第7話 バイバイね…… 20 ―火柱の尾―
20
「え……それで、なにするの?」
アイシンは太く長く伸びたホムラギツネの尾を見上げて驚き固まる。額からはタラリと汗が流れる。
『なにをするの?』と口には出してみたが、アイシンは大体の予想はついていた。強烈な攻撃の予感だ。
「………」
アイシンは再び腕時計を叩く。メラメラと火柱になった尾は三回分の光では防ぎ切れないとアイシンは考えた。叩いたのはプラス五回。そして、計八回分の光を纏ったアイシンは走り出す。
攻撃は最大の防御。この走りもまたホムラギツネに向かってだ。
「やられる前にやる!! その尻尾は使わせない!!」
アイシンは勇猛果敢に叫ぶ。だが、
「ギィーーーーーーェーーーーーーー!!!!」
ホムラギツネはアイシンが走り出すと四つ足のままで体を振り、火柱の尾を振り回し始めた。
その様はまるで大怪獣。体の大きさはそのままだが、尾だけを見ればホムラギツネは大怪獣へと変わってしまった。
そして、
「あっ!!」
ホムラギツネは自分に向かって走ってくるアイシンの前方に、振り回し始めた尾をドカンッ!! と落とした。
「キャッ!!」
ホムラギツネは遊んでいるのか、その後には再び尾を持ち上げて、後退りをしたアイシンの背中スレスレに尾を落とした。
「ヤバイ……」
尾が落とされた跡地には、尾の形そのままでボッコリと地面がへこんでしまっている。
それを見たアイシンの顔には更に冷や汗が流れる。今のホムラギツネの尾に叩かれたなら骨の一本や二本は簡単に持っていかれるだろう。
「どうしよう……うわっ!!」
アイシンが恐怖を感じた瞬間、ホムラギツネはグルリと体を180度回転させて右方向からアイシンの体を薙ぎ払った。
薙ぎ払われたアイシンは宙に浮く。この時、アイシンの体を包んでいたピンク色の光は消えてしまう。
― 嘘っ! たった一回で!!
宙に浮きながらアイシンは八回分の光が消えた事に驚いた。でも、このすぐ後に納得の痛みがアイシンを襲った。
「キャッ!!」
火柱の尾は今度は左方向から来た。地面に落ちる前に二度目の攻撃をくらったアイシンは更に高く宙を行く。
打撃と炎の熱さでその全身には凄まじい痛みが走る。
「………ッ!!」
あまりの痛みにアイシンは声も出せない。
三回分の光は三発の火の玉で消えたのだから、簡単に考えればピンク色の光は、一回分で一発の火の玉を防げる事になる、ならば八回分の光を消し去った火柱の尾の威力は火の玉八発分という事になる。
火の玉はたった一発で学校のコンクリートの壁に穴を空けてしまえた。それの八発分……凄まじくて当然だ。
「ギィェ!!」
そこにホムラギツネの追撃が襲ってくる。
先程は左から、三度目の攻撃は突き上げる様に下からだ。
「……………!!」
アイシンは気を失う寸前、しかしここで気を失ってしまえば後は屠られるだけ。アイシンは気力で体を動かし腕時計を叩こうとする………が、その腕を何かが掴んだ。
「なっ………」
アイシンが霞む視界で右腕の方を見ると、それは尾だった。ホムラギツネの尾……
どうやらホムラギツネはアイシンを突き上げて攻撃すると、今度は一纏めにしていた尾を再び九本に戻したらしい。その内の一本がアイシンの腕を掴んでいる。
「うっ……そ……」
それからすぐに、左腕にも、胴体にも、尾が巻かれた。
身動きを封じられてしまったアイシンは、視線を右腕からホムラギツネがいる下方向へと移した。すると、ホムラギツネが口をあんぐりと開けていた……
― ヤバイ……火の玉だ
アイシンは目を瞑った。
アイシンには武器がない。身動きを封じられては起死回生の一手も打てない。圧倒的な絶望的な状況だ。
― もしかして……このまま私は死ぬの?
考えたくもない自問自答。このままではそうだろう。アイシンには武器がない。身動きを封じられては起死回生の一手も打てないのだから。
ビューンッ! ビューンッ!!
目を瞑るアイシンの耳に突然、風が吹く音が聞こえた。それは、強風。激しく吹いている。この音は始めの『ビューンッ!』では少し遠くから聞こえたのに、二回目の『ビューンッ!!』ではすぐ近くで聞こえた。
「え……? なに?」
……と、アイシンが瞼を開いた瞬間、
「デェリヤァッ!!!」
真っ赤な英雄が現れた。
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