第6話 剥がれた化けの皮 14 ―変化……―

 14


「………」


 愛は今日一日で何度実感しなければならないのか。憧れという名の恋に近い感情を抱いていた先輩、真田萌音は、もうこの世にはいないと……


「先輩……」


 萌音の美しかった容姿は変わり、心の中では"愛"を失い『殺す』と言った……その全てに愛は涙を流した。

 この涙に怒りはない。あるのは悲しみ。

 愛は悲しかった。『私が知ってる先輩は全部嘘だったって思う事にする』……こうは言っても、実感を重ねれば重ねる程、愛の悲しみは深まっていった。


 そして、頬を伝う涙が顎の先に届くまでの間、愛は思った。

『本当に、私が大好きだった先輩はいないの?』と。『もし、先輩を元に戻せるなら私には何が出来るの?』と。


「先輩……元の先輩に戻ってよ………」


 だけど、現実は残酷だ。愛はまだ"実感"を重ねなければならない。


 愛の涙が顎の先を通り、ほろりと落ちた。


「何を言っている……泣いてる場合じゃないだろ。立ち上がれ。まだ英雄の力がない、変身出来ないって言うけど、だったらどうすれば良いのか一生懸命考えろ……人類を救うのが英雄の役目だろうが」


「え………?」


 何故だろう。萌音の瞳からもひとすじの涙が零れた。


 でも、この涙の意味を愛は聞けなかった。


 萌音の涙は頬を伝うその途中で消え去った。


 何故なら、萌音の体が禍々しいバケモノの姿へと変わってしまったから……

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