第1話 血色の怪文書 12 ―不穏なニュース―
12
「えっ……」
真田萌音が石を発見したのと同時刻、自宅のリビングのソファに座って食後のコーヒーを楽しんでいた愛は思わず顔をしかめた。
愛の家は先輩の家よりも学校に近い、まだコーヒーを味わう時間はある。
愛は最近やっとコーヒーをブラックで飲めるようになった。でも、エスプレッソのように苦味の強い物はまだ苦手……しかし、コーヒーの苦味が彼女の顔をしかめさせた訳ではない。
その原因は、愛の隣に座っている母がザッピングするテレビに一瞬映ったニュース番組にあった。
「ちょっとお母さん、さっきのに戻して」
そう言った愛は『戻して』という言葉を言ったのに、母の手から強引にリモコンを奪うと自分の手でさっきのチャンネルへと戻した。
「………」
そして、愛は押し黙った。
画面に映ったテロップが、画面に映るその場所が、愛に緊張を覚えさせたんだ。
何故なら、そのニュース番組の右上に映るテロップには
『輝ヶ丘で連続放火事件発生 王に選ばれし民による犯行の疑い』
と出ていたからだ。
そして、その画面に映る場所は、
「駅前公園じゃん……」
愛は呟いた。そうだ、その場所は、愛が懸垂に挑んでいたあの駅前公園。
「何があったの……」
もうコーヒーを楽しむ時間は止めだ。愛はカップをテーブルの上に置くと、前のめりになってテレビの画面を見た。
口元に添えられた愛の右手は自然と強く握られる………
―――――
後一分でも家を出るのを遅らせれば確実に遅刻する……そんなギリギリまで粘って、愛はテレビから事件の情報を取得した。
事件の内容はテレビのテロップにもあった通り、放火だ。事件現場は全部で5ヶ所。
・駅前公園内の花壇
・空き家になっている民家
・不法投棄された車
・営業時間の終了した骨董品店
・宅配業者の倉庫
被害者はなし。
上記の5ヶ所は、番組の司会者によると『いずれも
犯行時刻は付近の監視カメラに映った不審者の行動時刻と、消防への通報時刻から推測するに、深夜1時。5ヶ所それぞれの場所は離れているが、5ヶ所とも全てが同じ時間だと推測されていた。
しかし、何故この事件が『王に選ばれし民の犯行の疑い』と報道されているのか、それは二つの理由がある。一つは事件現場付近の監視カメラに映った『不審者』の存在だ。その不審者は長身で灰色の体を持ち、複数で行動し、まるでゾンビの様に歩いていた。監視カメラの少しぼやけた映像でも、ソレは人間には見えない。
司会者は《デカギライ》の写真を持ち出し、『以前現れた怪人の仲間と思われる……』と神妙な顔で語っていた。
そしてもう一つの理由。
これが『人気のない場所を狙った犯行』と推測される理由にもなる。
それは、事件現場に残されていた"血の色に似た赤"で書かれた不気味な手紙……そう怪文書だ。
その内容はこうだった……
俺に逆らった罰を与える
輝ヶ丘の住民が全て消えるまで俺は行動を止めない
英雄に願っても無駄だ
奴等はいつか我が王に平伏す
今回は余興だ
次は犠牲者が出ると思え
………まるで犯行予告と取れる内容。『今回は余興だ。次は犠牲者が出ると思え』この文章から、『今回は敢えて人気のない場所を選んで犯行を行ったのではないか』と司会者は推測したんだ。
そして《王に選ばれし民》による犯行と思われる理由は『我が王』という文章から。この一文から怪文書の作成者は『王に選ばれし民の一員なのではないか?』とテレビの中の人達は推理していた。
上記の2点が《王に選ばれし民》の犯行を疑う理由。だが、愛は思った。
『疑い……という言葉はテレビ的な逃げ道を作っているだけだ』と。
だから彼女は自分自身に断言する。
『疑いの余地はない。《王に選ばれし民》との新たな戦いが始まったんだ』……と。
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