第6話 剥がれた化けの皮

第6話 剥がれた化けの皮 1 ―瑠樹の苛つきの理由―

 1



 ドーンッ………気のせいだろうか?雷の音が徐々に大きくなってきた。



 ―――――


「ほら、無駄な時間だったじゃないですか」


「うん……」


 結局休校中の高校に入る術はなく、途方に暮れた愛達はトボトボと来た道を戻りながら話を続けていた。


「まぁ、別にもういいんですけど。会えなくても」


 来た道を戻り始めて暫くすると、瑠樹は拗ねてしまったのか、それとも本当に諦めてしまったのか、姉の事に興味がない感じを出し始めた。


「う~ん……本当に? もう少し探そうよ。とりあえず一旦山下に戻ってみてさ」


 愛はこう言って問い掛ける。『本当は先輩に会いたいのに、瑠樹くん無理をしてるんだ』と思ったから。だが、瑠樹の方は


「いや、いいです」


 と即時に首を振る。そして、瑠樹は少し勝手な事を言い出す。


「俺、姉ちゃんに文句が言いたくて会いたかっただけだし。別にもういいです。疲れたし。桃井さんに伝えてもらおうと思います」


「え……伝える? 何を?」


 瑠樹の主語のない言葉。それを聞き返した愛に向かって


「はぁ……」


 瑠樹は生意気にも溜め息を吐いた。そして、こう言う。


「だから、今言ったでしょ? 俺は姉ちゃんに文句が言いたいって。それですよ、それ。話し聞いてて下さいよ……」


「え……何それ、聞いてたし」


 愛は一年ぶりに会った瑠樹の反抗期真っ盛りな態度、人を小馬鹿にした様な『やれやれ……』という態度にムッとしながらも


「で、文句ってどんな文句なの?」


 一応会話を続けてあげた。


「はぁ……」


 そんな愛に瑠樹は再び溜め息を吐く。それから、気怠そうにこう答えた。


「二つの文句ですよ……」


「二つ? 二つもあるの? 先輩に?」


「そうですよ……」


 この質問にも瑠樹は気怠るそうに答える。


結里ゆうりにニャオンモールあるじゃん?」

(結里とは輝ヶ丘から電車に乗って5駅行った先にある町だ。そこには《ニャオンモール》という大きなショッピングモールがある。)

「あそこで、俺が好きなブランドのショップがオープンするって情報を姉ちゃんから聞いたんだよ。だから一昨日に、友達連れて行ったんだ。そしたら、何処にもなかった。店がオープンするなんて嘘だったんだよ。まぁ、事前に本当かどうか調べてなかった俺も悪いんだけど、そのせいで恥もかいたし、友達とも喧嘩になっちゃって……だから、文句。何でそんな嘘をつくんだって文句をまず言いたいんだ」


「なるほど、それは確かに文句言いたくなるね」


 愛は『瑠樹くんの気持ち分かるよ』という感じで答えた。だが、瑠樹は姉への苛つきをぶつけるかの様に愛を睨む。


「『言いたくなるね』じゃないよ……マジでムカついてんだから。あんな事アイツが言わなかったら、俺は輝ヶ丘に来てない。わざわざ輝ヶ丘に来てアイツに文句を言おうとしたから、俺は閉じ込められたんだよ。それが二つ目の文句。この文句、姉ちゃん見付けたら桃井さんから伝えてよ」


 瑠樹はお願いをするというよりか、強制する様に愛に言った。


 しかし、


「う~ん……」


「なに? なんだよ『う~ん』って?」


 愛は渋い顔。渋い顔をして、顎に手を置きながら瑠樹への反論を始める。


「でもさぁ、それって、嘘っていうか、冗談じゃないの? 私その現場に居ないから分からないけどさ、瑠樹くんが受け取り方を間違えたって事はない?」


 愛は年上として、自分の意見を瑠樹に言った。『「うん、そうだね」「はい、そうですね」ばかりの肯定だけの日々では、大人の階段は登れない』と考えたから。


「はぁあ?」


 しかし、この言葉で愛は瑠樹の怒りに火をつけてしまった。瑠樹からは激しい反発が返ってくる。


「冗談? 何が冗談だよ! 何も知らないくせに! 勝手な事を言うな! 嘘だよ! 嘘! ただの嘘! アイツ、最近変な嘘ばっか言うんだよ! アイツは嘘つきなんだ! それも知らないで何だよそれ!!」


「ちょっ……ちょっと、興奮しないでよ瑠樹くん」


「興奮するよ! それにね、桃井さんだって騙されてるんだから!」


「騙されてる? 何を?」


「あの日の事だよ! 姉ちゃんが王に選ばれし民に襲われた日! 一応俺だって姉ちゃんの連載読んでるから知ってるよ、あの日姉ちゃんと一緒にいた後輩って、あれ桃井さんでしょ?」


「うん、そうだよ? だから?」


「だからじゃないよ! 桃井さんは騙されてるんだって! あの日の事は全部嘘なんだよ! 燃えた家も俺達の家じゃないし! 赤い石も本当は赤くないんだ!」


「え……何に言ってんの?」

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