第3話 閉じ込められた獲物たち 2 ―愛の気持ちは曇天―

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 翌日、晴れぬ気持ちのまま愛は目を覚ました。その気持ちは正に曇天。


「うぅ……」


 昨晩は疲れていたのか、風呂から上がって髪を乾かしたらすぐに愛は寝てしまった。だが、ぐっすりとはいかず、妙に汗をかいて夜中に何度も目を覚ましてしまった。


「寝た気がしない……頭も重い……最悪」


 質の良い睡眠は悠々たる心から生まれる。しかし、今の愛は真逆だから、そうはいかなかった。


「もう……今何時? まだ寝れるかな……」


 愛は一度開いた瞼を再び閉じると、手だけを伸ばしてベッドボードに置いてあるスマホを取った。

 取った瞬間に使い古した充電器のプラグが差し込み口からポロリと外れ、ベッドの足の横にポトリと落ちる。


「………」


 ポトリと落ちたと同時に、愛は再び瞼を開いた。

 時刻は午前9時過ぎ……『もう起きなきゃいけない時間だな……』と愛は思った。今日の予定は特にない。だけど、今もう一度眠れば起きるのは午前二桁台になるだろう。その事に愛は気が引けたんだ。


「ダメか……起きるしかないか」


 愛はそう決意すると、特に用も無いのにほぼほぼ無意識でスマホのロックを解除した。


「………」


 ホーム画面が開くと、愛が一番最初にタッチしたのはメールアプリだった。それは緑色のアイコンの右上が赤くなっていたから。数字が幾つだったかを見ずに開いてしまったが、夜の内に幾つかのメールが届いていたらしい事が分かる。


「あっ……」


 そして、開くとすぐに愛は気が付いた。"彼女"からの連絡が届いていた事に。


「……先輩」


 それは真田萌音から。萌音からは3つのメールが届いていた。


「………」


 この事を知った愛は嫌な予感がした。いや、『予感』というよりもほぼ『確信』に近い。

「やっぱり……」

 トーク画面を開いた愛は呟く。嫌な予感は『やっぱり』当たっていたんだ。萌音から届いていたメールは以下の3つ。



『桃ちゃん、記事が出来たよ。読んで』


『拡散お願い』


『https://◯✕△□』


 3つ目は言葉ではなくURL。萌音が自分の記事のURLを貼り付けたものだろう。



「う~ん……」


 愛はボサボサの髪をかき上げながら憂鬱な気持ちで起き上がった。そして、スマホをベッドの上に落とすと、ベッドを降りて自室を出た。

 愛の部屋は二階にある。自室を出ると愛が向かったのは一階。その目的は水が欲しかったからだ。

 寝起きで喉がカラカラなのもあるが、愛は何よりも眠気を飛ばして頭をスッキリとしたかったんだ。

 それならば珈琲の方が適しているのだが、愛は今は"味"を欲していなかった。憂鬱な気持ちに"刺激"はいらなかった。"無味無臭"が丁度良かった。


「う~ん……」


 冷蔵庫から500mlのペットボトルを取り出してその場で一口飲むと愛は唸った。しかしそれは、水の美味しさに唸った訳ではない。自分自身に対して憤りが湧いてきたから唸ったんだ。

 愛は昨日、『これ以上、先輩をこの事件に関わらせたくない』と考えていた。だが、その願いは叶わず真田萌音は自らでまた一歩、事件に踏み込んできてしまった。

 しかもその事実は愛自身の未熟さを露呈させた様なものだから、愛は自分自身に腹が立っていたんだ。


 ― 昨日、私必死に止めたかな?いや、そんな事ない。『何で私の言う事聞いてくれないの?』『何で私は英雄になれないの?』……そんな事だけ考えて、先輩を無理矢理にでも止めようってはしてない……それじゃあ悩んでる風。何もしてないのと一緒……馬鹿みたい……


 愛は自分自身にキツい言葉を投げながら自室へと戻っていった。


「………はぁ」


 そして、自室に戻った愛はため息を一つ吐くと、スマホを再び取ってベッドの上に座った。


「………」


 それから愛は閉じられたスマホの黒い画面を凝視する。でも、それはほんの一秒くらいで、すぐに愛の手は動いた。愛は覚悟を決めたんだ。

 何の覚悟か。それは真田萌音が書いた記事を読むという覚悟。

 何故そんな覚悟が必要なのか、何故ならば、それは愛の中に少し躊躇いがあったからだ。彼女は真田萌音の記事を読む事を少し怖がっていたんだ。その理由は『記事を読めば自分の悩みは更に深くなってしまう』と思っていたから。だから昨日萌音が『既に書いた』と言った『襲われた時の事を書いた記事』もまだ読めていない。でも、今彼女は覚悟を決めた。


「………」


 愛は送られてきたURLを無言でタッチする………すると、すぐに画面は切り替わり、真田萌音が記者をしているニュースサイトが開いた。そして、おそらく萌音が考えたものだろう、記事のタイトルが画面の中央に大きく表示された。


『謎の赤い石を発見 王に選ばれし民と関連か?!』


「………やっぱそうだよね。石に関してだよね」


 記事のタイトルを読んだ後、愛は独り言を呟いた。愛は送られてきたURLの記事がどんな内容か大体予想出来ていたんだ。何故なら真田萌音は昨日、『襲われた時の事はもう記事にした』と言った後に、『次は石の事を広めるつもり』と言っていたから。


「………」

 愛は一階から持ってきた水を一口飲むと画面をスクロール。


 タイトルのすぐ下、本文が始まった。

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