第4話 中と外の英雄 11 ―私のヒーロー―
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「私……カヨちゃんと桃ちゃんの忠告をちゃんと聞いておけば良かった。私、調子に乗ってたよ。『私がやってる事は"正義"だ』って、『正しい事なんだ』って思い込んでた。何が『王に選ばれし民と戦う』……だよ。私は動いちゃいけない人間だったんだ。だって、男の狙いは始めから私だったんだから。私がやったのは、火に油を注いでただけ。ただの自己満足。私が動けば動く程、男を刺激して、男の暴走を招いてた……輝ヶ丘が今こんな風になっちゃったのも、全部私のせい……」
お婆ちゃんと2階に上がった萌音は、自分の想いを語り始めた。
その姿はまるで懺悔をする様だ。8畳の居間の窓際に体育座りを少し崩した形で座って、立てた膝の中にその顔を埋めている……
「そんな事ないよ……それで言ったら、私もあのストーカー男が王に選ばれし民に関わっているんじゃないかって知っていたのに、萌音ちゃんに言わなかった……」
お婆ちゃんは、対面に座る萌音をじっと見詰めながら、懺悔するとも、萌音を励ますとも取れる表情でそう言った。
「そうなの?」
立て膝に顔を埋めていた萌音は、お婆ちゃんの言葉に驚いたのか、立て膝の向こうから少し顔を見せた。
しかし、萌音は悲しみ以外の感情を失ってしまったのだろうか。聞き返したその声にも、長い髪の隙間から見える両目からも、一切の感情が見えない。
「うん……」
お婆ちゃんは頷いた。
「愛ちゃんの、萌音ちゃんが知らないお友達からね、"もしかしたら"と聞いていたんだけど……ほら、この前萌音ちゃんがもんじゃを食べに来てくれた夜があっただろ? あの日、話そうと思ったんだよ。でも、この事話したら、もっと萌音ちゃんのヤル気に火を点けてしまうんじゃないかって……黙っておいてしまったんだよ」
「そっか……そう言えばあの日、そんな感じだったね……」
萌音はお婆ちゃんから視線をそらした。何かを見ているという訳じゃない。居間の隅を見詰めているが、何も見ていない。ただお婆ちゃんから視線をそらしただけ。
「確かに……あの日の私なら、そうなってただろうね。カヨちゃんの選択は間違ってないよ……だから、やっぱり私の……」
「いいや違うよ」
お婆ちゃんは萌音の言葉を最後まで聞かずに首を振った。そして、萌音に言い聞かせる様にこう言った。
「ストーカー男は萌音ちゃんだけを狙っている訳じゃないんだ。萌音ちゃんの家族やお友達を狙っている訳でもない……もし、そうだったなら私も『ほら私の忠告した通りだったろ』ってあんたに言うよ。でもね、ストーカー男は輝ヶ丘全体を標的にしているの、輝ヶ丘を焼け野原にするって言ったんだよ。これは、始めから萌音ちゃんが標的じゃなかったんだって私は考えるね。ただ酷い事をしたいだけだよ。ストーカー男は自分の悪行を萌音ちゃんのせいにしようとしているだけ」
「………」
このお婆ちゃんの言葉に、萌音は黙った。何も答えなかった。
でも、そんな萌音にお婆ちゃんは優しく声を掛け続ける。
「萌音ちゃん、暫くうちでゆっくりしていきなよ」
正座を前に滑らせて萌音に近付きながら、お婆ちゃんはそう言った。そして、そっと萌音の頭を撫でる。
「輝ヶ丘に閉じ込められてたんじゃ、家にも帰れないだろ? だったらうちを使いな。昨晩はどこかで寝れたのかい?」
「………ううん」
萌音は再び立て膝に顔を埋めて、首を横に振った。
「やっぱりそうだろ。つかれた目をしているよ。この前も言っただろ? ちゃんと寝ないと折角の美人さんが台無しだって」
「………」
再び、萌音は無言だ。何も答えない。
「ふふふ……」
そんな萌音の頭をお婆ちゃんは撫で続ける。ニッコリとした笑みを浮かべて。
「ねぇ、カヨちゃん……この前の約束覚えてる?」
「約束? なんだい?」
「うん……私を助けてって約束だよ……」
「あぁ、それかい。勿論、覚えてるよ」
「そっか……ねぇ、カヨちゃん。私のヒーローになって」
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