第4話 中と外の英雄 3 ―この手をこじ開けろ!―
3
「ほいやっさ!!」
セイギの指示を受けたボッズーは、大きな翼を羽ばたかせセイギを連れて大空を飛んだ。
「ボッズー、頼むぜ!! 俺はピエロを捕まえたい!! このままバイバイキンってのにはさせたくねぇんだ!!」
「分かったボズ!!」
とボッズーは頷いた。だけど、セイギは次の作戦に関してはまだ仲間達に何も伝えていない。だからボッズーも気になる。
「でもセイギ? 捕まえるって、ピエロを捕まえて何をするつもりなんだボズ? このまま行けばアイツはこの大きな手の外に出て行くぞ? このままピエロには出ていってもらった方が良いんじゃないのかボッズー??」
「いいや! ダメだ!」
セイギは大きく首を振った。
「アイツには、この手をこじ開けてもらねぇと!!」
「こじ開けてもらう?」
「あぁ! そうだぜ!! この手はユウシャの銃も効かないくらいに頑丈だ! だけど、アイツはこの巨大な手の手の皮を引っぺがして、中指と人差し指の隙間を埋めたって言ってた! それが本当なら、その逆も出来る筈だ!! だからやってもらう!! そして、俺達は輝ヶ丘に戻るんだ!!」
「いや、やってもらうって……そんな簡単には」
「あぁ、分かってるさ!! 簡単にはいかないだろうな!! だから力尽くだ!! 俺は今からアイツと戦う!! 戦って言う事を聞かせる!! だからボッズーは、ユウシャと一緒にテハンドに俺の邪魔をさせない様にしてくれ!!」
そう言うとセイギは大剣を腕時計の中に仕舞って、両手を前方に伸ばした。ピエロはもう目の前にいる。セイギは『絶対に逃がしはしないぞ!!』という強い気持ちを乗せて、風にバタバタと靡くピエロの大きな大きな襟をむんずと掴んだ。
「捕まえたぞピエロッ!! こっからは俺とお前の一騎討ちだ!! 良いか!! 俺が勝ったらお前には俺の言う事を聞いてもらうぞ!!!」
「言う……事……だと!!」
ピエロの顔は襟と同じくバタバタと風に吹かれている。大きな唇はその分大きく捲り上がり、『言う……事……だと!!』も、実際は『ひぃふ……ことぉ……だほぉ!!』にしか聞こえない。
「あぁ! そうだぜ!!」
セイギはピエロに向かってコクリと頷いた。そして、さっき掴んだばかりのピエロの襟から右手だけを離すと、今度はその手で自分を掴むボッズーの左手を剥がしにかかった。
「お、おい! 何をするつもりだボッズー!!」
ボッズーは驚いた。しかし、セイギには考えがある。
「俺の背中を掴んだままじゃ、大勢のテハンドの相手は無理だぜ! へへっ! ありがとな、ボッズー!! 俺はピエロを捕まえられた!! だから、もう大丈夫!!」
ボッズーの左手はセイギの背中から離れた。次は右手。セイギはボッズーの右手にも手を掛けた。
「やめろボッズー! 俺が離れたらセイギは墜ちちゃうぞボッズー!!」
「それで良いんだ!! 手の甲の上に墜ちるのは経験済みだ!! そんなに痛くねぇてのも分かってる!! だから!!」
遂にセイギはボッズーの右手も剥がしてしまった。
「だから!! 頼んだぜ!! テハンドに俺達の戦いの邪魔をさせないでくれよなッ!!」
「ちょ待っ……セイギ!!」
ボッズーは再びセイギを掴まえようと急いで手を伸ばす。だが、もう無理だ。ボッズーと離れたセイギは流星の様に高速で手の甲に向かって墜ちていってしまったから……
ドンッ!!!
………爆音と共にセイギとピエロは手の甲の上に墜ちた。
「イタタタッ……糞ぉ、あのガキがぁ!!」
頭を打ったピエロの声は荒い。怒気を孕んだ表情で、後頭部を抑えながらピエロは勢い良く起き上がった。
「痛い? そんな痛くないだろ……」
反対にセイギは静かな声だ。でも、その手には既に一度仕舞った筈の大剣が握られている。しかも、もう一つ"既に"だ。セイギは起き上がるどころか既にもう立ち上がっているんだ。セイギは立って、起き上がったばかりのピエロを見下ろしている。声の荒さや勢いでは計れない。勝つ事への貪欲さは、セイギの方が持っているんだ。
「この……野郎!!」
ピエロは急いでバズーカをセイギに向けた。
しかし、
「ハッ!!!」
スパンッ……
その先端を、素早い太刀筋でセイギは切り落とした。
「なにッ……」
「さぁ、やろうぜ。戦いだ……」
―――――
こうしてセイギは、ピエロとの一騎討ちに持ち込めた。
そして、二人の対決は遂に決着の時を迎えようとしている……
「ほざくな!! クソガキがぁ!! お前が俺に勝つぅ?何言ってるんだ!! 俺は《王に選ばれし民》だぞッ!! テメェがそんな事ほざくには百年早いんだよッ!! ブッ殺してやるッ!!!」
セイギと3m程の距離を取っていたピエロは唾を飛ばしながら走り出した。その手に持った槍をセイギに突き刺す為に。
「勝つさ、出来るさ……だって俺は《王に選ばれし民》をブッ潰す男だからなッ!!!」
セイギは立ち止まったままピエロを迎え討った。
「デェアッ!!!」
セイギは大きく叫びながら大剣を振り下ろす。その刃はセイギを突き刺そうと向かってきた槍の先端を再び斬り落とした。そして、再び斬られてしまった槍はかなり短くなり、もう槍としての役目は果たせなくなる。
「なッ!!!」
ピエロは驚きの声を発した。それは槍を斬られてしまったからか……いや、それもあるが、それだけじゃない。ピエロが驚いた一番の理由は、セイギが槍を斬った瞬間に一歩前に踏み出してそれと同時に体を低く屈めてピエロの懐に大剣を当てたからだ。
当てた? それだけか? いや、違う。
セイギはピエロの懐に大剣が当たった瞬間、横一線………ピエロに鋭い斬撃をくらわせたんだ。
「グワァーーーー!!!!」
斬られたピエロは口から黒い血反吐を吐きながら、のたうち回って倒れた。今までもピエロはセイギの斬撃を受けてはいたが、今程のダメージを受けたのは始めてだ。腹が斬られては危ないのはピエロも人間と同じだから。
「ハァ……ハァ……ハァ……分かっただろ。これで。俺は、お前に勝つ。このままやられたくなかったら……」
セイギは仰向けに倒れたピエロのすぐ横に大剣の剣先をドンッと刺す様に下ろした。
『刺す様に』としたが、セイギは実際に手の甲を刺そうとしたんだ。しかし、巨大テハンドの手の甲はやはりゴムの様な感触で刺す事は出来なかった。だがしかし、セイギがこの行動を取った事にはもう一つの意味がある。それは、セイギが剣先を下ろした場所を見れば分かる。セイギが下ろした場所、それは倒れたピエロのすぐ横であり、ピエロの首のすぐ横だ。これは『やろうと思えば、俺は今すぐにでもお前をやれる』という事実を示す為の行動だった。だからセイギは言う。しつこいくらいに言い続けた言葉を。
「やられたくなかったら……サッサとこの手をこじ開けろ……」
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