第1話 血色の怪文書 25 ―現れた敵―

 25


 赤い体をした英雄はこちらを睨みながら立ち上がった。いや、仮面をつけているから実際のところ私には彼……おそらく"彼"であっているだろう……の表情は分からない。でも私が彼ならば、私は私を睨むだろうし、きっとそうだ。

 それから、彼は言った。


「あんた、その手に持っている物は何だ?」


 彼の語気は荒くない。しかし、偉そうな口振りだ。私は腹が立った。だから、


「フッ……」


 私は彼を鼻で笑ってやった。小馬鹿にしてやったんだ。すると、


「何を笑っているんだボズ……」


 今度は英雄の仲間が喋った。鳥のくせに喋っている。気持ちの悪い生き物だ。


「ボッズーやめろ。落ち着け……まだこの人がバケモノとは断定出来ていない」


 英雄は仲間を制止した。イメージ的に気持ちの激しい奴だと思っていたが、英雄は意外と落ち着いている。そして、英雄は花壇の前に貼られたテープを乗り越えて私に向かって歩き始めた。


「その手に持ってるのって、アレだよね? 今、町にばら蒔かれてるヤツ。それを何であんたが持ってるんだ? 拾ったの?それとも……」


 その後の言葉は私自身に言わせたいのか、英雄は黙った。その感じもムカつく奴だ。質問をしている立場なのに偉ぶるにも程がある。

 だから言ってやった。


「そうだよ。これは私が書いた物だ」


 私がこう答えると、一瞬英雄の足が止まった。驚いたのだろう。笑える。だが、残念ながらその顔も仮面に隠されていて見えない。非常に残念だ。しかし笑える。


「そうか……」


 英雄はボソリと呟き、再び私に向かって歩き始めた。


「じゃあ……もう一個質問。あんたはこの事件を起こした張本人?」


 前言撤回。やはり腹が立つ。英雄は私の言葉に驚いている筈なのに、冷静な口調のままじゃないか。苛つく。虫酸が走る。

 だから言ってやる。


 ―――――


「そうだよ……」


 男はそう呟くとニヤリと笑い、セイギに背中を向け走り出した。


「あっ! 逃げるなボズ!!」

 ボッズーは素早くミルミルミルネモードを解除すると、体に鞭打ちビュビューンモードに変形した。


 では、セイギはというと

「………」

 無言だ。しかし、それは静かな怒りを燃やしているから。

「………ッ!!」

 セイギは無言で走り出すと、腕時計を叩き大剣を取り出した。


「フッ……英雄のクセに人間の私に剣を向けるのか」


「何が"人間"だボズ! 《王に選ばれし民》に魂を売ったくせに!!」

 ボッズーは翼を大きく広げた。


「フフフッ……無駄だ。私はお前達と争うつもりはない」


「じゃあ何で来たボズ!!!」


「それは可笑しな事をしている奴等を見付けたからさ!」

 そう言うと男は持っていた怪文書を投げ捨て、ズボンのポケットから手のひらに収まるくらいのサイズの小瓶を取り出した。その中には花の種の様な物が入っている。男は瓶の蓋を開けると、ソイツを辺りにばら蒔いた。

「お前等の相手はコイツらだ! 行けッ! ダーネッ!!」


「何ボズッ!!」


「ダーネ?! うわっ! ちきしょう! コイツらの事かよッ!!」


 現れたのは勿論ダーネだ。一目では数え切れない数のダーネは、膝を抱えた体勢で現れた。そして、木が育つ様に立ち上がり、男を追い掛けるセイギ達に向かってきた。


「ボッズー! コイツらの相手をするのは無駄だ! 俺の背中に掴まれ! 飛んで追い掛けるぞッ!!」

 セイギはボッズーに指示を出した。

「ほいやっさ!!」

 ボッズーはその指示に応えようとセイギの背中に向かって飛んだ。


 しかし、


「ホホホホホホホホォ~~♪ そうはいきませんよぉ~~♪ 小鳥さんぅ~~~~♪♪」


 空から声が聞こえた。


「この声はッ!!」


「芸術家ボズッ!!」


 その声が聞こえたのは二人の左方向上空、二人は素早くその方向に目をやった。

 あぁ……だがしかし遅かった。二人が顔を向けた瞬間、ボッズーに向かって高速の"張り手"が飛んできたんだ。


「グワッ!!」


 ボッズーは弾かれ飛んでいく……


「ボッズー!!!」


 突如上空に現れたのは《王に選ばれし民》が現れたあの日、セイギとボッズーが戦った巨大な手。


「あぁ、もう!! 邪魔だッ!!」

 セイギの回りにはもう既にダーネが群がってきていた。そのダーネを斬りながらセイギは言った。

「ちきしょう……またその手を使ってきたか!!」


 そして、その言葉を姿を見せぬ芸術家が笑う。


「ホホホホホォ~~♪ 『その手』とは上手い事を言うぅ~~~♪ "手段の手"と"本当の手"をかけているんですねぇ~~♪ 分かりますぅ~~♪」


「ふざけんなッ!! そんなの偶然だ!! そんな事を考える余裕はこっちには無ぇッ!!」

 セイギは焦っていた。一気に現れた敵の増援のせいで、男にドンドン距離を離されてしまっているから。男はもうすぐ公園を出る所まで行っている。このままでは逃がしてしまう……

「ちきしょう……邪魔だって言ってんだろッ!!」

 セイギはダーネを斬る事を止めた。その代わり一番近くにいるダーネの頭を掴むと、グッと地面に向かって力を入れて無理矢理ダーネの姿勢を前屈の形に屈ませた。

「ドリャッ!!」

 屈ませた勢いそのままでセイギはそのダーネの背中に登り、

「トイヤッ!!」

 背中を蹴って上空に飛んだ。


 セイギは自分に群がるダーネ達を優れた跳躍力で飛び越えようとしたんだ。


「ホホホホホォ~~♪ そうはさせないぃ~~♪♪」


 でも、当然の如く邪魔が入る。

 ボッズーを弾き飛ばした巨大な手が今度はセイギに向かって飛んでき………


 ガキンッッッッッ!!!!!


「邪魔すんなッ!!!」


 セイギは読んでいた。芸術家の作った巨大な手は、必ず自分の邪魔をすると。だから彼は飛んだ瞬間に構えていたんだ。飛んでくる手を弾丸ライナーで逆に弾き飛ばしてやろうと考えて。


「悪いなッ!! 言ったろ? 俺はお前等全員の強さを覚えておくって!! そして俺はもっと強くなってやるってさッ!!」


「そうだぞボズ!! 俺達をナメんなボッズー!!」


 セイギが巨大な手を弾き飛ばすと同時に、弾き飛ばされていたボッズーが復活し飛んできた。

 そして、素早くセイギの背中に掴まった。


「さぁ、セイギ! 行けるぜボッズー!!」


「頼むッ!! アイツを逃がすな!!」


「ほいやっさ!!」


 ボッズーは上の翼で再び空気を取り込んだ。さぁ、一気に飛んで………………きたのは火の玉だ。



「え?!」


「何……?!」



 ビュビューンモードのジェット噴射を作る為にボッズーは一瞬上空で停止した。その時だ。目にも止まらぬ速さでセイギとボッズーの前方から飛んできたのは、メラメラと燃える巨大な火の玉。

 セイギの脳裏にまるで走馬灯の様に思い起こされたのは、光体と戦った時の記憶。飛んでくる火の玉はその光体が放つ光弾と少し似ていた。だが、そのスピードは段違いだ。


「クソ……ッ!!!」

 セイギは火の玉を斬ろうと大剣を構えようとした。


 ………そう『構えようとした』のだ。



 間に合わなかったが………


「グワァーーーッ!!!」


「うわーーーーっ!!!」


 真っ赤に燃える火の玉がセイギとボッズーの体を焼いた。



 第三章、第1話 「血色の怪文書」 完

 ―――――


 第三章、第1話「血色の怪文書」を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

 火の玉に焼かれたセイギとボッズーは果たして無事なのか……次回、第2話「狐目の怪しい男」をお楽しみに!!!!!

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