第6話 剥がれた化けの皮 17 ―考えれば考える程に……―

 17


 ― 賭けだったけど、案外すんなりと言う事を聞いてくれた。これは何か作戦があるのかな?それとも、本当に私でも破壊出来るくらいにこの石は脆いのかな?


 愛は考えていた。『自分はホムラギツネを危機に陥らせる事が出来たのか、それとも逆転のすべを持っているホムラギツネが内心ではほくそ笑みながら、自分の言う事を聞いているのか……』と。

 これは愛自身も咄嗟に思い付いた策だったから、現在事態が好転へと向かっているのか、それとも暗転へと向かっているのか、愛自身も全くもって分かっていないのだ。


 しかし、今のところホムラギツネは愛の要求通りゆっくりと歩いている。それに愛とお婆ちゃんはついていく。


 真っ直ぐに通路を歩き、突き当たりに来ると、愛はまたホムラギツネの背中を押して

「階段を降りて……」

 と要求した。


「分かったよ……」

 ホムラギツネはまだ言う事を聞く。突き当たりを曲がってすぐ目の前にある階段を降り始める。


 愛はこのままホムラギツネを山下の外へと出そうと考えているのだ。それは、お婆ちゃんを安全な所へと避難させる為。それと、限られた物しかない屋内よりも、屋外の方が自分の助けになる物が、武器になる物があるのではないか……とも考えたからだ。

 しかし、『助けになる物や武器になる物とは一体何か?』と問われても、愛の中にその答えはなかった。今はその場その場をアドリブで回避するしか術がないから、これから先の事は何も思い付いていないのだ。


 ― 山下を出たら次はお婆ちゃんを安全な場所に避難させて……でも、安全な場所って何処? そんな場所ある? 思い付くのは《願いの木》まで連れていって《魔法の果物》を食べさせる事だけど、そんなに長い距離を今のお婆ちゃんに歩かせる訳にはいかないし、ホムラギツネがずっと言う事を聞いてくれるとも思えない。じゃあどうする? お婆ちゃんを近隣の人の家に預けて……いや、そんな事をしたら他の人も巻き込む事になる。ホムラギツネが新たな人質を取ろうと暴れる姿が想像出来る……


 愛たちは一階に着いた。ホムラギツネは尚も愛の言う事を聞いて歩き続ける。暖簾をくぐり、三人は山下商店の店内へと入った。


 ― 人質を取ったら、ホムラギツネは絶対、私にこの石を返せと要求してくるよね。それはダメだ。この石は絶対に手放しちゃいけない。この石さえ破壊出来ればホムラギツネの計画は破綻に向かう。そうなれば、輝ヶ丘が燃やされる心配は無くなって、ホムラギツネをどう倒すかを考えるシンプルな段階に行けるから。あぁ……サッサとこの石を破壊したい。地面に叩き付ければ壊れるのかな? でも、まだ早い。石を破壊されたらホムラギツネは怒り狂って私たちに襲い掛かってくるのが目に見えてる。私はまだ大丈夫だけど、そうなったらお婆ちゃんは………嫌だ、考えたくもない! 今考えるべきなのは、お婆ちゃんをどう安全な場所に連れていくのか。やっぱりお婆ちゃんはここに居てもらうのも有りか……いや、やっぱり今のお婆ちゃんを一人にするのは怖い。誰かに傍に居てもらわないと……


 愛の思考は錯綜し、次の一手がなかなか思い付かない。


 ― それに、ホムラギツネをどう倒すかも考えなきゃ。変身出来ない私で戦うには武器がいる……でも、バケモノを倒せるくらいの武器なんて何処にあるの? 拳銃? そんなの何処にあるの? それにデカギライには拳銃も効かなかったし、ホムラギツネに効くとも思えない。素手の私に倒す方法は無いのかな? あぁ……分からない。変身さえ出来れば……でも出来ないのは分かってる。今はそこを考えても前に進まない。英雄の力に頼らなくてもホムラギツネを倒す方法を考え付かないと……あぁ、分からない。どうしたら良いの? 何で私一人なのよ……皆は何で一緒に居てくれないの……分からない、私一人じゃ分からないよ。分かんない……分かんない……分からな過ぎるよ……お婆ちゃんをどうやって安全な場所に連れていけば良いのかも分からないし、ホムラギツネをどう倒せば良いのかも分からない………私には何も分からない。でも、一番分からないのは……


「何で先輩は《王に選ばれし民》の仲間になんかなっちゃったの?」

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