第1話 血色の怪文書 22 ―英雄会議―

 22


「そうだったのか……しかし先輩が無事で良かった」

 そう言う勇気の言葉に

「うん……」

 正義も小さく呟いた。


 ダーネを片付けた後、英雄達は秘密基地へと集まっていた。そこで愛は何故先輩が襲われたのかを、正義、勇気、ボッズーの三人に説明をしたのだ。


「不幸中の幸いで、家には先輩の家族は誰も居ない時間だったから、みんな無事だって。さっきメールがきた……」

 そう話す愛の顔は疲れ切っている。愛はダーネから逃げ切ると、先輩を病院に連れて行った。先輩に怪我は無かったが『心の傷は深かったのだろう』と愛は思った。何故ならお母さんが駆け付けるまで先輩は、心ここにあらずという感じで、病院の窓の外に見える暮れゆく町並みを見て静かに涙を流していたのだから。

「でも、家は全焼だって。はぁ……」

 愛は濃いため息を吐くと、項垂れる様に切り株のテーブルの上に頭を落とした。

「私のせいだ……私が先輩に怪文書の抗議の手伝いを頼んだから。私が先輩を事件に巻き込んじゃった……私の……私の………」


「愛……」

 今にも泣き出しそうなその声を聞いた正義は、静かに愛の横に座ると

「そんな事ねぇよ」

 優しく声をかけた。

「愛のせいなんかじゃない。悪いのは《王に選ばれし民》だ」


「そうだぞボッズー! いつもみたいに元気出せボズ」

 正義の励ましにボッズーも素早く加わった。


「そうだ……」

 それに勇気も。

「……悪い奴等はいつも理不尽なものだ。突然の暴力を当たり前の様に振るってくる。桃井が気に病む必要は一切ない」


「………」

 皆の励ましの声が愛を元気付けた………という迄はいかない。しかし、愛は暗い表情のままだが、ゆっくりと顔を上げた。

「悪い奴等……か」

 そう言いながら愛は椅子から立ち上がり、基地の中を歩き始めた。その瞳は真っ赤になっている。でも、泣いたからじゃない。

「何でさ、悪い奴等っているんだろう。きっと、どうしようもない奴等なんだろうね。マジでムカつくよね……私、絶対に許せない。てか、許しちゃいけないと思う」

 ……その真っ赤は怒りで血走っているんだ。そして、その言葉は正義達に言っている訳じゃない。独り言だ。愛は自分自身と話していた。一度落ち込むと、その落ち込みは次第に怪文書をばら蒔いた人物への怒りに変わった。こめかみはピクピクと脈打ち、静かに喋りながらもその拳は強く握られている。

「顔面殴るんじゃまだ甘いかな、やるなら蹴り飛ばすくらいじゃないとダメだね……」


「………」


「………」


「………」


 愛の突然の激昂に


「………」


「………」


「………」


 男達三人は驚き、言葉を返す事は出来なかった。


 ―――――


 暫くして愛の怒りが落ち着くと、四人は先輩が見付けた"不思議な石"に関しての話を始めた。


「あの"木の怪人"は先輩に向かって襲いかかってきてたって認識で間違いないんだよな?」


 正義が聞くと


「うん……」

 愛は頷いた。

「『真田萌音、お前を許さない』って。明らかに先輩を狙ってきてたよ……」


「そうか……じゃあ、その理由はどっちだと思う?」


 この正義の質問に愛は首を捻る。

「どっち? 何が?」


「う~ん……」

『何が?』と聞かれて正義は頭をポリポリと掻いた。

「……何つーのかな? えっと……まず、先輩が見付けた石が本当に《王に選ばれし民》の物だったと仮定して、その石を先輩がたまたま手に入れてしまったから襲われたのか、それとも先輩を襲う事を敵は始めから決めていたのか……それのどっちだと思う? って意味だ」


 こう聞かれると愛は空かさず答えた。

「それは多分、先輩を襲う事は始めから決めていたって方だと思う。だって、あの怪人は先輩の名前まで知ってたんだよ。たまたま標的になっちゃったって事ではないと思うの。先輩が見付けた石も先輩を襲う計画の為に必要で、わざわざ先輩の家の前に置いたんだと私は思う。それに『許さない』って言葉、これは怪文書への抗議に対してだと思うんだ……」


「そうか……なるほどな。じゃあ、次にその先輩が見付けた石は何だと思う? 俺は二つの可能性を考えれたんだけど、一個は、石は木の怪人に対してのナビ? 誘導装置? みたいなヤツだったんじゃないかなって」


「誘導装置?」

 これは勇気だ。


「あぁ、木の怪人と戦ってみて勇気も分かったと思うけど、アイツらは明らかに知能が低かったよな? そんな奴等が独自に先輩を見付け出して襲うのは難しいと思うんだ。だから、石が誘導装置になってその場所にあの怪人を導く……」


「う~ん……」

 勇気は顔を曇らせた。


「何か納得しない感じか? じゃあ、こっちはどうだ? 石は、発火装置!」


 正義がそう言うと勇気は頷いた。

「あぁ……それだ。俺の考えはそれに近い」


「マジか!」


「あぁ、深夜に起きた火事も奴等が関わっているのは明らかだろ? ならば先輩の家を燃やしたのも、深夜の火事を起こしたのも奴等だと仮定するのが妥当だ。しかし、奴等は俺達と戦っている時に"炎を出す"なんて事はしなかった……もしそんな能力が奴等自身にあるなら、俺達と戦っている時にも出す筈だと俺は思う。でも、奴等は出さなかった……ならば、火事を起こす為に、奴等には石が必要と考えるのが一番すんなりいかないか?」


「うん! 俺もおんなじ事考えてた。ボッズー、お前はどう思う?」


「う~ん……その二つ以外にもまだまだ考えられると思うけど、その二つのどちらかって言うならどっちもボズ」


「どっちも?」


「うん、相手は《王に選ばれし民》だボズ。アイツらの物が一つの能力しか持ってないとは限らないからなボッズー」


「確かに……」


 正義は納得しかけたが、勇気は首を振る。


「いや、俺はやはり発火装置を推すな。何故なら、奴等は俺達相手に誘導装置が無くとも向かって来ていたじゃないか。桃井の事も追い掛ける事が出来ていた……それは、奴等を操るバケモノが指示を与えていたからだと俺は思うんだ。なら、指示さえあれば誘導装置など無くとも、奴等は火事を起こしたい場所に向かう事が出来るって事になるだろ?」


「うん、確かにな」

 正義の切り替えは早い。

「じゃあ、一旦誘導装置って可能性は捨てて、とりあえず発火装置だったって事にしておこう」

 そして、ここまで言うと正義は突然ボッズーに向かって素っ頓狂な事を言った。

「なぁボッズー、この話が終わったら、お前早く寝ろ!」


「はぁあ? 何だ急にボッズー?」

 そんな事を急に言われても、ボッズーには訳が分からない。


 しかし、正義には考えがあっての言葉だ。

「調査だよ。深夜に火事が起きた5ヶ所、今日の昼間じゃ何も調べられなかったじゃん? だから今日の夜中に行こう! 夜中なら何処か一つでも調べられる筈だ。その為には頭を冴えさせとかないといけねぇからな!」

 ボッズーにそう言うと、次に一拍の間も置かず正義は愛に話し掛けた。

「なぁ愛、先輩が見付けた石ってどんな特徴があるか先輩何か言ってなかったか?」


 そう聞かれた愛はスマホを見ている。

「ちょっと待ってね、今先輩と連絡取ってるから」

 実は男三人が石に関して話している間、愛は先読みして既に石の情報を先輩に聞いていたんだ。

「色は赤くて、大きさはゴルフボールくらいの大きさだって、形は先輩が絵を描いて送ってくれるって。送られてきたらみんなに共有するよ」


「OKッ!!」

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