第1話 血色の怪文書 23 ―探しても探しても―

 23


「う~ん……何も出てこないボズなぁ」


「う~ん、難しいか……俺、入っちゃダメかなぁ?」


 少し遠くから聞こえる正義の声にボッズーは

「ダメボズよ!」

 とピシャリと返した。

「中は柱が崩れかけているボズ、お前が入って来たら崩れちゃうかも知れないボズ! そしたら二人ともぺっちゃんこだボッズー!」


 今、正義とボッズーは昨晩火事の現場となった空き家に来ていた。その家は木造だったのか、今では外壁は無くなり、梁や柱だけが僅かに残されているだけ。その中をミルミルミルネモードに変形したボッズーが調査をしている。しかし、"それらしい物"は何も見当たらない。


「なぁ、正義……この調査は本当に必要なのかボズ? 俺、目的があまり分からないボズよ。愛の先輩が石を見付けてくれた、それがどうやら火事を起こす事に必要だ……ってくらいで良くない? 全部の現場を調べるのは時間の無駄じゃないかボズ?」

 ミルミルミルネモードは体力を使うモードだ。疲れが出てきたのだろう、ボッズーは不満げな言葉を言った。


 でも、正義はボッズーのこの意見に首を振った。

「必要だよ。決め付けは良くない。昨日の深夜の火事にも石が使われたのか調べもしないで、俺は『はい』も『いいえ』も決めたくないんだ。何も見付からないなら見付からないで、何もしないよりかはそっちの方が確かな情報になる。それに一粒の欠片でも見付けられたら、もし町の何処かに石が蒔かれていたとしても、ボッズーのミルミルミルネモードで見付け出す事が出来るかもだろ?」


 ボッズーのミルミルミルネモードは万能とはいかない。ボッズーの瞳を使うから見落としもある。しかし、探し物の情報が多ければ多い程、焦点を絞れるから見落としも少なくなるんだ。


「ちぇっ! 分かった……分かったボズよ。やれば良いんでしょ!」

 ボッズーは「はぁ……」とため息を吐いた。

「でも、セイギは石は複数あるって考えてるのかボズ? もしかしたら石は一個しかなくて、バケモノが火事の後に毎回回収してるかもボズよ?」


「ボッズー、さっきちゃんと寝たのか? 頭が冴えてないぞ」


「うぇ??」


「だって、昨日の深夜のは5ヶ所全部同時に起こったんだぞ。石が発火装置だと考えたら5個はないとダメだろ? んで、その後回収が難しいのは俺達自身が昼間に調査に出てみて分かってるだろ。バケモノが回収したくてもその前に警察が持ってちまうよ。まぁ、そうだったとしたらもうニュースで報じてくれてるだろうけどな。だから、俺は石は何個もあって毎回使い捨てだって考えてる」


「爆弾みたいな感じかボズ?」


「うん……イメージとしてはそんな感じかな。なぁボッズー、やっぱ俺も入っちゃダメか?」


「ダメボズよ!」

 また、ボッズーはピシャリと言った。


「はぁ……」

 ボッズーから『家の回りに貼られた「立ち入り禁止」と書かれたテープの内側には絶対に入るな』と現場についた瞬間に命じられて、正義は今は待機の形。だから正義はじれったい。

「う~ん……」

 正義は頭を右手でポリポリと掻いた。そして、掻いた右手をそのまますぐに落とすと左手にはめた腕時計を叩く。すると、文字盤が開き、その中から立体映像で出てきたのは一枚の写真。その写真にはスマホが写っていて、更にそのスマホの画面には一枚の紙が映されていた。

 スマホに映るその紙には、少し細長いが楕円に似た形が書かれている。その楕円は少しイビツ、片方の先端だけが細く尖っている……

「これが発火装置だとして、炎を発生させた後にもそのままの形で残るって事はないとは思ってたけど……」

 正義が腕時計から出したのは愛から腕時計を通して送られてきた先輩の絵だった。

「でも、欠片すら見付けるのが難しいのか……」

 正義は始めから『小さな欠片一つでも見付けられれば十分』と考えて調査にやってきた。でも、現場にはそれすら残っていない。


「やっぱり何も無いボズね……」


「そうか……ボッズー、仕方ない。ここはもう良い。切り上げよう。次だ!」



 ………次に正義が訪れたのは骨董品店。



 しかし、この場所はさっきの空き家よりも建物の中に物が多過ぎて難し過ぎた。


「ここもダメボズ……次行こう! 次!」


 次は宅配業者の倉庫。

 そこまで大きくない倉庫だが、ここも倉庫内の物が多くて難しかった。

 ここではさっきの2か所よりも内部が広くて大変だから、正義もボッズーから中に入る許可を貰えた。ガキセイギへと変身し、瓦礫が落ちてきても良いようにして。


 しかし、ここもダメだった……


 次は不法投棄された車。


「むむぅ! くっさいボズ!! 何なんだこの車!!」


「そりゃ元々ゴミっちゃゴミだからな、捨てるにも何かしらの理由があっただろうし、もしかしたら捨てられてから何年も経ってたかもだし、放火もされてより臭いも増しただろうし……」

 そう言いながらセイギはガサゴソと後部座席の方を調べていた。


「何を冷静な感じ出してるボズ! むぅ~~くっさい!!」


「へへっ! だって俺、変身してっからあんま臭い感じねぇんだ! へへへっ!」


「何が『へへへっ!』だ、ムカつく! もう……ガソリンの臭いもするボズぅ」


「そりゃ車だしなぁ」


「うるさいなぁ~~!!」



 結局ここも、二人の喧嘩を招いただけで何も見付からなかった……



「これじゃあ、昼間の二の舞になっちゃうボズなぁ……」


「そうなんだよ……ここまで何も見付からないとは思わなかった」


 二人は5ヶ所目の場所に向かう為に空を飛んでいた。


 さぁ、着いた。駅前公園だ。

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