第3話 閉じ込められた獲物たち 9 ―異変―
9
「うわっ!!」
「なんだ!!」
電車が大きく揺れ、隣り合わせに座っていた正義と勇気の肩がぶつかった。
そして、「ただいま強い揺れを感知しました。緊急停止信号を受信した為、確認の為、停車致します」………こんな風な簡素で端的なアナウンスが聞こえ、電車は止まった。
「な……何だ、今の?」
正義の左側は空席。勇気の肩に押された正義は横倒しに倒れてしまっていた。
「お……おい、勇気」
その顔は驚いている。
「正義……今のは……」
いや、驚いているのは正義だけじゃない。勇気もそうだ。
「お……おい……」
いや、まだもう一人。それは正義の胸に抱かれている者。
「い……今、聞こえた"音"は何だボズ?」
それはボッズー。
そして、そうだ。三人が驚いているものは揺れだけではない。勿論、電車が揺れた事にも驚いてはいるが、それよりも驚いているものがあった。それは、"音"。揺れと共に聞こえた"音"なんだ。
「今のって……なぁ、正義、なぁ!」
ボッズーは正義の胸の中で玩具の人形のフリをしていた。それは今も継続中。しかし、顔も体も動かさず、人形のフリを続けるボッズーも喋り出さずにはいられなかった。だって、
「今のって……今のって……爆発音じゃなかったかボズ?」
その音は"破壊を連想させる音"だったから。
「あ……あぁ」
正義は、逆腹話術師かの様に口を殆ど動かさずに喋るボッズーに頷きながら、起き上がった。
「………」
それから窓の外を見る。爆発音は少し遠くから聞こえたからだ。そして正義は、直感的にその音は車外からのものだと判断した。
その眼差しは鋭い。そして、鋭い眼差しで彼が見る窓は自分の近くの窓じゃなかった。電車の進行方向とは逆、自分が居る車両の後方の窓だ。何故、正義はわざわざそんな少し離れた場所を睨み、外を見るのか。何故なら、そっちがあっち側だからだ……あっちとは輝ヶ丘のある側だ……
「ちきしょう……」
正義は呟いた。
「何だあれは……」
勇気も同じく。彼の目にも映ったんだ。正義の目にも映ったものが。輝ヶ丘に起こった"異変"が。
―――――
― 夜が来た……
愛はそう思った。
………輝ヶ丘を照らす光はまだ昼間の光の筈だった。それなのに、爆発音が聞こえたと同時に空は黒く染まってしまった。まるで一瞬のまばたきの内に眠りに堕ちてしまって、時間を飛び越えてしまったのではないかと錯覚しそうになるくらいに、あまりにも突然に。
しかし、愛は眠りに堕ちてなどいない。遮られたんだ。光を、何者かに……
その事に愛が気が付くのはもう少しあと。
しかし、愛は空が黒く染まった理由が爆発音には無い事は知っていた。何故なら、彼女は駅の改札口から噴出される黒煙と駅の中に見える真っ赤な炎を目にしているから。爆発音の所以は……いや、その逆、駅を燃やす炎の所以はその爆発音にある事は明らかだった。
愛は思った。『《王に選ばれし民》が赤い石を使って駅を破壊したんだ』……と。そして思う、
― でも……何で"夜"に?
愛は空を見上げた。
ガ……ガガ……
ノイズの様な音が聞こえた。
それは、愛を見下ろす駅に備え付けられた街頭ビジョンから……
―――――
「どうなってんだアレはボズ……」
ボッズーが人形のフリを続ける事はもう不可能だった。輝ヶ丘に起こった異変を目にしてしまったら、もうそんな余裕はない。
しかし、今はボッズーがどんなに自由に動いても誰も気付かないから大丈夫。電車の乗客は皆が皆、その異変を見ているから。ボッズーの方なんて見向きもしない。
「アレってもしかして……」
誰かが呟いた。
「手………??」
続いて別の誰かも呟いた。
「芸術家か……」
今度は勇気が。
「うん……アレは明らかにそうだなボズ」
ボッズーは頷きながら。
「アレを見るのはもう三回目だぜ……」
正義はダウンジャケットの袖を捲って、袖に隠れていた腕時計を露出させながら呟いた。
「あんなデカイのは初めてだけどな」
「アレに殴られたら一溜りもないボズよ……」
「そんなの想像したくもねぇよ」
そして、正義は腕時計を叩いた。
「そうだな……」
それは勇気も。
目映い光が二人の腕時計から放たれる。
電車の中には大勢の人が居る。でも、大丈夫。誰も二人の方なんて見てはいないから。皆が皆、輝ヶ丘に起こった異変に気を取られて輝ヶ丘側の窓に集まっているから、唯一その中に紛れずに皆の背後に立っていた少年二人の腕時計から目映い光が放たれて、少年二人の体を腕時計から飛び出した赤と青の巨大なタマゴが包もうが、誰も見てはいない。だから気が付かない。いや、当然、突然の目映い光に驚いて振り向いた人もいる。でも、大丈夫。
その人が振り向いた時にはもう………
「え? 嘘……?? 英雄?? え……本物??」
《正義の英雄 ガキセイギ》と《勇気の英雄 ガキユウシャ》が立っていたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます