第6話 剥がれた化けの皮 4 ―私の役割―
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「簡単に言えば私は共犯者……でも、私はあの人とそんなに親しくはありません。無理矢理協力させられていただけで……」
「無理矢理? 脅しにでもあってたのか?」
このセイギの質問に、柏木は小さく頷く。
「はい……とある事件の事で」
「とある事件? それってお前が起こしたストーカー事件の事か?」
「え……あ、いや」
「そうなんだろ?」
柏木は濁して答えたが、セイギにはお見通し。すぐに言い当てられてしまった。
「し……知ってるんですか?」
「あぁ、そんな事はもう調べてあるよ」
「そうなんだ……」
柏木は既に落としていた肩を更に落とす。
「隠し事をしても意味はない。サッサと話せ……」
こう催促したのはユウシャ。ユウシャは柏木のすぐ横で腕を組んで立っている。その目は鋭く、柏木を見下ろしている。
「そ……そうみたいですね。では、あのですね、あの人の事を私が知ったのは、貴方が仰る"ストーカー事件"の際でして、その後私は自分の行いを深く反省したものですから、あの人がその後どんな日々を過ごしていたのかは全然知らなかったんです。ですが……あの人、私のバイト先のカラオケ店にやってきたんですよ」
「やってきた? 客でか?」
このユウシャの質問に柏木は首を振る。
「違います。バイトとして入ってきたんです」
「それはいつだ?」
「三ヶ月程前でしたか……」
この言葉に今度はボッズーが反応する。
「三ヶ月前? それって《王に選ばれし民》が現れる前じゃないかボッズー!」
「そうです、そうです。《王に選ばれし民》が現れる前です。そうなんですが、その頃のあの人は、私に気付いている素振りは見せても、話し掛けてくる事はありませんでした。私自身も、とある隣人と知り合って、いたく優しくもされて、説教もされましたから、心を清めて自分自身の人生を改めようと考えていたところでしたので、勿論何もしません。あの人にとっても、私にとっても、お互いは二度と会いたくない人物。だから二人揃って知らないフリ。幸いにも向こうは夜まで、私は深夜からのシフトでしたから、挨拶を交わす程度で距離を置いていたんです。あの頃は淡い期待もありました。私自身が言う事ではないとは思いますが、『私と同じ職場で働くのはあの人にとっては苦痛だろう。すぐに辞めるだろう』と思っていました。しかし、そうはいかなかった。私自身は将来の夢を抱いたばかりでしたし、バイトは辞めたくありません。仕事も楽しかったですし……」
「何が将来の夢だ……」
ここでユウシャが怒りを見せた。
柏木を見下ろしていたユウシャはしゃがみ込み、柏木の胸倉を掴む。
「さっきから心を清めただどうのと宣っているが、お前は犯罪行為を行ったのだぞ。真田萌音という女性にナイフを突き付けて脅し、更に山下商店の店主を傷付けようとした……これは立派な犯罪だ。心を清めたかったのなら、まずは警察に行け! 勝手に人生をやり直した気になっているんじゃない!」
「わ……分かってます! 分かってますよ! 反省しています! 本当に、私は刑務所に行くべきでした! そこから逃げたから、私は《王に選ばれし民》に協力させられたのですから……」
「『行くべきでした』じゃない! 行くんだよ!!」
「まぁまぁ落ち着けよ、ユウシャ」
セイギは柏木の胸倉を掴むユウシャの肩に触れる。それからユウシャを落ち着かせようとこう言った。
「その事に関しては絶対に罪を償ってもらおうぜ」
そして、
「なぁ、柏木? 償うつもりあるよな?」
今度は柏木に聞く。こんな言葉を付け足して。
「俺達はお前の自宅もバイト先も全部知ってんだ。どんなに逃げようが、もう逃げられないぜ。だから約束してくれ。自首してくれよ。じゃなかったら、俺達は力尽くでもお前を警察に連れていく。"力尽く"の意味をお前なら分かるよな?」
この言葉に柏木は大きく頷く。
「あ……は、はい! も、勿論です!」
「OK! それで良いぜ。ほら、そういう事だ。ユウシャもコイツから手を離せ」
「はぁ……」
ユウシャは溜め息を吐く。ユウシャは刑事の息子だ。犯罪者の柏木を本当はもっと責めたかったのだろう。でも、ユウシャはセイギの要求通り柏木の胸倉から手を離した。
それから、二拍の間を置いて、ゴクリと唾を飲んだ柏木は話の続きを語り出した。
…………
…………………。
「あの人はさっき言った通り、私の予想通りにはいかず全然バイトを辞めませんでした。チラリと噂で聞いたのですが、理由は知りませんが、どうやら生活が困窮しているらしくて、あそこのカラオケは時給が良いですから、それで辞めなかったのでしょう。私も同じ理由であそこを辞めたくありませんでしたから、やっと納得がいって『向こうも距離を置いているのだから、それで良いじゃないか』と思い始めたのです。しかし……」
ここで柏木は再びゴクリと唾を飲み込んだ。
「数週間前……貴方達に分かりやすく言えば、あの白い姿の二丁拳銃のバケモノが輝ヶ丘で暴れていた頃、」
柏木は話している途中だが、ボッズーが口を挟む。
「白い姿の二丁拳銃のバケモノ? それってデカギライの事だボズか?」
「う……う~ん」
これを聞かれても、柏木は《デカギライ》という名前を知らない。
「た、多分……」
と首を捻るだけ。
「まぁ多分、デカギライの事だろうな。で? デカギライが暴れてた頃に何があったんだよ?」
このやり取りをセイギがすぐに軌道修正した。
それから、柏木は続ける。
「は、はい。じゃあ続けますね。その頃なんですが、あの人に変化があったんです。まず顔付きが変わりました。暗いというか闇というか、目付きが鋭くなって……そして、もう一つ。あの人は私に話し掛けてきたんです。それも仕事中じゃありません。私、効率を求めて同じビルで2件バイトを掛け持ちしているのですが、あ……バイト先を知られているのでしたら、わざわざ説明しなくても良いですよね」
「あぁ、分かってるよ。サッサと続けろ」
ユウシャがチクリと刺すと、柏木は「は……はい」と呟いて話の続きを始めた。
「あの人は私の掛け持ち先の牛丼屋に客として来たんです。あの人の休みの日にわざわざ……それだけでも『不思議だな?』と思ったのですが、私がカラオケ店に出勤しようと牛丼屋を出た時、あの人がついてきたんです。ゆっくりゆっくりと食べていましたから、今考えれば完全に私を見張っていたのでしょうね。そして、私についてきたあの人は、私と一緒にエレベーターに乗ると、こう言いました。『あの日の事をバラされたくなければ、私に協力しろ』……と。"あの日"とは、自分自身の事ですから、さっき青い英雄さんが言った日の事だとすぐに分かりました。それから、私は聞きました。『バラすとは何処にですか? 店にですか? それとも警察にですか?』と。すると、あの人はこう言いました。『どっちも……』と。私は自分勝手ですが……」
ここで柏木はユウシャをチラリと見た。さっきのユウシャの激昂を思い出したのだろう。
「……将来の夢を抱いたばかりでしたので、『何をすれば黙っていてもらえますか?』と聞いたんです。その時は、生活が困窮しているという噂を聞いたので、お金を渡せば解決出来るだろうくらいの軽い気持ちでした。しかし、あの人は鞄の中から"ある物の束"を取り出して『これを輝ヶ丘にばら蒔け』と言ってきたんです……そうです、怪文書です」
「じゃあ、怪文書をばら蒔いていたのはやっぱりお前なんだな?」
セイギが聞くと、柏木は素直に頷いた。
「はい……」
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