第3話 閉じ込められた獲物たち 4 ―ばら蒔かれた赤い石―
4
愛はすぐに真田萌音にメールを送った。
「先輩。今話できます?」
「大丈夫なら五分後に電話します」
送ったのは上の2つの。しかし、萌音から返ってきたのは
「眠い」
「寝たい」
この2つ。そして、うさぎのキャラクターが『またね』と手を振っているスタンプ……
「はぁ……」
萌音の返信を見た愛は肩を落とした。そして愛は『起きたら連絡下さい。待ってます。』と送った。
「眠いって……まぁ仕方ないか。まだ6時間くらいだろうし……」
愛は思い出す。昔々萌音が『睡眠はせめて8時間は欲しい』と言っていた事を。
昨晩、愛が寝ている間に萌音から届いたメールは全て深夜の3時過ぎに送られてきたもの。まだ6時間しか経っていない。だから愛は暫く待つ事にした。
………
……………
………が、それから2時間も経たずして愛は動き出した。その理由は《王に選ばれし民》の魔の手が、思っていたよりもすぐ傍に迫っていた事を彼女は知ったから。
その切っ掛けになるのは友人の瑠璃からかかってきた電話だ。
―――――
「やっぱスゴいよ真田先輩は!」
愛が電話を取ると開口一番、瑠璃はそう言った。
「スゴい? 何が? 何かあったの?」
愛はとぼけた口調で瑠璃に質問をした。だが、瑠璃の言いたい事が何かは大体は分かっていた。いや、分かっていたつもり。愛は『瑠璃も先輩の記事を読んだのだろう』と思ったのだ。輝ヶ丘高生には萌音の記事の読者が多い。特に萌音と関わりの深い生徒ならばその殆どが読んでいる。
しかし、瑠璃の返答は愛が予想してたものとは少し違っていた。
「何がって愛は先輩の記事読んでないの?」
「読んだよ。さっき」
「なら知ってるっしょ? 赤い石なんだって! 放火の犯人は!」
「うん。らしいね」
『犯人』とは少し違うが、愛はそこにはツッコまなかった。
「なら、愛も一緒に行こうよ!」
「行く? 何、急に? 何処に行くの?」
今度のは本気の質問。瑠璃の言いたい事が本気で分からなかった。
「何処って言うか、とりあえず家出て駅前で待ち合わせしよう!」
「え……何で?」
さっきから瑠璃の発言は要領を得ない。『何を言っているんだ?』という感じ。
しかし、瑠璃からしてみたら愛の発言は同じく『何を言っているんだ?』だったらしい。何故なら、彼女は愛に向かって正にそう言ったのだから。
「何でって、何言ってんの? 先輩が記事の中で言ってたじゃん! 一緒に戦いましょうって! 赤い石を探すんだよ! 果穂からはOKもらってるよ、勿論愛も来るよね?」
「え、ちょっと待って、勝手に決めないでよ。それに探すって何処探すつもりなの?」
何故、愛の友人には瑠璃や萌音の様に押しが強い人物が多いのだろうか……いや、よく考えれば、愛自身も押しが強い所がある。類は友を呼ぶ……そういう事なのかもしれない。
「何処って言うか、何処でもだよ! 愛、何でも良いから検索してみなよ。町内で赤い石を発見したって人いっぱい出てくるよ! つか、私の家にもあったんよ! ベランダに!」
「え?! 瑠璃の家に?」
予想外の瑠璃の発言に愛の眉間には皺が寄る。
「本当……?」
「本当だよ! ヤバイよ!」
「ヤバイよ……って」
赤い石が自宅に有ったのならば、瑠璃が言う様にヤバイ事だ。だが、瑠璃の喋り方は明るく、愛には『流行に乗っかれて嬉しい』そう言っている様に聞こえた。
だが、そうではない事はこの後の瑠璃の発言ですぐに分かる。
「マジでヤバイんだって! 気付かないまんまだったら私死んでたかもだよ! 先輩の記事読んで助かったよ! 石の事知らなかったら、もしかしたら死んでたかもだもん! しかもね、私の隣の家からも見付かったし、3階の家からも見付かったんだよ! ううん……分かってるのがそこだけで他にもいっぱいあるかも! 私が住んでるマンションじゃ、もう大騒ぎだよ! 警察もいっぱい来てて……つか、愛、マジで調べてみてよ。私の家だけじゃなくて、マジで町内でも見付かりまくってるんだから……ねぇ、愛、一緒に探そうよ、このままにしてたら私達死んじゃうよ……」
「………」
『一緒に探そう』そう言った彼女の声の中に恐怖が見えた。電話口では相手の顔は見えない。だから声のトーンや喋り方で相手の様子を想像するしかないが、瑠璃のキーンと通る大きな声から、愛は瑠璃が明るく喋っていると思ってしまっていた。だが、今の瑠璃は明るくなんてなかった。まさかのその逆。快活に聞こえる喋り方は興奮していただけ。焦りからの興奮をしていただけだったんだ。
「瑠璃……」
愛はやっと瑠璃の感情を理解した。
「お願い。一緒に探してよ。私、まだ死にたくないよ」
「う……うん」
愛は『うん、分かった』そう言おうとしていた。だが、上手く言葉が出てこない。『もしかしたら友達が被害にあっていたかも……』という事実が愛を震え上がらせていたからだ。しかも、愛は真田萌音と共に赤い石が生み出したと思われる真っ赤な炎を実際にその目で見たのだから、尚更その震えは激しかった……
「わ……分かっ」
『分かった』
やっと言葉が出てきそうになった。でも、その言葉はまた声になる事はなかった。その理由は愛が驚いてしまったからだ。それは何にか。それは、愛の部屋の外から聞こえたドタドタドタッと階段を駆け上がる足音にだ。
「………?」
『音の重さ的にこの足音はお父さんものだな』と愛が判断した瞬間、ガチャッと勢い良く愛の部屋の扉が開いた。
「え……! ちょっとお父さん、勝手に」
やはり足音の主は愛の父親。愛は父親に『勝手に開けないでよ』そう言おうとした。だが、その前に愛の言葉を遮る様に、愛の父親が喋った。脂汗をかいた、戦慄した表情で、愛に"ソレ"を見せながら……
「愛……うちにも……うちにも有ったよ……」
愛に、まるで宝石の様な不思議な赤い石を見せながら……
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