第2話 狐目の怪しい男
第2話 狐目の怪しい男 1 ―バッチャン、もっとその話聞かせてよ―
1
「んじゃ、バッチャン助かったよ! ありがとね!」
ニカッと笑う正義は靴の履き心地を直そうと爪先を地面にトントンっと叩いた。
「本当に大丈夫なのかい? もう少し休んでいった方が良いんじゃないのかい?」
そんな正義を見て山下のお婆ちゃんが心配そうな顔でそう言った。
「へへっ! 大丈夫、大丈夫! こんなのかすり傷だって言ったっしょ!」
でも、正義は笑顔だ。笑顔をお婆ちゃんに見せ続ける。
「それにバッチャンから良い情報を聞けたしね! 居ても立ってもいられないや!」
「良い情報? そんな話したかい? 悪い話はしたかも知れないけど」
「へへっ! その"悪い話"が俺にとっては良いんだって!!」
「ちょっと正義ちゃん、変な事には……」
「分かってる、『変な事には首を突っ込むな』でしょ? へへへっ!!」
今、正義は駄菓子屋山下商店に居る。
『駅前公園で謎の火の玉にやられた筈の正義が何故山下に?』と思うかも知れない、それに『正義が言う"良い情報"とは一体何か?』とも、だから物語の時間を少し前に戻そうか………
―――――
「グワァーーーッ!!!」
「うわーーーーっ!!!」
火の玉にやられた後の正義は気を失い地面に落ちた。当然、ボッズーも一緒に。
それから冷たい砂利の上で正義はどれくらい寝ていたのだろうか? 数分か、数十分か、それとも数秒か……やられた本人には分からないが、暫くして目を覚ますと敵の姿は何処にもなかった。
「ちき……しょう……おい、ボッズー! 大丈夫か!」
正義は痛みに顔を歪ませながら起き上がり、傍らで眠るボッズーに声をかけた。しかし、彼は深い眠りに落ちてしまっていた。目を覚まさない。
「ダメか……」
そんなボッズーを抱え、正義は歩き出す。その前に『念のために』とダウンのポケットに忍ばせていた《魔法の果物》を眠るボッズーの口に含ませて。
そして、
「………あっ!」
公園を出たところだった。お婆ちゃんと出会ったのは。
「バ……バッチャン、何でこんな時間にこんな所にいるんだ?」
まさかのお婆ちゃんの登場に驚いた正義は、背負ってきていたリュックの中に急いでボッズーを隠した。
「何言ってるの、質問するのはこっちだよ。どうしたんだいその体? 大丈夫かい?」
時刻的には深夜というよりも明け方に近い。しかし、まだ二月。まだ太陽は出ていない。そんな時間にお婆ちゃんが公園の近くにいる事に正義は驚き『何で?』と聞いたが、お婆ちゃんは正義の質問に答えるよりも正義の目の下に出来た大きな痣と両頬に出来た巨大な擦り傷が気になったらしい。
「あぁ、これ? へへっ……大丈夫! 大丈夫! こんなのかすり傷だよ!」
『かすり傷』と言うには少し痛いが、正義はお婆ちゃんを心配させない為にそう言った。
でも、
「本当かい?」
お婆ちゃんの心配顔は消えなかった。
「本当! 本当!」
正義はそう言って笑って誤魔化したが、お婆ちゃんは……
「いんや、大丈夫じゃないよ……」
正義の嘘に気が付いた。そして、
「ちょっとうちにおいで。手当てしないとだよ」
お婆ちゃんはフラフラの正義の手を強引に取ると、強い力で正義を引っ張った。
「あ……ちょ……ちょ」
山下のお婆ちゃんは"お婆ちゃん"だが、動きは早いし力も強い。フラフラの正義は本当は今すぐにでも秘密基地に行って魔法の果物を食べたかったのだが、フラフラだから『ちょっと待って』の言葉も言えないまま、お婆ちゃんにされるがままになってしまった。
「正義ちゃん、今はお母さん達も来てなくて一人だって言ってたよねぇ? ダメだよ、あんまり心配かけるような事をしたら」
「う……うん……」
………そして、正義は山下に向かう事になるのだが、それから山下までの道中、おばあちゃんは語った。歳を取ると目覚めが早くなる事を、だから毎日このくらいの時間に朝の散歩をしている事を………いや、おばあちゃんはその話もしたが、この物語を進めるに当たって重要なのはそこじゃない。重要なのはその後にした話だ。それが正義にとっての『良い情報』。
「ねぇ正義ちゃん……もしかしてだけど、その傷、あの"ストーカー男"にやられたんじゃないだろうね?」
「うぇ? ストーカー男?」
お婆ちゃんの口から飛び出した突然のワードに驚いて、正義は目を見開いた。
「そうだよ……正義ちゃんが公園から出る少し前に公園から出ていった男がいただろ?眼鏡をかけた……」
「ん? ……あぁ!」
『アイツか……』と正義は察した。『怪文書を持っていたあの男の事だ!』と。
「アイツ、ストーカーなの? ストーカーってバッチャンの?」
「そんな訳ないだろう……」
お婆ちゃんは『何を言ってるんだい……』といった顔で正義の発言に眉を困らせた。
「……私じゃないよ、この前愛ちゃんが萌音ちゃんの話しただろう?」
「萌音ちゃん?」
「そうだよ、愛ちゃんの先輩の。新聞部の……」
「あぁ~~真田先輩!」
「そう、その萌音ちゃんのお友達のだよ。彩華ちゃんって子なんだけどね。あの男、その子をストーカーしてた男なんだよ……輝ヶ丘から出ていったと思ってたけど、また現れたみたいだね」
「お友達の……真田先輩のじゃなくて、そのお友達のストーカー?」
「そうだよ……」
コクリと頷くと、正義を掴むお婆ちゃんの手の力はギュッと強くなった。
「そのストーカーがあの男なの? ねぇバッチャン、その話もう少し詳しく教えてよ!」
「それは、傷の手当てを終わらせてからだね」
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