第7話 バイバイね…… 15 ―白黒と赤青―

 15


「え……?」


 萌音は一瞬固まった。『どういう事?』と固まった。


「言ってませんよねぇ? もし言っていたとしたら、それは申し訳ない♪ 私の嘘ですぅ♪」


「嘘……? え? どういう……」


 萌音は『どういう意味?』と聞き返そうとした。しかし、それをアイシンが遮ってしまう。


「先輩、騙されちゃダメ!! コイツが今言っている事が嘘だよ!! 惑わされちゃダメ!!」


 そして、アイシンは殴る様な素早い動作で芸術家に向かって指を差す。


「芸術家!! 先輩を惑わすのはもうやめろ!! 惑わそうとしてくる時点で、自分が不利な状況だって暴露してるのと同じなんだから!!」


「ホホホォ♪ 英雄さん♪ 私が嘘をついていると言える根拠がありますかぁ?」


「そんなの無いよ! でも分かる!!」


 アイシンは強気だ。すぐに言い返す。


「ホホォ♪ 無いなら真田さんを惑わしているのはどっちですかぁ♪ それにぃ♪ 先程貴女は言いましたぁ♪ ホムラギツネの力が私の筆の中にあるのなら、赤と青の石の力もこの筆の中にある筈だと……ではでは♪ 赤と青の石の力がホムラギツネの能力とは別個のものだったとしたら……やはり輝ヶ丘が焼け野原になる迄のタイムリミットが迫っているとは考えませんかぁ♪」


「だから嘘は!!」


「ですからぁ♪ 嘘だと言える根拠は無いのでしょう?ではでは♪ 私は、私の話が嘘ではないという根拠を伝えてあげましょう……よぉく見てて下さいね♪」


 そう言って芸術家は右手に持った筆で自分の顔を差した。


「私の顔は真っ白です♪ 白以外にありますか? 他の色は?いいえ♪ 白以外にはございません♪」


「煩い!! お前の顔色が何色なんてどうでも良いよ!!」


「う~ん♪ では、ピエロさんの顔を思い出して♪ 彼の顔は何色ですか? そう♪ 白です♪ お鼻はちょっぴり灰色ですが♪ 彼の色も真っ白です♪」


「だからぁ!」


「ではでは、魔女さんはどうでしょう? 彼女のローブは真っ黒だ♪ そして、お顔は私と同じく真っ白だ♪」


「だから、色なんてどうでも良いって!! 《王に選ばれし民》には色が無い!! あっても白か黒か灰色! そのどれかだってそんなの私だって知っている!!」


「ホホォ♪ よくご存じで♪ そうなんですぅ♪ 私達には色が無い♪ 私達王に選ばれし民が作った物でもそれは同じなんですぅ♪ バケモノでも♪ 兵器でも♪ 例外はございません♪」


「へぇ~そうなの!! でも、それが石に何の関係が!! ………あっ!!」


 アイシンは『芸術家がどんな言葉を並べ立てようが、私は全部言い返してやる!』と決めていた。しかし、自分が言い返した言葉の中に"矛盾"を見付けてしまい、口ごもる。


「ではではではでは………石は♪」


「まさか……そんな!! いや、そんな訳は!!」


 そして、その矛盾の先にある答えをアイシンは察してしまった。


 そんなアイシンの様子に気付いているのかいないのか、芸術家は自分の顔に向けていた筆をアイシンと萌音に向け、こんな質問を送った。


「では……あの石の色はどうでしたか?」


「………」


「………」


 アイシンも萌音もすぐには答えられなかった。


 萌音も言葉を詰まらせている。

 詰まる理由は、答えが分からないから……な訳もなく、その逆で、"答えを分かっているから"詰まってしまっているのだ。


「ほら、答えて♪ 分からないのですか? 答えはもう、私が何度も口にしていますよ♪」


「………」


「………」


「ほらほら、早く答えてぇ♪」


 再びの芸術家の催促……これに応じたのは萌音だった。


「…………赤と……青……でしょ?」


「そう♪ 大正解♪ 流石、真田さん♪ 流石、輝ヶ丘焼失作戦の実行者ぁ~~♪ それではぁ♪ 何故、私達と違って石は色を持っているのか、その理由が分かりますかぁ♪♪」


「………」


 これには萌音も答えられない。


 でも、アイシンは勘付いていた。


「《王に選ばれし民》が作った物ではないから……とか……いや、でも、そんな訳ない!!」


「OH♪ 英雄さんも乗ってきてくれましたかぁ♪ 嬉しいですよぉ~~♪ そして、そしてぇ♪ 大正解でございますぅ~~♪」


 芸術家は、パチパチパチ……と拍手を鳴らした。


「そう♪ 赤と青の石は私達が作った物ではない♪」


「嘘だ!! だったら、いったい誰が? 怒りや、愛を……感情を利用する物を作れるなんて《王に選ばれし民》以外に考えられない!!」


 アイシンが叫ぶと、芸術家は鼻を鳴らした。


「ふん♪ "現代人"の貴女達はそう思うでしょうねぇ♪」


 この言葉に引っ掛かりを覚えたのは萌音だ。


「現代人……何それ」


「おっ♪ 今の言葉、気になりますか真田さん♪ 流石、目の付け所が良い♪ 頭が切れますねぇ♪ そうです♪ そうです♪ 貴女達は現代人♪ そして、私達は貴女達からすれば………」


 芸術家は勿体振る間を置いて、こう言った。




「………"未来人"なのですぅ~~♪♪♪」




「……え?」


 萌音は『嘘でしょ? 本当なの?』と言いたげな顔をアイシンに向けた。


「ホホホォ♪ 未来人が現代にやってきたなんて、現代人の貴女達からすれば驚きでしょう♪ ですが、本当の話なのですぅ♪ そして、私達が作った物と間違えてしまう程の能力を持った赤と青の石もまた……未来からやってきた物なのです♪ 遠い遠い未来から遥々はるばると♪」


 芸術家はまた……パチパチパチと拍手を鳴らした。


「私達がやって来た未来でもとっくの昔に製造が禁止された兵器なのですがぁ♪ 愛を破壊に利用するという、とっても芸術的な発想に惹かれてぇ♪ 私、未来で密輸業者から大量に買い漁っていたのでぇ♪ 今回の輝ヶ丘焼失作戦で活用させて頂きましたぁ~~♪」


 芸術家は戸惑うアイシンや萌音とは正反対に、玩具を自慢する子供の様な表情を浮かべている。だからまだ芸術家の自慢話は続く。


「活用させて頂いたのは兵器だけではございません♪ 芸術的な発想自体も活用……いや、真似させて頂きましたぁ♪ 何の事だか、貴女達は分かりますか? いや、きっと……まだ気付いてはいないでしょうねぇ♪ ホムラギツネの能力が赤と青の石だと勘違いしていたのですからぁ♪ 私のカモフラージュは今の今でも成功しているぅ~~♪♪」


「………」


「………」


 アイシンと萌音は無言で『どういう意味?』という表情で顔を見合わせた。


「う~ん♪ お二方は本当に仲がよろしい♪ 仲が良いからこそ、私の芸術は成功しましたぁ♪」


「ちょっと……マジでどういう事?」


 先に口火を切ったのはアイシンだ。


「ホホホォ♪ そろそろネタバラシをしてほしいですかぁ♪」


「遊ばないでよ……石に関する事が本当なら、やっぱりタイムリミットが迫ってる。ここで無駄話している時間はもう無いんだから……」

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