第3話 閉じ込められた獲物たち 3 ―先輩の暴走―
3
『2月✕日、前日の夜に夜更かしをしてしまった私を叩き起こしたのは弟の声でした。』
こんな文章で始まった記事は、石を発見した経緯がまるで日記の様に書かれた記事だった。
それからの記事はこの様に続く。
『まだ目覚めたばかりの私に、弟は「お姉ちゃん、これ見て」と不思議な石を差し出した。それは、まるで宝石の様な赤い石。
この石を受け取った私は「この石は危険だ。禍々しい物だ。」と直感しました。
そこに証拠はありませんが、その日の夕方に私の家が放火にあった事は、この記事を読む方の大多数が知っている事だろうと思います。
そして、燃える家を見た時に私は察しました。あの赤い石が私の家を燃やしたのだと。
恐らくあの赤い石は、私に攻撃をする為に王に選ばれし民が落としていった物なのでしょう。
この見解にも証拠はありません。私の勘だと言えばそれまでです。しかし、私は自分の勘を疑わない。襲われた本人だからこそ分かる勘だからです。』
……………
…………………。
「先輩……」
ここまで読んだ時、愛は確信した。
『この記事は客観性を捨てて、かなり主観的に書かれている記事だ』……と。
真田萌音は事件の当事者であり、王に選ばれし民は人間の常識を当て嵌める事の出来ない奇怪な存在だ。ならば、客観的な事実を積み重ねて記事を書くよりも、主観的で証拠の無い記事になるのは仕方のない事だと思われるが、真田萌音をよく知る愛は違和感を覚えた。
「私には散々『私的な感情があり過ぎると逆に読者は逃げるよ』って言ってたのに……どうしたのこれ?」
新聞部時代、真田萌音から散々受けたこの注意。この注意が愛に違和感を覚えさせた。
しかも、記事の最後には
『皆さんもこの石を見付けたら、すぐに警察に通報して下さい。その行動はあなた達の戦いになります。私と一緒に戦いましょう。人間は王に選ばれし民には負けないと分からせるのです。』
……と、まるで扇動する様な文章と、赤い石を書いた絵を萌音は載せていた。
「はぁ……」
記事を最後まで読んだ時、愛は眉間に皺を寄せてため息を吐いた。
「先輩、暴走してるよ……これはやっぱり私が止めないと」
ブラウザは閉じられた。愛は再び、真田萌音とのトーク画面を開く。
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