第3話 閉じ込められた獲物たち 19 ―ピエロと100体のテハンド―

 19



 いや………違った。



「ケケケケケ!! 馬鹿な英雄共!! そう簡単にはいかないぜ!! ケケ!! 行くって何処から行くつもりだよ!! 良く見ろ! 良く見ろ! お前らが使おうとしていた"穴"はもう何処にも無いぞ!!!」


「え?!」


「何……」


 セイギとユウシャが振り向いた瞬間、突然、前方からピエロの声が聞こえてきた。その声はかなり大きな声だ。だが、その姿は見えない……いや、今はその事はさほど重要じゃない。それよりも『"穴"はもう何処にも無いぞ!』この言葉の方に英雄達は顔をこばわらせた。


「無いって……まさか!!」


「クソッ!! まだいたのかピエロ……出鱈目を吐きやがって!!」


「嘘だろボズ!!」


 セイギ、ユウシャ、ボッズーの三人は其々別々の驚きの言葉を発した……

 そして、セイギとユウシャは急いで中指と人差し指の間に向かって走った。『嘘だろ……嘘だろ……嘘であってくれ』と願いながら。


「ちきしょう!!」


「クソッ!!」


 だが、嘘じゃなかった。願いもむなしく、ピエロの言葉は本当だった。隙間があった筈のその場所には、今はもう1㎜の隙間も残されていなかったのだ……


「そんな……いつの間に!!」

 ユウシャは隙間があった筈の場所に膝を着き、その場所を手で触ってみた。平坦だ。叩いてみてもゴムの様な感触が手に残るだけ。銃で撃ってみても駄目だ。レーザーは弾き返されて、英雄達に一条の光すら見せてくれない。

「クソッ!!」


「ケケケ!! 悔しいかガキユウシャ!! でもな、悔やむなら自分の行いを悔やんだ方が良いぞ!! だって、お前が俺をブッ飛ばしてくれたからなんだからな!! 助かったよ!! ブッ飛ばされた時、やっと分かったんだ!! お前らが何処から輝ヶ丘に戻ろうとしているのかが!! 空の上からなら良く見えるな! 指と指の間に出来た隙間が!! ケケ!! 分かったなら俺は仕事が早いぞ!! 悪いけど、隙間はこの《巨大テハンド》の人差し指の皮を剥がしてパテパテさせてもらったぜ!!」


「巨大テハンド……それって、この"手"の事か」

 セイギは呟く。呟きながら足元に視線を移し、手の甲を睨む。


「クソッ!!」

 ユウシャは隙間があった筈の場所をもう一度殴った。

「セイギ、ボッズー、すまん! 俺のせいだ!! クソッ!!」


「いや!」

 セイギはすぐにユウシャの言葉に首を振った。

「勇気は俺を助けてくれたんだ。悪い事ねぇ。それより、あのピエロの野郎……隙間が出来てんのに気付いてなかったのかよ。俺はてっきり、アイツはあの隙間から俺達が侵入しないようにって現れたのかと思ってたぜ」

 セイギは苛つきを抑える様に頭をガリガリと掻いた。

「仕方ない……他に侵入出来そうな場所がないか今から探そう」


 この時、セイギはボソリと呟く様に話していた。でも、ピエロの耳は良いのか、このセイギの言葉に返答してきた。


「ケケ!! ガキ馬鹿セイギ!! 俺様を買い被ってくれて嬉しいぜ!! でもな、気付いてる訳ないだろ!気付いてたらもっと早くパテパテしてるぜ! ケケ!! 俺、今日全然ヤル気無いんだよ! 俺はただ芸術家から言われた場所から出てきただけだよーーー!! ケケ!! 気付かれる前にサッサと侵入するべきだったな馬鹿共がッ!! ケケケケケ!! でも、もう遅いぜ!! 他にも出来てた隙間は全部パテパテさせてもらったもんねぇーー!!! ケケケケケ!!! それより、今日の俺の退屈をお前らが消してくれよ!! またオラと戦ってくれぇーーー!!!」


 ピエロの声はピエロが話している間にドンドンと近くに聞こえてきていた。そして、それと共に『ドドドドド……』まるで馬の足音の様な音も聞こえてきた。勿論、その足音の様な音もピエロの声が聞こえるのと同じ方向から聞こえる……


「何の音だボズ……」

 ボッズーは呟いた。でも、ボッズーは『この音は何か?』と空を飛んで調べる必要はなかった。何故なら、

「……マジかボズ!!」

 ボッズーが言葉を呟いた後に、すぐに見えたから……芸術家が作り出す"手"、いやピエロ曰く《テハンド》と呼ぶらしいモンスターが、五指をまるで足の様にしてこちらに向かって走ってきている姿が。

「アイツらまだいたのかボズ!!」

 それも今回もまた大群。

「つか、さっきよりも多いぞボッズー!!」

 それも、さっきの大群よりも多い大群。それは優に100体を超える大群だ。そして、その大群の先頭にはピエロがいた。ピエロは騎兵の様にテハンドの背中、いや、手の甲の上に乗っている。


「ケケケ!! 戦おうぜ!! 戦おうぜ!! ブッ戦おうぜぇ!!」


 ピエロは叫ぶ、100体を超えるテハンドを引き連れて……しかも、それだけじゃない。


「え? 嘘だろ……」

 セイギは突然後方に向かって走り出した。(セイギが立っていた中指と人差し指の間は緩やかな坂道になっているから、駆け上ったという方が正しいが)

「マジかよ……」

 セイギは再び頭をガリガリと掻いた。

 何故なら、セイギ達の後方からも『ドドドドド……』と地割れの様な大きな足音を鳴らして、テハンドの大群が迫ってきていたから。

「ちくしょう……」

 その数もまた前方から迫るテハンドと同等。セイギ達は完全に挟み撃ちにあってしまった。

「ユウシャ……ボッズー……こりゃヤバイぞ」

 セイギの額からは冷や汗がタラリと垂れた……


 ―――――


 しくじり……



 英雄達はしくじってしまった。


 始めはボッズー、彼は自分達三人が散り散りに別れる事を選んでしまった。

 次にセイギ、彼は自分の力だけでピエロに反撃が出来なかった。

 その次にユウシャ、彼はピエロに隙間を発見させてしまった。

 その一つ一つは其々が懸命に頑張った結果で、仕方がないともいえるが、結果論だけを取れば全てがしくじりでしかなかった。もしこの時、誰か一人でも別の結果に歯車を回せていれば、これから輝ヶ丘で起こる運命を変えられていたかもしれない。しかし、全ては後の祭り。後の祭りなんだ……

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