第7話 バイバイね…… 10 ―彼女は何を願ってしまったのか……―

 10



「空が割れて、《王に選ばれし民》が現れたあの日………私、願ってしまったんだ」


「願った? 何を?」


「このまま、輝ヶ丘ごと、みんなと一緒に死ねないかな………って」


「え……?」


「『何でそんな事を?』って……思うよね。私も、昔の私だったら、桃ちゃんと同じ風に疑問に思ってたと思う………だけどね、私、疲れちゃってたの……」


「………」


『疲れちゃってた』……アイシンはこの言葉に、萌音が抱えていた苦悩や悲しみが全て詰まっている気がした。


「お父さん………本当に何も相談してくれなかったんだ。でも、私、さっき桃ちゃんが呼び掛けてくれた時に、やっと気付いた。私、お父さんに似てるんだって。私も同じ事してたんだって。何も教えてくれないで、一人で悩んでたって知って、私も凄く悲しかったのに……後で知っても何も出来ないもんね。力になりたいなって思っても、全てが終わった後じゃ後悔しか出来ないよね。私も、お父さんの力になりたかった………だから桃ちゃんごめん。弱音を吐きたくないとかじゃなくて、ちゃんと桃ちゃんに相談すれば良かったね………」


「ううん……謝らないで下さい。これからだから。これから、力にならせて下さい」


「うん……桃ちゃんは本当に優しいな。あぁ……でも、どこから話そう。話そうと思うと、どこから話せば良いのか分からなくなる……」


 萌音は頭痛を抑える様に頭を抱えた。


 その姿を見て、アイシンは励ます様に言う。


「どこからでも良いです……全部話してほしいですけど。先輩が話しやすい順番で良いですよ」


「うん……そっか、分かった。でも、始めから話した方が良いよね………」


 そう言うと萌音は、一旦深呼吸をした。人間の姿に戻ってからの萌音は、痙攣や荒い呼吸は無くなったが、代わりに大分興奮した様子を見せていた。


「ふぅ……」


 その興奮を深呼吸で落ち着かせると、萌音は話し出す。

 今までアイシンには話さずにいた出来事の全てを。時には涙を浮かべて、時には声を詰まらせながら。

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