第3話 閉じ込められた獲物たち 20 ―やめて!!!―

 20


 この時、愛もまた戦っていた。


「やめてください! やめて!!」


 彼女は暴徒と化した人々を止めようと声をあげていた。

 しかし、誰もその声を聞こうとはしない。


「お願い! やめて!!」


 駅前にある店は一軒も余す事なく、人々に"襲われて"しまった。人々がそんな事をする理由は赤い石を捜索する為だが、捜索が終わった後の店は軒並み"強盗に襲われた後"の様に荒らされてしまい、『探された』とはいえない。『襲われた』という方がふさわしい状況だった。


「お願いやめて!! みんな冷静になって!!!」


 愛はそんな状況を変えようと必死に叫ぶ。だが、誰も愛の言葉に耳を貸さない。


「お願いだから!!!」


 愛はそれでも必死に叫び、店に入り込もうとする人の腕を引っ張り、止めようとする。でも、愛の言葉に耳を貸さない相手でも、こういう時だけは反応をする。『邪魔をするな』と言う様に、相手は無言で愛を強く押し返すのだ。


 ………だから、止められない。愛は止めたくても、止められない。その繰り返し。ずっと、ずっと、その繰り返し


「やめて……ねぇ、やめてよ」


 けれど、何度も、何人にも、拒絶されても愛は諦めなかった。

 しかし、諦めなかったからといって、愛の心が傷を負わない訳はなく、


「もう……私はどうしたら良いの……何をすれば良いの?」


 遂に愛の頬には涙が伝った。


『どうしたら良い』……この言葉の意味は『人々の暴走を止めるにはどうしたら良いのか』という事。『何をすれば良いの』この言葉の意味は『人々の暴走を生み出している事件を阻止する為に、一体自分は何をすれば良いのか』という事。


 愛はこの問いを自分自身に投げ掛けた。


 ……投げ掛けたが、この問いに出せる答えは『英雄の力さえあれば……』という、"もしも"の答えしかなかった。

 "もしも"の答えは、結局は"もしも"でしかなく、現実的な答えとはならないし、"もしも"を"もしも"たらしめるものは、結局は自分自身の力不足であるから、愛は自分自身に問い掛ける事で自分自身の力不足を再確認する事になってしまった。


「どうしたら……どうしたら……」


『どうしたら力は手に入るの?』愛はそう言いたかった。でも、この問いの答えが出せるなら、始めから悩みはしない。


「どうしたら……」


 愛の悩みが零れる度に、頬を伝う涙が地面へと落ちる。そして、次の雫が落ちた時、愛も冷たいコンクリートの上に崩れ落ちる様に倒れた。


「どうしたら良いの?せっちゃん……」


 この時愛は、正義や勇気、ボッズーに会いたかった。


「先輩……」


 そして、真田萌音にも。

 愛は思ったんだ。『正義達や真田萌音なら、絶望の淵に落ちそうになる自分を助け出してくれるのではないか……』と。

 でも、すぐ近くに居る筈だった真田萌音は結局見付からず、会う事は叶わなかった。

 正義達にもそう。キツネのお面が言っていた。『今は電話もメールも何の意味を成さないからそう思っていてくれ』と。それは英雄の腕時計も例外じゃなく、愛が腕時計を何度叩いても、正義達に通信を送る事は出来なかったのだ。


「みんな……何処行ったの?」


 愛の心に襲い来る、孤独と、悔しさに、悲しさ。だけど、


「何泣いてるんだよ……私」


 愛は負けない。


「泣いてる場合じゃないんだよ!!」


 絶望に陥りそうになる自分に、愛は必死に抗った。瞳から零れ落ちる涙を自分自身を殴る様にして拭いながら、愛は再び立ち上がる。




 ………愛が、英雄の力を掴むまで、後二日



 第三章、第3話「閉じ込められた獲物たち」 完

 ――――


 第三章、第3話「閉じ込められた獲物たち」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。


 愛、正義、勇気、ボッズーの四人は輝ヶ丘の中と外で別れ別れにされてしまいました……しかし、四人は諦めません。何故なら彼女達は英雄だからだ!


 次回、第4話「中と外の英雄」につづく!

 お楽しみに!!!!!

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