家は姿を消していた。


「ホホゥ♪」


 そして、現れた場所は瓦礫の山の上。

 その場所から芸術家は英雄達を見下ろして余裕ぶった笑みを浮かべた。


「セイギもユウシャも私に攻撃すら出来ないぃ~~♪ それでも英雄だと言うのなら♪ 証明しよう♪ そうしよお♪ まだまだ未熟なアイシンさん♪ 間違えた判断下しがち♪ ならば仲間だ教えてあげなきゃ♪ 本当の英雄が取るべき選択をぉ~~♪♪」


「なに、訳の分からない歌を歌ってんだ!!」


 セイギは叫ぶ。だが、それを芸術家は鼻で笑った。


「セイギさんはガムシャラ素晴らしい♪ ですが、それでは自己満足♪ 正しい選択選ぶべぎぃ♪」


「口を閉めろと言っているんだ……」


 ユウシャは芸術家に向かって発砲した。


「ユウシャさんはクールに見えて実は熱血♪ 素晴らしい♪ ですが、もっと学習しましょ♪ レーザー消すよ♪ 私は消すよ♪」


 芸術家は筆を一振り、レーザーは消えた。


「セイギとユウシャ♪ 貴方に真実伝えましょ♪ 真田さんはホントは嫌だ♪ バケモノなんてなりたくない♪ だけど私が無理矢理変えた♪ 私がバケモノしちゃいました♪」


「「なにッ!!」」


「合いの手どうもありがとう♪ セイギとユウシャのユニゾンいいね♪ ですが、叫ぶ暇は無いですよ♪ アイシンさんに言うのです♪ 貴女は世界を救う為♪ 愛しき人を見捨てるべきだとぉ~~~♪♪♪」

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