第6話 剥がれた化けの皮 9 ―何故……何故……何故……―

 9


 昨日……愛は《願いの木》のある部屋で真田萌音の記事を読み、"ある疑問"を浮かべていた。



 それは、


『先輩は何故、《王に選ばれし民》の情報を詳しく記事に書けたのだろう?』


 という事……



 そして、愛は《願いの木》の前で横たわりながら考えた。


 ― ………何で先輩は、私と先輩を襲った怪人が"下級の存在"だと知っているんだろう? せっちゃん達も戦ってみて始めて知った事なのに。それに「バケモノ」に関してもそう……この言葉はまだ私達英雄か《王に選ばれし民》しか知らない言葉の筈なのに……まさか、もしかして……先輩に情報を提供している人物がいるの?


 ………と。


 そして、それから、愛は自問自答を始めた。


 ― バケモノって言葉や、私達を襲った怪人の事を知っているのは、英雄以外なら《王に選ばれし民》しかいないよね? …………うん、いる訳ない。それじゃあ、先輩に情報を提供しているのは絶対に《王に選ばれし民》の関係者だな。せっちゃん達が情報提供者なんてあり得ないし!


 ― でも、普通の人間で《王に選ばれし民》の関係者なんてあり得る? …………いや、あり得ない!きっとソイツはバケモノだ!


 ― じゃあ、それはストーカー男になるのかな? …………いや、違う気がする。ストーカー男から得た情報なんて先輩が信用する訳ないもん。それに、せっちゃんは"かなり信頼出来ない奴"から『バケモノは輝ヶ丘には居ない』って聞いたって言ってた。信頼出来ないなら嘘の可能性はデカイ! ん? そうなると……もしや、ストーカー男はブラフで本当のバケモノは別にいるんじゃ……


 ここまで考えて、愛は『明日もう一度先輩に会おう』と決めた。『昨日、先輩の記事を読みました。先輩に情報を提供しているのは誰ですか?教えてください!』と言う為に……



 ――――


「瑠樹くんが見付けた石は、本当は青い石……」


 そして、瑠樹に聞いた話を元に、愛は再び考え始めた。

 因みに瑠樹は、何処にいるのか分からない萌音を探す事を諦め『宿泊先にしている友達の家に行く』と言って愛と別れていった。


 瑠樹と別れた愛は、昨日の疑問の答えを萌音に聞く為に『もう一度山下に行ってみよう』と山下に向かっている。



 その道中で愛は再思考。その内容は三つの疑問……



『先輩は何故、青い石を赤い石と偽ったのか?』


 という事……


『何故、嘘だった筈の赤い石が現在輝ヶ丘で見付かり続けているのか?』


 という事……


『輝ヶ丘の家を自宅と偽って自分を連れていった後、先輩はどうするつもりだったのか?』


 という事……



 ― う~ん……どれもこれも不思議な事ばっかり、二つ目に関しては、石は二種類存在してたのかな?って思えるけど……それじゃあこの答えを元に一つ目を考えてみると、先輩は石の情報も情報提供者から得ていて、青い石の存在を隠す為に敢えて赤い石の情報を出したって思えてくる……でも、なんで?


 二つ目の疑問の答えが見えたとしても、今度は一つ目の疑問が深まってしまう。


『先輩は青い石の存在を隠す為に赤い石と偽った。だがその理由は?』


 という事に……


 ― 赤い石に関しての記事を先輩が発表した日に、続々と町中から赤い石が発見され始めたんだよね……もしかして、赤い石に関しては情報提供者から情報の開示のOKが出たから、瑠樹くんに発見されてしまった青い石のカモフラージュとして『赤い石を発見した』と嘘をついた。それほど青い石は知られたくない物だったとか………ん??


「情報開示のOKってなんだ?」


 愛は自問自答の中で急に浮かんできたワードに声を出しながら頭を捻った。


「情報提供者からのOKを待って情報を出すって……まるで先輩がバケモノの手先みたいじゃん。却下、却下……何言ってるんだろ私。でも、青い石を赤い石と偽る理由は他になんだろ?」


 愛はグルグルと回る脳みそがポロリと落とした答えを却下して、再び石に関しての疑問の答えを考え出すが、次に何かを思い付く事はなかった。


 そして、三つ目の疑問への思考に移る。


 ― う~ん……家に関しての嘘をついたのは、悲しい出来事を私に話したくなかったからだったとして、連れていってしまったら嘘がバレるよね。あの家に私を連れていっても恐らく中には入れないだろうし……私だったら、始めから『私の家に来て』なんて言わずに、別の場所を用意するけどなぁ……先輩は間抜けな人じゃないから『嘘がバレないと思ってた』なんて事もある訳ないだろうし………でも、結局家は燃やされてしまって私に嘘はバレなかったのか。それを知ってたのかなぁ先輩は? ……ん??


「だっ……だから! なんで先輩が家を燃やされる事を知ってんだよ! これじゃあ、また先輩をバケモノの手先扱いじゃん! 何言ってんの私!」


 愛は大きな独り言を発した。思考している内に愛の感情を気にせずに脳が導き出す答えを、愛はどうしても受け入れたくないんだ。


 そんな愛はそろそろ山下に着こうとしている。山下まで、あと数メートル。


「ないない! 絶対ない! ないないない!!」


 愛は『あり得ない!』と首を大きく左右に振りながら、山下までの数メートルを大股で歩く。


「ないったらない! 絶対にない!!」


 さぁ、もう山下に着いた。


 愛は引き戸の取っ手に手を掛ける。


「ねぇ……」


 すると、


「……何がないの?」


 誰かが愛に話し掛けてきた。


「ですからぁ! ないもんはないんですよ!!」


 愛はその声を受け入れた。愛は自問自答をしているから、その声を自分の声だとでも思ってしまったのか……いや、違う。その声は愛に馴染みのある声だったから、愛は自然と受け入れて答えてしまったのだ。


「だから、何がないの?」


「ですからぁ! 先輩がバケモノの手先だなんてあり得ないって事ですよ……って、え??」


 愛もやっと気が付いた。自分が会話をしている事に。


「この声って……」


 そして、愛はもう一つ気付く。自分が会話をしている人物が誰かという事に。


「あ、やっぱり山下に居たんだ。先輩、探したんですよ!」


 愛は引き戸を開けようとした。しかし、その前にガラガラと引き戸が開く。そう……愛に話し掛けてきた声は、愛の背後からでも、愛の横側からでもなく、愛の前方から聞こえてきていたのだ。それは、山下の中から………そして、その声の主はゆっくりと引き戸を開いて、愛の前に姿を見せた。


「せ……先輩? ど、どうかしたんですか?」


 愛の前に現れた人物、それは真田萌音だ。

 愛が今日ずっと探していた人物。だが、愛は驚いた。真田萌音が突然現れたからか……それもある。でも、愛が驚いた一番の理由は真田萌音の顔だ。


「どうかした……って、何が?」


「え……だって」


 現在の真田萌音の顔は明るさも優しさもなく、ただの"無"……まるで魂を抜かれてしまったかの様に"無"でしかなかったのだ。目の焦点もあっていない。何処か遠くを見ている様な目だ。


「まぁいいや。それより……桃ちゃん」


「な、何ですか?」


 愛はいつもと感じの違う萌音に驚き、心臓の鼓動が早くなる。何やら嫌な予感がしたんだ。

 でも、なるべく普通を装おうとした。


「わ、私、探してたんですよ、先輩を!」


 でも、愛はどもる。やはりいつもと感じの違う"先輩"は、愛を平常心ではいさせてくれない。


「それより……私がバケモノの手先?」


「あ……き、聞こえてました。いや、違うんです。う、嘘ですよ」


「うん……嘘だね」


 萌音はコクリと頷いた。


「手先なんかじゃないよ……」


 そして、萌音は愛に向かって手を伸ばす。愛の首に向かって……


「だって…………私がバケモノなんだから」

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