第7話 バイバイね…… 22 ―セイギ&ユウシャ対ホムラギツネ―

 22


「うわっ!! これがさっき見た火柱かッ!!」


 ホムラギツネは再び火柱の尾を作り出していた。ホムラギツネの尾は三本も斬られた。だが、ホムラギツネの尾は伸ばせる物だ。根元から斬られなければ、結局は火柱の尾を作る事が出来たのだ。


「クッソ!! 近付けねぇ! ユウシャ! 援護頼む!!」


 セイギは大剣を構えてホムラギツネに接近しようと試みるが、火柱の尾が縦横無尽に動き回り、容易じゃない。右に左にと振り回してくる火柱の尾をジャンプして避け、これでは大縄とびだ。


「分かってる!! だが、俺のレーザーは尻尾を纏う炎より弱いみたいだ! 消されてしまう!!」


 ユウシャはどうか………彼もまた苦戦だ。

 ユウシャはセイギから援護を求められる前から"そのつもり"で二丁拳銃を連射していた。標的はホムラギツネの胴体。『胴体に攻撃出来れば尻尾の動きも止められる筈だ……』とユウシャは考えたのだ。でも……動き回る火柱の尾が邪魔をして、ホムラギツネの本体にまでレーザーが届かない。勿論、レーザーはユウシャが標的と定めた物・場所・人に向かって飛んでいく物だから、直線だけではなくて尾と同様に縦横無尽に動きながらユウシャが標的と定めたホムラギツネの体に向かってはいる。でも、ダメなのだ。火柱の尾は巨体。もし、蟻が大群で象に立ち向かおうとしたとして、それが何千匹……何万匹もの軍隊だろうが、象が踏み出すたった一歩で死滅させられてしまうだろう……それと同じで、ユウシャがどんなにレーザーを連射しても火柱の尾の一振りで簡単に消されてしまっているのだ。


「セイギ!! 十秒くれッ!!」


 ユウシャは連射を止めた。次に武器に選んだのは蒼い光弾。生成に時間がかかり、レーザーと違って直線でしか飛べない光弾だが、レーザーよりも確実に威力がある物だ。


「どうせ邪魔されるなら、俺の方からぶつけてやる!! レーザーよりも光弾の方が威力は強い、巨大な尻尾だろうが破壊してやる!! セイギはバケモノに隙が出来た瞬間に空かさず懐に突っ込め!!」


「おう! 分かった!!」


 セイギは威勢良く返事をし、ユウシャはホムラギツネから10m以上の距離を取り二丁拳銃を構える。


「十秒間は俺が稼いでやるぜ!!」


 ……と、セイギは叫ぶが、二人はまだ知らない、ホムラギツネの尾は伸びる物だと。


「ギィーーーーーーェーーーーーーー!!!!」


 ホムラギツネはグルリと体を回転させながら火柱の尾を伸ばした。それは20m超、ガキユウシャにまで確実に届く距離だ。


「うわっ!! ユウシャ跳べ!! なんか尻尾が伸びてる!!」


 セイギは類い稀なる観察力で即座に火柱の尾が伸びている事に気付き、回転切りの様に振り回された尾を側宙気味に宙を舞い咄嗟に避けた。

 だが、ユウシャは……


「と、跳べ?! 急にそんな!!」


 ……出遅れた。光弾を生成する時に二丁拳銃は大きく震える。その震えを抑え、照準を定めるにはユウシャは踏ん張らなければならない。しかもユウシャは巨大テハンドに穴を空ける為に何時間もの間、光弾を連発していた。そのせいでユウシャの体は疲労困憊だ。疲労困憊だからこそ、より強い力で踏ん張らなければならなかった。そのせいで、ユウシャは


「うッ!!!」


 ホムラギツネの攻撃を避ける事が出来ずに薙ぎ払われてしまった。


「クソッ!! ユウシャをよくもッ!!!」


 宙に弾かれた友を見たセイギは悔しさに下唇を噛んだ。しかし、その足は止まらない。ホムラギツネはまだ回転している途中だ。まだセイギの方を向いていない。セイギの位置が6時の方向なら、ホムラギツネは9時の方向を向いている。反撃を開始するなら今しかなかった。


「ドリャアッ!!!」


 雄叫びあげて、ダダダダダッ!! とセイギは走った。ホムラギツネはどうか? 8時を向いている。その口はグワリッと開いた。ホムラギツネもセイギが迫っている事は気付いているのだ。


「………ッ!!!」


 セイギは大剣を振り上げる。ホムラギツネは7時、間に合うだろうか……セイギとホムラギツネの距離はまだ大剣が届かない距離だ。


「ギィェ!!」


 ダメだ……ホムラギツネが6時の方向を向いてしまった。大きく開かれた口からは一発、二発と火の玉が吐かれる。


「トゥリャッ!!!」


 セイギは振り上げた大剣を力を込めて振り下ろし、火の玉を斬る。斬られた火の玉は、大剣の刃に吸収された。


「ゼェアッ!!」


 もう一発もそうだ。迫り来る火の玉を返す刀で斬り上げ、セイギはその力を大剣に吸収させた。


「ギィーーーーーーェーーーーーーー!!!!」


 ホムラギツネは三発目を吐こうと口を開いた。しかし、吐き出されたのは火の玉ではなく、僅かな炎だけだった。


「ギィェ!!」


 だから、ホムラギツネは策を変える。長く伸ばしていた火柱の尾を一瞬で縮め、本来の九本の尾に変えて体を軽くすると、ダンッ! と地面を蹴って後退し、少し体を屈めて再びダンッ! と地面を蹴って今度は前進……とするよりも、低い体勢からセイギに跳び掛かった。


「………ッ!!」


 セイギは相手が低い体勢から跳び掛かって来たのだから、振り上げた大剣でカウンターで斬ろうとした。だが、ホムラギツネの方が素早かった。

 ホムラギツネはセイギの首を左手で掴み、右手でセイギの左の二の腕を掴んで自分の頭をセイギの首筋に滑り込ませると、


「ギィェ!! ギィェ!! ギィェ!!」


 鋭い牙でセイギの左肩に噛み付いた。このままセイギの肩を噛み千切って大剣を使わせない様にするつもりなのか……


「このぉ!!」


 セイギは負けない。大剣の束の先端でホムラギツネの背中を殴り、抵抗する……しかし、これでは僅かな抵抗にしかならない。


「ギィェ!! ギィェ!! ギィェ!!」


 ホムラギツネは離れない。セイギの肩を噛み続ける…………でも、忘れてもらっては困る、


「バケモノよ……いつまでもお前の好き勝手にさせるか」


 ユウシャの存在を。


 ユウシャは火柱の尾に宙に弾かれ、現在のホムラギツネの場所から考えて3時の方向に落ちた……3時の方向なのだからホムラギツネの左側。左側なのだからセイギの肩に噛み付くホムラギツネが顔を背けてしまっている方向だ。

 そして、ユウシャは宙に弾かれてしまっても光弾の生成を止めてはいなかった。きりもみで宙を舞い、きりもみで落ちながらも両手からは二丁拳銃を離さず、二つの銃口を横に並べ続けていた。

 だから光弾の生成は完了している。


 ドキューーンッッッ!!!


 ユウシャの二丁拳銃から光弾が放たれた。


「ギィ………」


 ユウシャがいる方向に顔を背けていたホムラギツネは、この時にやっと自分が照準を定められていた事に気が付き、セイギの肩から顔を上げた。


「オリャッ!!」


 セイギはその前からだ。光弾が放たれる直前にユウシャが二丁拳銃を構えている事に気が付いたセイギは、ホムラギツネの噛み付きが自分の肩から離れた瞬間に、首と二の腕を掴まれている事を逆に利用し、全身に力を込めて無理矢理にホムラギツネの背中を迫り来るユウシャの光弾に向けさせた。


「輝ヶ丘を救う為にも、アンタを人間に戻す為にも、ユウシャの弾丸をくらってもらう!!」


「ギィェ!!」


 ホムラギツネはまたもや火柱の尾を作ろうと九本の尾を捻り合わせ始めた。でも、何故だか鈍い。今までのホムラギツネならば火柱の尾を作る時間は一瞬だったのだが、何故だか今の九本の尾はノロノロと動いている。

 逆に光弾の飛ぶ速度は速い。光弾は既にホムラギツネの背中に命中する寸前だ。その距離は残り2m程、今やっと英雄の反撃が始ま…………



「ルンルン♪♪」



 ………らない。


「えっ!!」


「何ッ!!」


 セイギとユウシャは驚きで目を見開いた。しかし、見開いた目にもホムラギツネに迫って来ていた光弾は映らない。



「もう仕様がない方達だぁ♪ 私のアドバイスが無いと英雄さん達は間違ってばかりぃ~~~♪♪」



 何故なら、ホムラギツネと光弾との間に突然現れた芸術家が筆を一振りし………光弾を消してしまったから。

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