第5話 化け狐を追って 8 ―ポリポリ……―
8
「ダメだ……全然連絡来ない」
愛はまだ《願いの木》がある部屋にいた。
愛は待っているんだ。正義からの連絡を。
でも、いつまで経っても正義からの連絡はなかった。
「せっちゃん達が負ける訳ないよね……」
時刻は19時を超えた。
段々、愛の心は不安に襲われ始めた。
『せっちゃん達が負ける訳ないよね』と口にしてはみるが、『そうだよ』と返してくれる相手はいない。『もしかしたら……もしかしたら……』と嫌な考えばかりが浮かんでくる。
「はぁ……」
心に黒い靄かかかって、胸の辺りが重たくなってきた愛は、その気分を変える為にスマホを開いた。
愛は正義からの連絡を待っているのだから、勿論願いの木に願って通信が取れる状態にしている。"通信が取れる状態"なのだから、ネットも出来る。
愛は適当にSNSを開くが、特に何かに興味を引かれる事はなかった。
『何か動画を見ようか……』と思っても、何も『見たい』と思えるものもなかった。
ネットニュースを見てみると、輝ヶ丘のニュースばかりで逆に不安が募る………
「はぁ……」
愛はスマホを閉じた………でも、またすぐに開く。
ソワソワとした気持ちは、何かをしていないと紛らわせられない。………でも、何にも興味を引かれない。
手持ち無沙汰のまま愛はメッセージアプリを開いた。
愛は不安な気持ちを抱えると、正義や英雄の仲間達に心の拠り所を求める。だが、今は連絡が来ない。こちらから送ってみても正義達が出る事はない。
だから愛はもう一人の心の拠り所を求めた。真田萌音だ。
「あっ……私、バカだ」
しかし、トーク画面を開いて気付く。
「今、輝ヶ丘でスマホ使えてるのって私だけだ。先輩に連絡を取ろうとしたって、先輩の方は受信出来ないんだった……」
こう呟いて愛は一旦トーク画面を閉じた。……でも、またすぐに開く。『やっぱ少しでも先輩を感じたい』愛はそう思ったんだ。そして、一つだけ読まずに放置してしまっていた真田萌音の記事を読んでみる事にした。
それは真田萌音の家が燃やされた日の出来事や心情を書いた記事。
愛は萌音からアプリに送られてきていた赤い石に関する記事のURLから、萌音が記者をしている《とあるニュースサイト》に飛んで、その記事を探した。
それから5分後、愛はスマホを閉じて絨毯みたいに生い茂るクローバーの上に横になった。
人は人の癖を真似るもの。左頬をクローバーの絨毯に沈める愛は、右手でポリポリと頭を掻く………それから暫くすると、愛は起き上がり。《願いの木》の部屋を出ていった。
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