第3話 閉じ込められた獲物たち 17 ―ボッズーは何処だ―

 17


 ユウシャの二丁拳銃から発射される直径約1mもの蒼い光弾を覚えているだろうか?デカギライにトドメを刺した光弾と説明すれば分かりやすいのではないだろうか。

 今、ユウシャの銃から放たれた物は正にそれだ……


「ウゲェーーーー!!!!!」


 光弾の威力は抜群だ。

 ゼロ距離射撃でユウシャの光弾をくらったピエロは、特大ホームランが如く、ユウシャから見て前方に、セイギから考えて後方に、手足をバタつかせながら飛んでいった。


「ふぅ……騒がしい奴だ。あぁいうのは嫌いだ」

 そう呟くとユウシャは、二丁拳銃をホルスターに収めて、肩で息をするセイギに近づいていった。

「大丈夫か? 怪我はないか?」


「あぁ、なんとか……へへっ! ちょっと疲れたけどな! ありがとな、勇気! 助かったぜ!!」

 セイギは汗を拭う様に仮面の額の辺りを撫でた。


 そんなセイギにユウシャは首を振る。

「今の俺は勇気じゃないぞ……ガキユウシャだ」


「へへっ! 確かに!」


「ははっ!」


 そして二人は笑い合った。そして、辺りを見回す。

 二人が辺りを見回す理由は同じ。ボッズーがいないからだ。


「ん? ボッズーはいないのか……」


「ユウシャ、ボッズーは一緒じゃないんだ?」


 二人はほぼ同時に聞いた。一人目がユウシャ、二人目がセイギだ。


「「あ……いや、俺は一緒じゃない」」


 二人はお互いの言葉に驚くと、同時に同じ言葉を喋った。……と同時に、二人は辺りを見回すのを止めて、相手の顔をじーっと見詰める。


「……一緒じゃないのか」


「あぁ、一緒じゃない」

 セイギは首を横に振った。


「そうか……俺はてっきり二人は一緒にいるものと思っていたが」


 もう二人の笑顔は消えている。ユウシャが現れた事で安心したセイギ、セイギが無事で安心したユウシャ、二人は一瞬友達同士に戻っていたが、既に英雄同士に戻っているから。


「そうなのか?」

 ユウシャの言葉に、今度のセイギは首を傾げた。


「あぁ……」

 ユウシャは反対にコクリと頷いた。それから、顎に手を添えてその理由を話し出す。

「いや……と言うのもな。どうやら俺は大分遠くまでボッズーに投げられたみたいでな。恐らくこの巨大な手の手首の近くまで行っていたと思うんだ。墜ちた場所のすぐ近くに断崖絶壁になっている場所があって、危なく地上に落ちるところだったからな」

 芸術家が作る"手"はどれも手首から先がない。手首から先がスッパリと切られた様に。ユウシャもその事を知っている。だから自分が墜ちた場所は手首の近くだと判断したのだろう。

「ならば前に進めばお前達に会えると思って、お前達を探しながらここまで来たんだが、どちらもいつまで経っても見付からないからな、てっきり二人は一緒だと思い込んでいた……でも、違っていたのか」


「うん……俺もユウシャとボッズーが何処に行ったのか気になってたくらいだ。じゃあ、何処に行ったんだ? アイツは?」

 セイギは仮面の頭を掻きながら後ろを向いた。

「ユウシャが見てないって事は、こっちの方向って事だよな?」

 そして、セイギは前方を指差す。さっきまで背中を向けていた前方を。


「だと思う……この手の上は幸いにして視界を遮る物は何もないし、変身状態なら視力もかなり良くなっている。俺が見落としたというのは、きっと無い」

 ユウシャの顔は仮面に隠されて今は見えない。でも、声の中に自信が見える。


「そうか……でも、こっちの方向って、ユウシャが手首の方から来たなら、指の方って事だよな?」


「あぁ……」

 ユウシャはまたコクリと頷いた。


「って事は……手の大群が居る方向って事だな。大丈夫かな……アイツ? 襲われてなきゃ良いけど」

 そう言いながらセイギは、右手に持つ大剣を強く握り直した。そして、チラリとユウシャの方を振り返るとこう聞いた。

「ユウシャ、ここまでずっと走ってきたみたいだけど、まだまだいけるか?」


 問い掛けられたユウシャはすぐに答える。

「あぁ……勿論だ。お前こそ、さっきのピエロとの戦いで疲れているんじゃなかったか?」

 答えながらユウシャは、一歩、二歩と前に進んだ。前方を見るセイギと肩を並べる為に。


「へへっ! 全然だぜ!」

 今度はセイギがすぐに答えた。自分の胸をドンッと叩いて。


「そうか……じゃあ」


「あぁ!」


 そして、二人は頷き合った。そして、


「んじゃ、ちょっくら走ろうぜッ!!」


「おうッ!!」


 お互いの意思を確認し合うと、二人は一気に走り出す。

 巨大過ぎて巨大過ぎる手は輝ヶ丘を覆い隠してしまっている。ならば巨大過ぎて巨大過ぎる手は輝ヶ丘の面積と同等の大きさという事になる。

 そんな広大すぎる手の甲の上を、セイギとユウシャの二人は全速力で走った。目を凝らし『ボッズーは何処に行ったんだ?』と探しながら。


「何処だ? ボッズー、何処だよ!!」


「ボッズー、何処へ行った!!」

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