第7話 バイバイね…… 6 ―アイシンは宙を舞う―
6
ガキアイシンとホムラギツネは、互いに向かって走った。
先に攻撃を仕掛けるのはアイシンだ。
アイシンはホムラギツネとぶつかり合う直前にジャンプを決めると、空中でクルリと前宙、ホムラギツネの背後に降り立った。
そして、
「フンッ!!」
狙うは9本の尾。アイシンはホムラギツネの尾を両腕で抱え込む様にして一纏めに掴むと、ホムラギツネを持ち上げ、ジャイアントスイングが如く回転を始めた。
「ギィッ!!」
グルグルと回されるホムラギツネはこの状況から逃れる為か、1m程の尾の長さを伸ばした。しかし、これはアイシンにとって好都合。尾が伸びれば伸びる程、ホムラギツネを振り回す力が必要になるが、アイシンは力持ちだ。全然苦じゃない、まだまだ余裕。尾が伸びれば伸びる程、アイシンがやろうと考えていた攻撃が容易になる。
アイシンがやろうとしていた事、それは金網デスマッチ……ではないが、ホムラギツネを屋上の金網に叩き付ける事。
「エイッ!!」
アイシンは回転したままホムラギツネを金網に叩き付けた。でも、まだ尾から手は離さない。次は叩き付けた金網の対面にある金網に向かってホムラギツネを振り回し、
「エイッ!!」
………叩き付ける。それから次は、
ドンッ!
金網ではなく屋上のコンクリートの地面に叩き付けた。それも一回だけじゃない。
ドンッ!!
ドンッ!!!
ドンッ!!!!
四回連続だ。
しかし、五回連続を許すホムラギツネではない。
「ギィーーーェーーーー!!!!」
五回目の叩き付けをくらわそうとアイシンがホムラギツネを持ち上げ、一番高い場所、アイシンの頭上に持っていった瞬間、ホムラギツネが尾を縮めた。勿論、アイシンは未だにホムラギツネの尾を持っている。持っているのだから、アイシンは尾の縮まりに引っ張られて宙に浮いてしまった。
「ヤバイ!!」
……と思って尾から手を離したその時にはもう遅い。尾が伸縮する速度は速いのだ。巻き取られる巻き尺くらい速いのだ。アイシンが手を離したその時には、ホムラギツネは体を翻し下を向いて、アイシンに向かって鋭い爪を立てた手を振り下ろしていた。
「キャッ!!」
ホムラギツネの鋭い爪による攻撃をくらったアイシンは、今度は自分が屋上の上に叩き付けられてしまう。
「……ッ!!」
ホムラギツネの攻撃はアイシンの体に鋭い痛みを与えた。でも、気を失う程の事じゃない。アイシンはすぐに立ち上がる。
「ギィーーーェーーーー!!!!」
「あっ!!」
だが、形勢逆転が起こってしまうのか。アイシンが立ち上がった瞬間、ホムラギツネの矢継ぎ早の攻撃がアイシンを襲った。
今まで、ホムラギツネは動物然とした四足歩行で動いていたが、アイシンの攻撃から逃れた後のホムラギツネは、敵に襲い掛かる熊の様に前足を上げてアイシンに攻撃を仕掛けてきた。
「やッ!」
「めッ!」
「てッ!」
「ってッ!」
右、左、右、左……と体重かけた前足を振り下ろしてくるホムラギツネに、アイシンは左手、右手、左手、右手……と上げて、その攻撃を振り払う。
しかし、防戦一方。ホムラギツネの攻撃を振り払った後に自分も攻撃を仕掛けようと考えてはいるが、矢継ぎ早に繰り出されるホムラギツネの攻撃はホムラギツネの防御にもなり、アイシンに攻撃の隙を与えてくれない。
それどころか、ホムラギツネの攻撃を振り払う度にアイシンの手や腕には痛みが残り、徐々に防戦のキレが無くなってくる。
「あっ!!」
そして、遂に、ホムラギツネが振り下ろしてきた左手を右手を上げて振り払った瞬間、アイシンはフラついてしまった。
「ギィーーェーーー!!」
その隙にホムラギツネは右手を振り下ろす。
「キャッ!!」
アイシンは左肩から斜めに体を斬られた。
「……うぅッ!!」
アイシンは激しい痛みに跳ね、屋上の上に倒れてしまう。
ここから更にホムラギツネの攻撃は続く。『今までやられた分のお返しだ!』とでも言う様に、倒れたアイシンを蹴り、屋上の上を転がし、次には踏みつける、二度三度と踏みつけた後は、両手でアイシンの肩を掴んで立ち上がらせ、それこそ『お返しだ!』という感じでアイシンを自分が叩き付けられた金網に向かって放り投げた。
「うッ!!」
10m以上も投げられて、ガシャンッッ!! ……と金網にぶつかったアイシンは再び倒れてしまう。
「う……うぅ……まずい、このままじゃ負ける……」
アイシンの目は眩む。しかし、しっかりと見えている。10m先から四足歩行で自分に向かって走ってくるホムラギツネの姿が。
ホムラギツネの次の攻撃は目の前に迫っている。どうするか……どうするのか、ガキアイシン………
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